メディアグランプリ

抽選会の特賞が、ポケットティッシュだった話。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:八千子(ライティング・ゼミ)

 

「12月の予定、教えてくれない? 24日とか、25日はどうかな」

この電話がかかってくると、ああ、また今年もクリスマスがやってきたんだと思う。

「あいてますよ。っていうか、あけてますから、大丈夫です」

「じゃあ、また今年も頼むね! 抽選会!」

 

私は毎年12月になると抽選会場のイベントスタッフとして駆り出されていた。クリスマスに特別な予定など一切なく、暇を持て余している私にとって、抽選会のイベントは稼ぎ時でもあり、楽しいものでもあった。

 

街の景色がクリスマス仕様に変わり始めると同時に、商業施設などではこぞって抽選会が開催される。抽選の方法は場所によって様々なものがあり、単純にくじを引いたり、スクラッチカードを削ったりするものもあるが、わたしが担当していたのは「ガラポン」と呼ばれている抽選器を使ったものだった。木製の箱にハンドルがついていて、くるりと回すと色のついた玉が飛び出してくる。その玉の色に応じて賞品が決まっているのだ。おそらく誰しも一度は「ガラポン」形式の抽選を行ったことがあるのではないかと思う。

 

こういった抽選会は、お客さまの購買意欲がグンと高まる夏と冬の年2回行われることが多く、特に冬の抽選会はクリスマス商戦や、お正月の準備に向け普段の倍近く売上が上がるため商業施設の担当者はもちろんのこと、その商業施設に店を構えている店舗スタッフ一同、気合いを入れて挑む大イベントなのだ。

 

抽選会のイベントには、いくつかコツがある。その一つが「鐘」を鳴らすことだ。特賞や一等が出た時に、大きく響き渡るようにガランガランと鳴らすことで「当たりの玉が出た」と、目の前のお客さまにむけて大きく盛り上げる役割はもちろんのこと、「あ、良い賞品が当たったんだ」と、まわりのお買い物客に知らせる役割も担っている。鐘の鳴らし方にはコツがある。初めてイベントスタッフの仕事をした時に「手首をスナップさせないと、良い鐘の音は鳴らないよ」と教えてもらい、大きな音が鳴るようになるまで、何度も練習したほどだ。

 

私が担当する抽選会は12月上旬から12月25日までの約3週間開催され、3000円のお買い物で1回抽選ができる。500円のお買い物ごとに抽選券を配り、6枚で1回抽選できる仕組みだ。抽選会が始まったばかりの頃は抽選しにくるお客さまも少なく、あまり鐘の音も響かないため、

「当たりの玉、入ってないんじゃないの? 赤とか緑とか、たいした玉出ないじゃん」とお客さまにからかわれたりもするのも毎年恒例のことだった。

 

赤い玉はハズレのポケットティッシュ。緑の玉はお菓子か商業施設で利用できる100円の金券が選べるようになっている。

特賞は金色で温泉旅行ペアチケットだったので、お客さまは皆「金色、金色……」とつぶやきながら抽選器のハンドルを回すものの、出てくる玉はほぼ赤色。

「赤玉、末等のポケットティッシュです!」と元気よくハズレのティッシュを渡され苦笑いをしつつも、「そんなに簡単に、旅行は当たらないわよねえ」と言いながらポケットティッシュを受け取って帰っていく。

小さなお子さま連れのお母さんは、商業施設で使える金券よりも「おかし!」と目を輝かせながら、いくつかのお菓子の中からどれが良いか、真剣に悩んでいる我が子を愛おしそうに見つめている。500円の買い物で渡される抽選券が1枚足りず、困っているお客さまに、「私の券、使って下さい。もうここでお買い物しないから」と、すでに抽選を終えたお客さまが券を譲っている。抽選会場は商業施設の出入口付近に設営されているので、自動ドアが開くたびに風が吹き込んできて寒いのだけれど、心温まる風景もたくさん見られるのだった。

 

 

抽選会も最終日の12月25日となると、かなり大勢のお客さまが抽選会場に並ぶ。中にはひとりで50回、100回と大口の抽選をおこなう人もいて、抽選会場は大混乱だ。

私は一番端の、自動ドアに近い抽選器の担当だった。

悩みに悩んだお菓子を2つ、両手に持った子供が帰っていき、次のお客さまを呼ぶために準備していた時、

 

「すみません!」

大きな声で呼ばれたため、ふと顔をあげた。

 

その青年は鼻血を出していた。

しかもティッシュを持っておらず、ハンカチで鼻を押さえていた。

 

「あの、抽選券はあるんですけど、並んでる場合じゃないので、これ、ティッシュに変えてくれませんか?」

そう言って、青年は抽選券を私に見せてきた。

私は一瞬パニックになった。

めちゃくちゃ流血している彼を見て、咄嗟に判断できなかったが、差し出された抽選券を確認し、抽選回数分のポケットティッシュを彼に渡した。

「すみません。ありがとうございました。助かりました!」

そう言って、彼はすばやくティッシュを鼻に詰め、足早に去っていった。

 

一瞬のできごとだった。

 

あの鼻血を出した青年には特賞の温泉旅行ペアチケットよりも、ハズレのポケットティッシュが何よりも欲しいものだったんだ。

人が欲しいものは皆同じではない。もちろん高価なものや、特別なものが欲しい気持ちは誰にでもあるけれど、その人にとって一番欲しいものとは限らないんだ。

彼が一番欲しかったものは、ポケットティッシュだった。緊急事態だった彼は、この場でティッシュがもらえたことは救いでもあり、特賞以上の価値があったにちがいない。

私は鼻血を出していた青年にむけて、心の中で「ガランガラン」と大きく響き渡るように鐘を鳴らした。

 

今年もそろそろ、街がクリスマス仕様に変わり始める。

聖夜、街の中で響き渡る鐘の音を鳴らすのは、あなたかもしれない。

 

***
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2016-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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