メディアグランプリ

鎌倉殿と、チーズはどこへ消えた?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:杉村仁子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「あっ、8時だ」
私は、掃除の手を止めテレビを正面から見られるように座った。目の前のちゃぶ台には、本が山積みになっている。12月になってから隙間時間を見つけては書籍や諸々の断捨離中なのだ。
 
気分が乗ってきた片づけを中断してまで見たいもの、それは「鎌倉殿の13人」である。現在放映中の大河ドラマだ。
 
伊豆の弱小豪族である北条義時が、源頼朝の側近となり、やがて幕府の頂点に立ち、それを徹底した武力で維持していくストーリーである。
 
私は、ふだんテレビを見ないのだが、天狼院のライティングゼミで店主の三浦崇典氏による講義を受けるなかで「先週の鎌倉殿が……」と例として出てくるため、三か月前から勉強のために録画を始めた。
 
当初は二週間分を一気に見ていたが、次第に登場人物に気持ちが入りこみ、最近はリアルタイムで視聴するために番組が始まるまでを逆算して、空いた時間に食事や作業をスケジューリングしていくようになった。
 
「今週も面白かったなあ!」
エンディングクレジットが終わって、私はテレビを切った。
 
もう少し片付けてから寝ようと、ちゃぶ台の上に視線をやると、書籍の山のなかの同じ背表紙の二冊に目がとまった。
 
両方ともスペンサー・ジョンソンの「チーズはどこへ消えた?」である。2000年に発売された童話で、世界的なベストセラーだ。
 
主人公は、迷路のなかに住む、2匹のネズミと2人の小人たち。彼らは迷路をさまよった末、チーズを発見する。ここで言う「チーズ」は、ただの食べ物ではなく、人生において私たちが追い求める仕事、家族、財産などのシンボルとして使われている。一方で「迷路」とは、チーズを追い求めるステージとなる会社、家庭、生活などを意味している。
 
そのチーズがある日、消えてしまう。ネズミたちは、本能のままにすぐさま新しいチーズを探しに飛び出していく。ところが小人たちは、チーズが戻って来るかも知れないと無駄な期待をかけ、現状分析にうつつを抜かすばかり。しかし、やがて小人の一人が新しいチーズを探しに旅立つ決心をするというあらすじである。
 
かわいらしい童話の形をとっているが、状況の急激な変化にいかに対応すべきかについて書かれているのだ。
 
我が家にある二冊のうちの一冊をプレゼントしてくれたのは、料理教室の先生だった。当時の私は、20年勤めた会社を身体をこわして退職し、しばらく休もうと決めていた。そのタイミングで以前から興味があった料理を習い始めたのだ。
 
重い腰を上げてスタートした転職活動では、不採用通知が連続で届いた。こんな私でも長く管理職を務めていたため、肩書が通じない世界で仕事を探し続けるメンタリティを維持するのは大変だった。
 
料理の先生は、変化を受け止めきれない私の心の状態を察してくれたのだろう。手渡してくれたのが「チーズはどこへ消えた?」だった。先生自身が、離婚したときにこの本と出会い、救われたのだと教えてくれた。
 
以来、落ち込みそうになるたびに「暗闇のなかでも求め続ければ新しいチーズがどこかで見つかるはずだ」と自分を励まし、なんとか転職もできた。それ以降も何かあるたびにこの本を開き、前進する勇気をもらってきた。
 
そんな風に救われた書籍なので、過去の私と同じように急激な変化に対応できずに悩んでいる人に会ったらプレゼントしようと、さらに一冊をアマゾンの中古で購入して常備しているのだ。
 
過去に異動や退職の餞別として贈った何人かには、「すごくよかった。ありがとう」と感謝されたが、残りの数人は無反応だった。彼らに対してムッとしてしまったことを思い出した。
 
「そうだ。もし、この本を北条義時にプレゼントしたらどうなるのだろう」とふと思った。
 
「いやいや、義時には通じないだろうなあ」
 
彼は、朝廷と対立する武士のトップとして、自分へ歯向かう可能性がある者を身内だろうとためらうことなく粛清していく。義時には、状況の変化にあわせて自らを変えていくという発想はよぎりもしない。むしろ、自分にあわせて現実を力づくで変えようとしているのだ。
 
逆にその姿に、一人の強い人間の生き方を見たような気がした。善も悪も超越して、本人がそれを選ぶなら、そういう生き方もありなのだ。
 
その時に気づいた。「チーズはどこへ消えた?」は、万人に希望を与える絶対的な薬ではないのかもしれない。私のプレゼントした本に全く反応がなかったのは、彼らが義時のように生き方を確立しているためか、または、チーズが目の前からなくなっていることに気づいていなかったからかもしれない。
 
それなら「チーズはどこへ消えた?」を人にプレゼントするというおせっかいをやめたほうが不快な思いをせずにすむし、いいのだろうか?
 
私は、本をパラパラとめくった。すると「変化を探知せよ。つねにチーズの匂いをかいでいれば、古くなったのに気がつく」という一文が目に入った。
 
そうか。やり方を新しく変えればいいのかもしれない。
 
次回から、ライティングゼミで培った技術を生かして自分がどのようにこの本に救われたかを2000字程度にまとめた手紙を添えて贈ることにしよう。
 
いつもこんなふうにこの一冊から気づきをもらっているのだ。
 
最後を本のなかでいちばん好きな言葉で締めたいと思う。
 
「チーズとともに前進し、それを楽しもう!」
終わり
(いや、ここから始まるのかもしれない)
 
 
 
 
***
 
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2022-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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