メディアグランプリ

毎朝7時のクリスマスプレゼント


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ゆりりん(ライティング・ゼミ)

 

 

「またご飯と納豆かよ……」

 

 

キッチンに立つ私に聞こえる。

この言葉に怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく、ただ受け止める。

言い返したってしょうがない。だって、自分の心のつぶやきだから。

 

 

自分のために作る朝食は、どうしても手を抜きがちになる。食べられればいいんだもの。見栄えなど気にしなくていい。とにかくお腹の中に食べ物を入れて、午前の仕事を乗り切る。目的はただそれだけだ。

 

 

ご飯と納豆と味噌汁。納豆が目玉焼きに変わることもある。

キッチンは1コンロしかない。味噌汁を作り終えないと、目玉焼きを作ることができないという非効率なコンロだ。誰かに見られているわけでもないので、キッチンに立ってその場で食べる。目の前には、鍋、コンロ、洗いかけの皿。

 

(誰も見てないし、いいよね)

 

心のつぶやきが聞こえる。こんな姿誰にも見せられない。こんなに手を抜いた料理なのに、まな板、包丁、鍋、お茶碗、お椀など使う。洗い物は最低5個はある。

 

 

(洗い物の量多いな……。時間ないし、あとでいいよね)

 

 

朝は時間がないという理由をつけ、洗い物を放置したまま出勤。帰宅後洗い物の山を見て、夕飯を作る気もなくなるという負のスパイラルへと陥るのであった。

 

 

 

 

こんな生活を続けていたある日、会社の健康診断があった。

 

「次の方どうぞー」

 

去年も診てくれたであろう看護師さんに呼ばれ、席を立った。

 

「身長と体重を量りますね」

 

靴を脱ぎ、体重計にのった。

 

「このような結果でした」

と看護師さんが数字を書いた紙を私の目の前で広げた。

 

(あ、まずい……)

 

なんと、体重が減っていたのである。体重が減るということに対して、大半の人は喜ぶかもしれない。しかし、痩せればいいってものではないと私は思う。心と身体が一番健康でいられるベスト体重というものがあって、それ以下になると途端に風邪をひきやすくなったりする。

 

健康診断の結果数値は、自分のベスト体重を下まわっていたのだ。

 

思い返してみると、最近薬指の爪がぼこぼこし始めた。調べてみると栄養不足らしい。

体重減少、栄養不足。毎朝、同じごメニューばかり食べていた結果、心は飽き、身体にも悪影響がでていたのだ。

 

 

健康診断の結果を受けて、朝ごはんに栄養のあるものを食べることに決めた。しかし、朝から野菜を洗って皮を剥いたり、醤油やみりんなどの調味料を使った料理をする気力はない。

しかも、1コンロしかないキッチンで。手間をかけずに、美味しい栄養のある食事を、どうやったら実現できるのであろうか。

 

 

Macで検索し、ある方法が目に止まった。

 

 

それは、「つくりおきおかず」だ。

つくりおきおかずとは、自由な時間を利用してあらかじめ作っておき、保存容器に入れたおかずのことだ。時間のない朝や仕事から帰ってきて疲れている夜には、なるべく手間をかけずに美味しい料理が食べたい。でも、インスタントや冷凍食品に頼りたくない……。そんなときに便利なおかずらしい。

 

 

まさに、私のことではないか! さっそく、保存容器を買いに行くことにした。再びMacで検索し、ホーロー容器が良いとの情報を得た。錆びにくく、食品を腐らせいくい容器だ。白い見た目も美しく、食卓にそのまま出しても違和感はない。

 

 

さっそく無印良品に自転車を走らせ、3つ購入した。もともと料理をするのは好きな方なので、土曜日の午後にまとめておかずを作った。かぼちゃの煮物、小松菜のおひたし、さつまいもの甘煮、かぶの漬物。秋の味覚が満載だ。

 

 

約4時間かけて作り終え、ホーロー容器に詰めた。完全に冷えるまで、しばらく放置。

プラスチックのタッパーと違って、机の上に並べていてもなんだかおしゃれに見える。

ホーロー容器を並べた真上から、写真をとって加工したら、インスタ用のおしゃれ画像ができるだろうなとか考えながら、そそくさと蓋をした。蓋に空気を外に出すバルブがついているので密閉ができ、煮物汁を入れても漏れない。もちろん匂いも漏れ出さない。

 

いよいよ、冷蔵庫へ。同じ大きさのホーロー容器を重ねて置いた。近くにあったブロッコリーの緑とのコントラストで、白い容姿はますます美しさを放っていた。しばらく冷蔵庫の中を満足げに眺めた後、食器洗いにとりかかった。

 

 

休日の半分が料理で終わってしまったが、このおかげでこれから先の3日間は食べ物の心配をしなくていい。

 

 

その日の夜、ベットに入りながら、明日の朝は白いご飯と味噌汁と納豆に加えて4品も食べられるんだというわくわく感に包まれた。身体に栄養を与えることができる。

早く明日が来ないかな。朝目覚めるのが楽しみでしかたがない。

 

 

この感覚、なんだかクリスマス・イブにベットに入る感覚に似ている。

サンタさんからのクリスマスプレゼントは、自分がお願いした通りのモノが届くはずだという確信がある。そんな風に思えるのは、サンタさんへの信頼感があるからだ。プレゼントが確実にもらえるという未来への安心感があるからこそ、もう少しで手に入るというわくわく感が生まれる。だから無性に興奮する。

 

 

私にとってのつくりおきおかずと同じだ。翌朝の冷蔵庫には必ずおかずがあるという安心感と、

朝から栄養バランスの良い食事が食べられ、気持ちよく出勤できるというわくわく感で心が満たされる。

 

 

ホーロー容器は、私の毎日をクリスマスに変えてくれた。毎朝7時に、つくりおきおかずというクリスマスプレゼントを毎日私に届けてくれる。

日常を彩るには、毎日を丁寧に暮らすことが一番の近道なのかもしれない。

 

 

 

***
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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