ペンと剣。どちらが強いか比べるよりも大切なこと。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:あわづりつこ(ライティング・ゼミ)
「ペンは剣よりも強し」
といったのは確かイギリスの政治家であり小説家ブルワー・リットンだ。戯曲『リシュリュー』の中で主人公のフランス宰相リシュリューに言わせた台詞だったと思う。
私に言わせれば、どっちも強い。
そしてどちらも一筋縄ではいかない。簡単に扱えるとなめてかかると、痛い目にあう。
2年ほど前、私は途方に暮れていた。
「道」とつくものを習いたいという思いを何年も先延ばしにしていたのをようやく決断し、居合を習い始めて3ヶ月ほど経った頃。ちっとも上手くならないことに嫌気がさし始めていた。教わった通りにやっているつもりなのに、自分だけ全く進歩がない。他の人はひゅっ、ひゅっとかっこいい刃音が鳴るのに、自分だけ全く鳴らない。同時期に入門した「同期」も刃音を鳴らし、それらしく振っているのに。
私だけ、どうして?
もう一度周りを見ると、あの人はここがおかしい、あそこも変だ、と色々できていないポイントが見つかる。私はあそこのところはできていると思う。大丈夫。私だけできてない、なんてことはないはずだ……。
確認して、心の中でちょっと安心する。
毎週稽古のたびにそれを繰り返していた。進歩が感じられないモヤモヤ感は相変わらず胸の中に巣食ったままだ。
恥を忍んで白状すると、私はかなりいろんなことを「なめて」いた。わりと器用なほうなので、新しいことも「そこそこ」までがわりと早い。できなくて泣きながら練習したことといえば、小さい頃習っていたピアノと、高校の体育でやらされたなわとびの後ろ二重飛びぐらい。そもそも練習量は圧倒的に少なかった。なんとかなるさとタカを括らず、毎日少しずつ練習していればギリギリで泣くこともなかったはずだ。要は、練習とか、稽古とか、そういうものが大嫌いだった。ちょっとやってできなければ辞めてしまう。歯を食いしばってやり通す、とかができない意気地なしの根性なしだった。
居合を始めた時も、様子は似ていた。うちの流派は基本の型が20種類あるのだが、初心者用の教本を開いたとき、「なんだ、たったの20だけ? そんなのすぐじゃん、ちょろいなー」とタカをくくっていた。初段まで1年かからず上がれるつもりだった。大人になっても「なめた」態度は一向に変わっていない。
入門して半年ほど経ったときの国際大会で、自分より後に始めた子が同じ階級で優勝した。打ちのめされた。まさか? なぜ? 私より後に入ったのに? そんなに上手かったっけ、あの子?
「あ〜とか〜ら〜き〜たぁの〜に〜、お〜いこ〜さ〜れ〜……」水戸黄門の歌が頭の中でリフレインし続けた。
今、また同じ感覚に苛まれている。
天狼院書店のライティングゼミを受講すると得られる、「メディア・グランプリ」への挑戦権。コンテンツとして面白ければ、天狼院のサイトに掲載されるという、16週間の数稽古である。
これに参戦中の私は、書けない、面白くない、ネタがない、の三重苦。
それでも、主宰の天狼院店主三浦さんの、「書き続けることで見えてくるものがあります」という言葉だけを頼りに、なんとか毎週出し続けている。
ネタが思いつかず唸っているところにヒラリとアイディアが降りてきて、喜び勇んで書くものの、書きあがった文章はちっとも納得がいかない。自分で面白くないものを人に面白がってもらえるわけもなく、落選の日々は続く。三浦さんからのフィードバックは、自分でも予見していたものと一致するときもあれば、ああそうだったか、そんなにだったかと消えてしまいたくなるような時もある。一方、他のメンバーの文章はいつも面白くて、ネタを見つける視点や、その読了感の良さを、羨ましいと感じる。時には嫉妬さえも覚えるほどだ。
なんで、みんなそんなに書けるのだろう?
なんで私はこんなに書けないし、面白くないのだろう?
