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奥様が魔女になってしまった恐怖が、明るい未来に見えてきた。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小野勝秋(ライティング・ゼミ)

「ここはインドなのか?」

数年前、妻の部屋に突然異変が起きた。

僕の住んでいる家は賃貸マンションで四つの部屋を、居間兼食堂、寝室、物置(本来は普通の部屋なのだが物置のように使っている)、そして妻の仕事部屋として使い分けている。
お気付きのように僕の部屋はない。寝るとき以外は居間のソファーが、自宅での僕の居場所になっている。
妻は在宅の仕事を受けていたため、最も陽当たりが良く快適な部屋を、引越しのときに最優先で手に入れた。僕には何の異論をはさむ余地もなかった。

ある日、たまたま妻専用の部屋に入ってしまった僕の目に映ったのは、まるでインドの物産展でも開催しているかのように、なにやら怪しげなグッズで溢れかえっている部屋の状態だった。
普段僕は、特別なことがない限り妻の部屋には入らないようにしているので、まったく気づいていなかったのだが、ついにそれを発見してしまったのだ。

上質な木でできた香台、パワーストーンの数々、巨大な音叉、曼荼羅のポスター、その他もろもろ、所狭しと怪しげなグッズが並んでいた。

思わず「なんだこれ〜!」と叫びたくなるところをグッとこらえ、
「なんか部屋の雰囲気が変わったね」と控えめな問いかけを投げてみた。
「そんなことないよ、なんで?」と逆に突っ込まれて、スゴスゴと退散した。

いまにして思えば、妻は以前から不思議な能力があった。
結婚した当社は霊感が強く、僕には何も見えないのに何かが見えていた。よく「その辺に何かいるからここはダメだ」とか「ここにいると息苦しくなる」とか不思議なことを言っていた。
また初めての場所に行ったのに「ここ先週きた」とか言い出し、僕を驚かせていた。いわゆるデジャブっていうやつだと思う。

数年前にはアニマルコミュニケーターの認定を受けて、近所に散歩に出かけては犬や猫とよく会話していた。実際に声を発する訳ではないので、僕にはどんな会話をしているのかはまったくわからないのだが、動物の表情を見ていると何か話をしているように見えないことはなかった。
一度いっしょに富士サファリパークに行ったときは、ほとんど放し飼い状態の馬やアルパカが、なぜか妻のいる方に寄ってきて「話を聞いてくれ」と言って甘えるような仕草をしていた(ように見えた)。ほとんど出会う動物とコミュニケーションを取ろうとするため、園内を周るのにほぼ丸一日を費やして、とても疲れた思い出がある。

その怪しげなグッズを発見してからしばらくして、妻の部屋からときどき変な音が漏れてくるようになった。以前からヨガや瞑想をしていて、たまに僕もすすめられることがあったのだが、おそらくいま流行りのマインドフルネスの一種かなにかをしているのかと思った。しかし妻がやっているのはその手のものではなく、どうやらもう少しディープ感が漂うような、何かの修行のようなもののようだった。
ちょっと耳をすまして聞いてみると、誰かとしゃべっているような、それにしてはちょっと音楽のようにリズミカルな、例えて言うならば、ハロウィンに出てくる黒いマントをきた魔女が、何か敵対する相手に対して呪いをかけている呪文のようにも聞こえた。

「まさか、そんなことはないだろうな」
そのとき僕は慌てて、もしかして自分が呪われているのではないのかという恐ろしい疑問を、頭から振り払った。

そんなある日、たまたま食器棚の引き出しを開け箸を取ろうとしたときに、僕は一瞬心臓が止まるかというほどの驚きを感じた。そして背筋に強い寒気を感じ両腕に鳥肌がたった。
引き出しの奥にあったのは、無残に変形してしまった2本のスプーンだった。
よくテレビに出てくるエセ超能力者がやっている、一瞬で90度くらい手前に曲げるような形ではなく、まるで体操の白井健三ばりのひねりを決めたかのように、綺麗に首のところがねじれながら曲がっているのだった。
手の力か何かで曲げたのではないかと疑った僕は、曲がったスプーンを元に戻そうと力を加えてみたが、とても素手で簡単に戻せるようなものではなかった。ましてや女性の握力や腕力では、到底無理なことだとすぐにわかった。

どうしようかと思ったが、そこまで気づいていて黙っているのも気まずいので、勇気を出して妻に聞いてみた。
すると「あっ、それはこの間の研修会でみんなで練習したときのスプーン」とあっさりと応えられてしまった。
「みんなで研修って、いったいなんの集まりなんだ!」という言葉を、またしても僕はそのまま飲み込んでしまった。

そんなことがあってから一年ほどが経過した最近のことだ。その日の朝は今シーズン一番の冷え込みで、寒さが大の苦手である僕は朝から全身の動きが鈍くなっていた。そしてタンスからズボンを取り出そうとして屈んだときに「あっ!」やってしまったのだ。寒くなるこの時期によく起こる腰痛である。
まったく動けないほどではないものの、痛みで腰をまっすぐに伸ばすことができず、自分で見ても情けなくなるような歩き方で移動せざるを得なかった。たまたまその日は外出する予定はなかったので家でおとなしくしていたのだが、それでも夜になっても痛みは変わらなかった。むしろ増していたような気がしていた。

そんな僕の痛がる姿を見て、とつぜん妻が「ヒーリングやってあげようか?」と言ってきた。
妻がやろうとしていたことはヒーリングだったのかと、そのときはじめて知った。魔女の呪いではなかったのだ。
そのヒーリングとやらが、どれだけ効果があるのかどうか半信半疑だったので、断ろうという気持ちもあったのだが、折角の機会だから試してみたいという気持ちが勝っていた。それに誰か他人が犠牲になる前に、自分自身で体験しておくことが夫としての僕の役目だと都合よく思ったのだ。

