メディアグランプリ

泳げると鮫の餌になる


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記事:静川 謙在  (ライティング・ゼミ)

川平に泳げない理由を説明させたら右に出る者はいない。「俺、魚じゃないから。漁師になるつもりはないし。夏の紫外線は皮膚癌になりやすいという話しもあるよ」23年間この言い訳で夏を乗り越えてきた。川平は夏の暑さ以上にプールの授業がたまらなく嫌だった。仮病で授業を休んだことも一度ではない。泳げると強がっていたことも何度かある。逃げていると知っていたがそれを認める勇気は持っていなかった。学年が上がるたびに泳げない人数が減っていった。その都度友達もいなくなっていった。クラスで唯一の生存者だったこともある。海やプールへ可愛い女の子を見に行きたい気持ちはあったが泳げない姿を見られる苦痛に耐えてまで行きたいとは思わなかった。
川平は大学への進学も考えたがもうあのような屈辱を味わいたくなかったので体育の授業がない就職の道を選んだ。夏の憂鬱から解放された川平は高校卒業後5年間フリーターをしていた。バイトの仲間と冬にスキーやスノーボードを楽しんだが夏は他のバイトがあるからと海に誘われても断っていた。「家から海まで遠い。津波が怖い。鮫に食われるのが嫌」言い訳に磨きがかかっていた。「泳げない」の一言は口に出せなかった。ある日自宅の最寄り駅でポケットティッシュを配っている女性がいた。一つ貰い裏面を見ると新しくオープンするスポーツジムのチラシが入っていた。完成した建物を見て久しぶりに息が詰まった。3階建て最上階の壁面に大きな看板があり、そこには水泳帽を被った子供5人とインストラクターとおぼしき女性の笑顔が写っていた。川平は早歩きになっていた。そして走った。忌まわしさが甦ったことによる動悸の激しさを走ることによる息苦しさにすり替えた。
川平は24歳で正社員になると本当に海に行く時間がなくなっていた。夏が来てもブルーになる暇もなかったが浮き輪を見ると気分が悪くなった。「現世はこのままでいこう。来世では泳げるようになろう」川平はそれていいと自分に言い聞かせていた。無理矢理なのは充分分かっていた。
社内で最もTOEICのスコアが高かった川平は1年間アメリカへの出向を言い渡されていた。カリフォルニア州かニューヨーク州のどちらかを選べたが適当にカリフォルニアを選んだ。カリフォルニア州ロスアンゼルスでの生活は9:00~14:00まで日本食レストランで働いて15:00~18:00までは語学学校へ通う生活だった。川平は全く英語が使えないことを思い知らされた。会社に行くのは嫌だったが日本人のお客様が多かったおかげで救われた。会社で遊び相手はできなかったが、英会話スクールではみんな英語ができない共通点があるせいかすぐに出歩くようになっていた。ある日バーでクラスの仲間と飲んでいるとインド人のシャミールが日曜日に海へ行こうと話しかけてきた。酒に酔っていたおかげで川平は動揺を免れた。英語でうまく言い訳できない自分がもどかしかった。家に帰りテレビで天気予報を見続けた。雨の予報はなかった。仕方なく必死でいつもの言い訳を英語で言えるように声に出して練習し続けた。
川平は毎週図書館へ行き推理小説を借りていたが今回は水泳の本も借りた。体育の授業のように週に一度ではなく毎日海に行く機会がある。その都度適切な口実を思いつけるはずもない。川平は初めてカリフォルニア州を選んだことを後悔した。逃げきれないときの準備を模索し24時間営業のプールがあるジムに通い始めた。夜ならば泳げない姿を見られずに練習できると思ったからだ。午前1:00頃、屋外にある温水プールへ行くとそこには今度一緒に行くメキシコ人のカルロスがビート板で練習をしていた。どうやら彼も泳げないらしい。その日川平は練習をせずにその場を立ち去った。
海へ行くまでの1週間足らずでは泳げるようにはなるはずもなかったが15m位ならば溺れずに前に進むことはできるようになっていた。
当日インド人のシャミールとバベック、カルロス、川平の男4人で海へ行った。可愛い女の子2人はドタキャンした。川平は安堵した。シャミールとバベックは海へ泳ぎに行ったがカルロスと川平は海に入らなかった。「お前は泳げないのか?」カルロスは不思議そうに言った。「ああ」カルロスが泳げないことを知っていた川平は初めて泳げないことを肯定した。「俺もだ」カルロスはにんまりした。川平は知っているとは言わなかった。
日が暮れて沖から二人が戻ってきた。シャミールとバベックはニヤニヤしながら泳げない二人をからかってきた。「お前ら泳げないのかよ」リスニングはできたがスピーキングはいまいちの川平は日本語のように言い訳をすることができなかった。だが今回は2対2の互角の勝負だった。シャミールは手招きしてこっちへ来いと腕を振り回し海の中へ入っていった。川平は睨むことしかできなかったがカルロスは足がつくところまでシャミールの方へ向かって行った。そして捲し立てた。「俺達は人魚ではない。海で溺れ死にする奴らは泳げるのが得意な人間が多いんだ。お前ら二人はいつか鮫の餌になる」カルロスが俺ではなく俺達と言ったことに川平は涙ぐんだ。川平は初めて泳げないことで友達ができたと思った。

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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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