メディアグランプリ

すっぴんで過ごせる町〜都会に疲れたら足立区に住もう〜《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:紗那(ライティング・ゼミ)

「出身はどちらですか?」
「東京です。一応……」
い・ち・お・う・ね。嘘じゃない。
「えー。いいですね。羨ましい! ちなみにどのあたりですか?」
来た! このパターン何度目だろう。きっと地名聞いたら羨ましくなんてなくなるよ。
「いやいや、東京といっても下町のほうですから……」
私のこのセリフは決して謙遜じゃない。もう一度言うけど、謙遜じゃないぞ。
「下町いいじゃないですか! 浅草とか好きですよ!」
違う。違う。そっちの方ではない。困ったな。人生で一体何回このやりとりを繰り返すのだろうか。
「その辺りではなくて……。足立区なんです」
はぁ……この後のリアクションは皆だいたい一緒で予想がつく。
「あ……」
しばしの沈黙。
「そうなんですね。あれですよね……ちょっとヤンキーが多いところ?」
やっぱり……。
「あぁ、よく言われます」

こういうやりとりを人生で何回繰り返しただろう。私のふるさとは、ぎりぎり東京。治安が悪くてヤンキーが多いと有名な場所、足立区。たまに、この女もヤンキー上がりなんじゃないかみたいな疑いの目をかけられることだってある。一応お伝えするとヤンキーではありません!

そんなわけで、昔は地元が大嫌いだった。とにかくイケてない。スタバは少ないし、おしゃれなカフェや優雅なランチができる場所もない。こんなダサい町早く脱出して、オシャレなところに住んで、イケてる女になってやるとずっと意気込んでいた。
一種のふるさとコンプレックスだと思う。

そんな我が町が、あるランキングで第一位になったと聞いた。
そのランキングとは……

「住んでるだけで女子にモテなくなる東京23区ランキング第一位 足立区」

……。そもそもなんというランキングなのだろうか。これは男女共にもモテないということなのか? え? だから私も男にモテないの? 一位になった理由の中にひどいコメントがあった。
「お金なさそうだし、パンツに穴が開いてそう」という女子からのコメント。
私のプライドにかけて言わせていただきます! 

決してパンツに穴は開いていない!!

更に最近驚いたのは足立区民放送という放送局のキャッチコピーだ。

「お前も足立区民にしてやろうか」

こんなポスターが堂々と張られているらしい。
この自虐的で挑戦的なキャッチコピー……。だけど、よく考えたらこのキャッチコピーは足立区だからこそ、面白いのだ。

例えば、このキャッチコピーをオシャレな他の区に置き換えて考えてみよう。
「お前も文京区民にしてやろうか」
「お前も目黒区民にしてやろうか」
「お前も世田谷区民にしてやろうか」

は? 自慢したいの? 嫌な感じとなってしまう。それが治安が悪く、ヤンキーが多いというマイナスイメージの足立区だと、
「ぷ。足立区強がってる。ウケるんだけど!」
となるのだ。このマーケティング戦略は素晴らしいかもしれない。

そんなマイナスイメージばかりの足立区だが、私は大人になってからこの町が好きになった。

なぜなら、ここはすっぴんで過ごせる町だからだ。

地元だからすっぴんで過ごせるという意味ではない。無理に背伸びをしたり、意識高いフリをしたり、いい女ぶったりしなくていい町なのだ。

そう、心もすっぴんで生きられる町だ。

地元に強いコンプレックスがあった私は、高校生になったらオシャレな街に繰り出して、イケてる女になってやるんだと意気込んでいた。そして、高校生になると、電車で通える高校に通い、放課後は繁華街で遊び、バイトで貯めたお金でおしゃれな服を買い、イマドキのカフェ巡りをして楽しんだ。

だけど、どれだけ自分を着飾っても、想像していたような気分にはなれなかった。

あれ? 私はおしゃれでイケてる街になじめる女に近づけたはずなのに、なんでモヤモヤするんだろう? 

都会で自分をよく見せようと虚勢を張れば張るほど、なんだかとてもみじめな気持ちになる。私が憧れていたのはこういう生活だったはずのに……。上を見れば見るほど、キリがなくて、結局自分は何を目指しているのかわからなくなっていた。

社会に出れば、よりおしゃれな街で過ごす時間が増えた。勤務地の中目黒や恵比寿はオシャレな人ばかりだったし、自分が憧れている理想の生活がそこにはあった。朝から行けるスタバ、ヨガ、ソファーでくつろげるカフェランチ、隠れ家的なバー、高級な焼き鳥屋、街を彩るオシャレな人々。だけど、なぜだか、やっぱりしっくりこない。

それは私が必死に必死に都会に馴染もうとしてプライドの厚化粧をしていたからだ。

北千住の小汚くて小さな焼き鳥屋でビールを飲む私が本物の自分なのに、心にたくさんの厚化粧をしていたのだ。足立区ではそんな風に自分を取り繕う必要がない。そもそも意識高い人なんて少ないし、オシャレな服装でないと入るのが気後れしそうなカフェもない。社会的地位とか女のプライドとかそういうもので競う人々も少ない。
オシャレなお店がない代わりに、ディープで安い飲み屋はたくさんあるし、古くからやっている渋いカフェはあるし、自然の多い公園だってある。

とある休日、私は友人とよく行く焼き鳥屋にいた。ガヤガヤする店内には人がぎゅうぎゅうに詰め込まれており、美味しそうな煙が立ちこめている。不精髭の生えた元気のいい店員さんが狭いテーブルの隙間をテキパキと動き、テーブルにビールを持ってきた。
「紗那! 今日すっぴん? 地元だからって気抜きすぎ!」
「いいじゃん! 日々都会で辟易としてるんだから、地元でくらいすっぴんでいさせてよ!」
「何それ? 都会の女気取ってもあんた所詮は足立区民だからね!」
友人が昔と変わらない笑顔で笑った。
「そうだった。所詮は都会の女ではないか!」

この町は私の心をすっぴんにしてくれる。ここでは、意識が高い必要も、自分を取り繕う必要も、ハイヒールを履く必要もない。無駄なプライドなんて捨てられる。
みなさんも都会に疲れたらちょっとだけ、足立区に来てみたらどうだろう?

もれなく私が小汚いけどおいしい焼き鳥屋さんを紹介します!

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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