マットにうつ伏せになっていると、それはスタートした。
「ボ〜ン、……、ボ〜ン、……」
巨大な音叉が静かな空間を包むかのように鳴り響く。うつ伏せになっているから、実際には何がどうなっているのかはよくわからないのだが、静かに音叉の音だけを聞いていると、なんとなく癒される気分にはなるとは感じていた。

20分ほど経っただろうか「はい、これで終わり」との声で、妻のヒーリングは終了してしまった。
「なにか変化あった?」と聞かれたので、
「なんとなく気持ち良さを感じた」と嘘とも本当ともつかない応え方をした。
「……」
折角やってくれたのに、もう少し気のきいたことを言った方がよかったかなと、少し後悔した。

立ち上がろうとした瞬間に「あれっ!」思わず僕の口から声が漏れた。
ヒーリング直前までは、腰を曲げた状態でしか立てなかったのだが、いまは腰をまっすぐに伸ばした状態で立てるようになっていたのだ。
ちょっと信じられるまでに時間がかかったのだが、間違いなく腰をまっすぐに伸ばして立てているし、その状態で歩くことも可能になっていた。
正直に「なんか良くなったぞ!」と伝えると、妻は一瞬うれしそうな満足げな表情をした。

その翌朝、今度は熱だ。寝る前から喉と関節に痛みがあり嫌な予感がしていたのだが、体温計で測ってみたら『38.5』のデジタル表示に思わずのけぞりそうになった。その日の夜は、主催するイベントがあり知り合いも招待していたので、日中はできるだけ安静にしていた。なんとかならないかと困ったときの神頼みだったのだが、出発の時間になってもまだ『37.8』だった。魔女はいても神はいないのだろうかと、苛立ちを神にぶつけてしまい反省した。

熱が下がっていないことを妻に伝えると「遠隔ヒーリングをやってあげる」といわれ、前日の腰痛でヒーリングの信頼度は上昇していたので、一応お願いすることにした。
しかし遠隔ヒーリングがどんなものなのか、まったくわからなかったのだが、その日のイベントは19時から映画上映を予定していると妻に伝えたら、その時間に合わせて送るからリラックスしているようにと言われた。

その映画はすでに何回も観ているし、僕は鑑賞者ではなく主催側だったので、特に意識することもなくリラックスした状態で、正直ヒーリングのこともすっかり忘れていたのだ。
映画が終わりその後のプログラムもこなし、無事イベントが閉会したときに、あることに気がついてようやく遠隔ヒーリングのことを思い出した。カラダが昼間より楽になっていた。念のため確かめるために熱を測ってみたら、体温計の液晶には『36.5』と表示された。
「……」
いったい何がどうなったのか。自宅とイベント会場は距離にすると30kmくらい離れているのだ。ヒーリングとやらは一体どうやって自宅からここへたどり着いたのか、しかもピンポイントで僕の体に。考えれば考えるほどわからなくなっていくが、ただ熱が下がっていたことだけが、確かな事実として体温計に表示されていた。

僕の体を張った人体実験には、まだ続きがある。
熱は下がったものの、まだ全快というほどではなかった翌日、今度は電車で2時間かかる場所に行く予定になっていた。
そして再度お願いした遠隔ヒーリングは、電車に乗っている間にやることになり、電車で座ったらリラックスするようにという指示があり、ただし降りる駅で寝過ごさないように注意しろと付け加えられた。
最近は酒でも飲まない限り、電車で寝ることはなかったので、それはいらぬ心配だと内心では思っていたが、それは言わない方が良いと直感した。

日曜日の午後の急行電車は、意外と混んでいた。妻から「これから送るので意図して」というメールが来た。僕は「座れてないよ」と返信すると「座れたら意図して時間は関係ないから」と返ってきた。つまり送ったときに同時に受け取らなくても、僕が受け取れる状態になったと思ったときに、受け取ることができるということのようだ。

なんかSF映画を観ているように面白くなってきて、早く座れないかなと子供のようにウキウキしていた。こういうときに限って前の席が空かずに、あとから乗ってきた人に先に席を取られてしまい悔しい思いをする。しかしここでイライラすると遠隔ヒーリングに影響すると思い、できるだけ平静を装った。

30分くらいしてようやく前の席が空き、座ることができた。「意図する」のだったな。妻のメールを思い出しそうしようと思ったが、といってもどうすればいいのかよく分からなくて、仕方なくとりあえずスマホでSNSの投稿をチェックし始めた。というところで、僕の記憶は途切れてしまった。

気がついたのは、車内放送で乗り換えのために降車する駅に到着するアナウンスがあったときで、座ってから約30分どうやら熟睡してしまっていたようだ。あわてて僕は電車を降りた。まさか本当に寝てしまうとは、しかも眠いとかそんなことを思うまもなく。一体全体何がどうなってしまっているのだろう。その時にはもう僕には、遠隔ヒーリングを疑う気持ちはこれっぽっちも残っていなかった。
それよりも僕は、魔法のランプを手に入れたアラジンのような気分になっていた。

確かアラジンはランプを手にいれて、皇帝の姫と結婚し、後に皇帝になって、市民に慕われるような善政を行なったというハッピーエンドだったはずだ。

僕はこの妻の持つ力を信じることにした。
そしてこの力を借りて、何か人の役に立つことができないかを考えたいと思った。

もうしばらくは人体実験のマウス役を引き受けながら。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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