メディアグランプリ

卵が先でもいいじゃない。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:宮澤輝(ライティング・ゼミ)

皆さんはどんな丼が好きですか?
ふっくら卵で閉じたカツ丼。
野菜やエビをあんで絡めた中華丼。
醤油が香る甘めの味付けが決め手の牛丼。
いろいろな丼がある中で私が一番好きなのは親子丼だ。
とろっとろの卵に閉じこめられた鶏肉と玉ネギ。
それらをつつきながらつゆの染みたご飯をかき込む。
山椒が入った七味をぱらりと振りかけてしまえばもう箸が止まらない。
私は親子丼を愛している。
だからこそ、最高のタイミング、テンション、シュチュエーションで食したいのだ。

平日のランチなら大丈夫。
そう高をくくっていた数十分前の自分を殴りたい。
目の前の行列は一向に動く気配がない。
にもかかわらず、自分の後ろに並ぶ人はどんどん増えていく。今更列を離れるのはしゃくだが、携帯の電池も読みかけの小説の残りページも残りわずかだ。
親子丼の名店に行ってみたい、という衝動のまま出かけたものの、至高の丼への道はまだまだ遠い。こんなことだったら誰か誘えばよかった。少なくとも容赦なく吹き抜ける風への文句を言えるのだから。
「……ケンカ、しなきゃよかったな」
昨日、ホットミルクにウイスキーを入れすぎたのが悪かったのか。
それとも、アイツが徹夜三日目で苛立っていたのが悪かったのか。
お互いに虫の居所が悪かったのは確かだが、結果は最悪だ。
受話器経由で行き交う、言った言わないの押し問答。
ヒートアップした私の脳味噌は沸き出した言葉をそのまま口から放り出す。
どのセリフが引き金だったのかはわからない。
でも、受話器に吸い込まれた暴言を回収するのは不可能だ。
「もう、二度と会うか!」
がちゃり、と切れた電話。電子音しかしない受話器がベタベタで気持ち悪い。
久々のデートだからと買ったスカートはいつの間にかハンガーから逃げ出して床にべちゃりと落ちていた。

スカートに罪はない。そう思って着たはいいが、裾が落ち葉と一緒に巻き上がりそうだ。
念のため履いた厚めのタイツで防御はしているが、染み込んでくる寒さには無力だ。
足首も膝も寒くて仕方ない。
親子丼への道は徐々に短くなってはいるものの、ありつけるのはまだまだ先だ。
ここまで耐えたんだ。どんなに寒くても親子丼は死守したい。
師走のような冷え込み、とテレビで言っていた。
去年よりはマシ、と美人な天気予報師が言っていたのだが、本当にそうなのだろうか?
ふとそんな疑問が湧いてくる。
今年より進軍は遅かったものの、威力は絶大だった冬将軍。
マフラーも手袋も手放せなかった。
けれど今以上に辛かった、というイメージはない。
なら、今と何が違うのだろうか?

「卵が先だって!」
「いいや、ニワトリだ!」
「卵からしかニワトリは生まれないんだぞ!」
「ニワトリからしか卵を生めないんだぞ!」
突然、後ろから可愛らしい激論が始まった。待つのに飽きた子供たちの戯れがヒートアップしたのだろう。やめなさい、とたしなめる女性の声も焼け石に水だ。
確かに議論のしがいはあるだろう。未だ結論が出ていない有名な問の一つだ。
何せ両者の主張とも有力な証拠がない。
証拠がないから相手を否定することは簡単だ。
だが、自分の主張が正しいと認めさせるのは不可能に近い。
証拠のない主張同士がぶつかれば水掛け論にしかならない。
どんなデットヒートを展開しても意見が交わることはあり得ない。

「いい加減にしろっ!」
ごちん、ごちん、と雷が二つ落ちて行列は静寂と取り戻す。
だが、騒ぐならおまえたちには食わせないという脅しの言葉と共に盛大な泣き声が二つ行列に襲いかかる。
俺悪くないアイツが悪い、の二重奏。
鼻水をすする音まで聞こえてくる。
そして、そこにまた一つ音が重なった。

「ぶはっ!」
吐き出したら止まらない。
涙と一緒につっかえていたものが笑い声と一緒にあふれ出す。
なんて滑稽なんだろう。
なんてまぬけなんだろう。
真剣なのに、いや、真剣だからこそ滑稽でまぬけで面白いのだ。
答えのない問で行う水掛け論。どんなにずぶ濡れになっても乾くことはない。
こんな寒空の下ではもれなく風邪をひいてしまう。
かわいらしいファイターが繰り広げるその様に私は覚えがある。
いつの間にか止んだ鳴き声のかわりに投げつけられる視線たちがちょっと痛い。
「すんませーん」
両手をあわせてへらりと謝罪をしてからすぐにスマホに逃げ込んだ。
LINEを立ち上げ、一心不乱に文字を打つ。
他人の振り見て我が振り直せ。
心の中でつぶやいたはずなのに耳まで痛くなってきた。
確かに今日アイツとデートする約束をとりつけたのは私だ。
だけど、徹夜明けだろうから行き先は当日ゆっくり決めようと言ったのはアイツだ。
二週間前にできた穴だらけの計画。
その穴を埋めようと電話したのが昨日ではあまりにも遅すぎる。
横から見ればこんなにも簡単で分かりやすいのに、なんで昨日はわからなかったんだろう。
[昨日はごめん。]
そう書き込むとすぐに返答が返ってきた。
[こっちもごめん、今、どこ?]
かじかんでいたはずの手が素早く打ち込む。
[行きたかった親子丼の店。]
[待ってて、今幾。]
飛び込んだ誤字に私はまた吹いてしまった。

***
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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