メディアグランプリ

ネガティブ・イマジネーションを引っこ抜くための、楽しい妄想のすすめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村井 武 (ライティング・ゼミ)

「こんなことが起きたらイヤだな、と思うとそれが実際に起こるんです」
「ああ、それは予知してるんですよ」

イメージトレーニングの講習を受けていたときのこと。私がつぶやいた思いに、講師が応えてくれた。「イヤだな、と思うことを予知しているのだ」と。

胸に手を当てるまでもなく、思い当る。

私は四半世紀を超えて、企業法務の仕事をしてきた。

ビジネスの現場にいる人たちの要請に応えて契約を作るとき、あるいは不本意ながら訴訟戦略を練るとき、常に念頭にあるのは「ワースト・ケース・シナリオ」「最悪の事態」だ。

ビジネスを組み立て、企画している人たちは、明るい未来を、そして往々にして、明るい未来だけを見ている。

「ここと組むと、ほんとに素敵なことができるんですよ! 契約書のドラフト作ってください」と目を輝かせてやってくる。

そんな前向きの人びとに「いや、ここにリスクがね……。だから、契約にはこういう歯止めを入れておかないと」と場を冷やす役割を担う-担わざるを得ないのが企業法務。

自分の失敗事例が頭に刻まれているのはもちろんのこと、加えて、常に他社が直面した紛争、裁判の結果を日々「勉強」して、放っておいてもシミュレーションしているわけだから「こんなに困ったことが起きるかもしれませんよ」という素材には事欠かない。

この仕事を続けていると「この前提から始まって、こんな問題がありうるよな。こんなことだって起きるかもしれないし。この条件とこの条件とが重なったら、こんな事態だって否定は出来ない……」とどんどん想像力の羽を広げることがごく日常に、たやすくなってくる。これができると一人前、みたいなところもある。

私の恩師の主張は「法律家には創造力と想像力とが必要」というものだった。私の拙い理解と経験からすると、想像力の中には「可能性としては、こんなひどいことが起き得るのですよ」というダークサイドの想像力も含まれている……はずだ。

その想像力の向う側に予知能力が芽生えてもおかしくはない。実際、企業法務以上に紛争を日常的に扱っている弁護士、それもシニアな方と話をしていて「依頼者が来た時には、話を聞く前に結果が見える」と言った発言を-もちろん、カジュアルな、非公式の会話の中で-聞くことも少なくはない。

想像力、イメージ能力の延長線上には予知能力がある。それは普通の人が備えうる能力だ……ああ、こういうことを口にして、書いてしまうから「あの人、ちょっとアヤシイよね」と言われてしまうのだろうが、実感なのだから仕方ない。

問題は、これが仕事の場を超えて日常生活、人生一般に及び、どうもダークサイドの予知ばかりしてしまうことにある。これは、シンドイ。

育ってしまった想像力を今さら小さくすることもできない。

どうしようかなぁ、と思いあぐねていたとき、ふと気付いた。絶対値としての想像力は結構育ってしまった。問題は、それがネガティブ、ダークサイドに敏感になっていることだ。でも、世の中には明るいことを予知して実現している人もいる、はずだ。

そう思って回りを見回すと、確かにあれこれ、想像力をストレッチできるのに、嬉しいこと、楽しいこと、大好きなことばっかり語る、いわばおめでたい人がいる。

おめでたい人は、リスクを回避できず、足をすくわれるかというと、そんなことはなくて、結構うまいこと、賢く危険をよけて、その上でおめでたい人生を送っていたりする。

そんな人たちの想像力は、放っておいても、明るい方に、光を求めて広がっている。あ、そうか。方向を変えればいいんだ。

仕事は仕事として、それ以外の場では嬉しいこと、楽しいこと、大好きなことに向けて想像力-それはもう、妄想力と呼んだ方がいいかもしれない-を使えば、絶対値としては大きく育った想像力と予知能力とを、明るい方向に使うことは、そんなに難しくないはずだ。

実際、冒頭で紹介したイメージトレーニングの講師は、あらゆる講座の受講生に対して日常に起きた「ちょっといい話」を記録することを宿題として課している。成長した想像力を明るい方向に使うことで、明るい未来を引っ張ることができるから、そして、光への方向転換はよい話を記録し、自覚することで可能だから、これを勧めているのだろう。

ダークサイドに延びたベクトルを光の方向に転換することは、自覚的にできる。

想像することに制約はない。嬉しくて、楽しくて、大好きなことを想像・妄想することで、おめでたい人になれる。と、言うことは、望みも叶う?!

仕事柄、若い法学部の学生や、企業法務を目指す人たちの前でお話をすることが結構あるのだが、ここ数年は必ず、最後にこれを伝えることにしている。

「学校を出て、社会に出てからも、今好きなことを考え続けて下さい。好きなことがない人は早くそれを見つけましょう。そして、毎日、毎日、毎日、楽しいことを妄想して、おめでたい人になりましょう。人生楽しくなりますよ! 多分!」

もちろんこう語るとき、若い皆さんのみならず、自分にも言い聞かせている訳です。

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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