ちょっと待って。これ、あの時と同じだ。
居合がぜんぜん上手くならないと悩んでいたときと同じ思考回路。
なんで? なんで? とぐるぐる同じことばかり考えている。
なんで私だけ? の迷路にはまっている。
どうやって抜けたんだっけ……?
打ちのめされた初試合のあと、打ち上げに参加した。全体の人数が多く、打ち上げはいくつかに分かれていたようだが、事前に参加表明もしていなかった。たまたま「こっちに一緒においでよ」と誘ってもらったところについていった。行ってみると、その日の上段位の優勝者、準優勝者、3位と入賞者がひしめいているとんでもない会だった。遠くからすごいなぁと眺めていた大先輩、言葉も交わしたことがなく雲の上にいると思っていた人が、目の前で酔っ払っていた。
優勝してもなお自分の弱点に向き合い、酔っ払って真っ赤な顔で稽古談議に熱中している上段者の姿を間近で見て、自分が上手くならない理由、勝てなかった理由が痛いほどわかった。
心構えが全くなっていないんだから、当たり前だろう。
人をよく見ることも稽古のうち、とはよくいわれることだ。私も稽古中、順番を待っている間、人のことを見ているつもりだった。でもその「見方」がぜんぜん見当外れだった。「人と自分を比べて、自分のほうができている、大丈夫」。と自分を慰め、安心させるために人のアラ探しをしていたにすぎない。
そのとき聞こえていたのは、自分の「なぜ、できないの?」、「いや大丈夫、あの人よりマシだから」という、内向きの声だけだった。その声は虚ろに響くだけで、自分自身にもどこにも届いていなかった。
今聞こえている声はもっと多様だ。適切なアドバイスをくれる師匠の声。きっとできるようになると励ましてくれる先輩の声。できるようになりたいという自分の心の中から湧いてくる声。そんな声が耳に入るようになっている。たまに「よくなったね」というお褒めの声はいい感じに気分を上げてくれる。それらの声は、暗いトンネルで出口を示してくれる一筋の光のようだ。これについていけばいいのだと素直に思え、疑いや迷いを追い払ってくれる。
この光に似た声が聞こえるようになったのは、自分に起こった二つの変化のおかげだ。一つは、稽古の数を増やしたこと。もう一つは人を見る見方が変わったことだ。
稽古の数を増やす、という物理的な行動の変化の後ろに、稽古に対する気持ちの変化があったのは見逃せない。小さい頃ピアノや縄跳びの練習が嫌だった時は、なんとか練習なしで上手くなってやろうと思っていた。しかし、どちらも体を動かしてなし得るものである以上、体が覚えてくれないと上手くなろうはずがない。天才的に一度で必要な指の運びやなわの回し方を体得できない以上、何度もやって体が自然に動くまで覚えこませるしかないのだ。そんな単純なことを初めて思い知った。これも、愕然とする思いをして初めて「体で覚えた」わけだ。
稽古を工夫とフィードバックの機会と捉え直すことができたおかげで、今は稽古することそのものが楽しい実験現場になっている。こうかな、ああかな、と教わったことを体と会話しながらやってみて「カチッと」ギアがはまったようにできた瞬間は、この上なく気分がいい。次の「カチッ」を求めてまた稽古が楽しくなる、その循環にはまり始めた。
そうなると他の人を見る見方が180度変わっていた。自分と違うところはどこだろう、どう違うだろう、どうやったら自分もそれを身につけられるだろう。完全にドロボーの見方になっている。技は盗むものだ、という言葉の意味するところはこれなんだな。
このサイクルが回りだしたら、段位も上がりだした。
このサイクル、言葉を入れ替えると三浦さんが言っていたことにそのまま当てはまるじゃないか。
コンテンツにするための技の練り込み方は、書いているうちに慣れてきます。
自分の気持ちいいより、読む人の気持ちいいを考えて書いてください。
面白いと言ってもらえるようになると、それが励みになって、また次書くモチベーションが上がります……。
剣という武器を使いこなすのに必要なのは、素直に学ぶ心と数稽古だった。
ペンという武器も、素直に学ぶ心と数稽古できっと使いこなせるようになるだろう。あれとこれに気をつけて、とにかく毎週書き続けよう。数稽古はきっと裏切らない。
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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