「9回裏ノーアウト満塁」の逆転サヨナラチャンスにバッターボックスで「見逃し三振」をした恋愛、「逃げるは恥だが、役にたつ」を見て納得した
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記事:たむ(ライティング・ゼミ)
「彼氏が浮気してる!」
久々に気の合う男女3人で集まってのんびりとした、夕食を食べているときに言い出した。
「なんで? いきなりどうしたの?」
男2人、いきなりの発言でびっくりしたが、興味深々の話題だ。
正直、人のちょっとした不幸話しは興味がそそられる。
噂はコミュニケーションの潤滑油である。
「毎週、木曜日はいつも夜が遅いし、携帯ロックしているし、こそこそラインをしてる。
それからそれから……」
私は思った。その行動は、浮気している。「黒」だと。
「それは怪しい行動だけど、まだ確実な証拠はないでしょ?」
しっかり者の、男友達が言った。
「限りなく、クロに近いグレーだよ。この前、携帯見せてとさりげなく聞いたら、『なんでだよ?』って嫌そうな顔してた。色々と理由をつけて見せてくれなかったし……」
昼間、司会者に不倫相談をしている番組をイメージしていた。
お気楽な会話だなと非現実的に思っていたことが、友達にふりかかっているのだ。
「付き合って3年。もう少しで結婚も考えていたのに。別れるか、そのまま知らないフリをするのか、それとも、私も浮気してやるか……」
お酒の勢いもあるかもしれないが、過激な発言も飛び出してきた。
「ねー、だれか紹介してよー、かっこよくてお金もち」
感覚が大学時代に戻った発言。今日は絡み酒になりそうだ……。
こんな展開になってくると、話題は浮気を許せるかどうかになってくる。
「許せない。他の女と一緒にご飯食べてるだけで、気持ち悪くなる。私に触ってほしくないと思っちゃうしね」
昔から、女王様気質なお嬢様タイプ。やはり、自分が主役にならないと気がすまないらしい。
最初は、苦手だった。「自分中心じゃないと満足しない女」「ヒロインを演じる女性」
私が心のなかで名付けたあだ名だ。
しかし、最初からマイナスイメージが強い彼女だっただけに、仕方なく一緒にいる機会が多くなると意外な一面がでてきて、気持ちが徐々に彼女を意識しはじめた。
みんなでごはんを食べるとき、取り分けるちょっとした「気配り」
誰にでも、同じような態度で接する「対応」
そして、本音でぶつかってくる「人間味」
出会って10年になるが、そんな彼女を「一目」おいていた。
それは、「友情」よりも「恋愛」の感情に近いかもしれない。
その彼女がピンチを迎えているのだ。少し、淡い期待がよぎる。
「トイレ!」
彼女は席をたった。僕は、大学時代から今に至るまでの四季折々の彼女を回想していた。
「お前、彼女のこと好きだっただろ?」
男友達が、いきなり言い出した。
「はっ? なに言ってんだよ。わがままだし、全然タイプじゃないよ。しかも、長い付き合いだからそーいった感情はないよ」
「ふーん。昔から、『彼女は結婚するなら隆史がいい』って言ってたけどな」
「てか、なんでそんなこと知ってんだよ」
「おれは、酒が強いからよく飲みに誘われてんだよ。愚痴や恋愛話しばっかりだけどな。ちなみに……、おれが気軽にお誘い受けるのは、なんにも思わないんだって。男として、見れないから安心ってことだな」
一瞬の沈黙……。
私は、なんて言ってよいかわからなかった。
「おまえ、昔から好きだったろ。彼女のこと」
「んなわけないよ」
「お前を見てるとわかるよ。長い付き合いだからな」
こいつは昔からするどい。人間観察が好きなのか、シックスセンスなのか、関係をすべて把握して、みんなが楽しくなるように常に気遣いをしている。
「そろそろでるよ。もーすぐ彼女と待ち合わせだからさ。今日は、お前のおごりな」
「なんでだよ」
「そりゃあ……、最高のシチュエーションをセッティングしたおれに感謝だろ。10年の気持ちをぶつけてみろよ。それから、スタートだろ」
「お前のなんでもかんでも見透かしている感じが嫌味だよ」
「そうか。いつも周りがハッピーになることばかり考えてるからな。ちなみに、おまえを誘ってほしいっていったのは、亜美だからな。あいつに宜しく言っておいて。そいじゃな」
颯爽と帰っていく。いつもの、少しはにかんだ笑顔で。
「あいつは本当におせっかいだな」
独り言をつぶやいて、思わず苦笑いをしてしまう。
さあ、どうしようかな。確かに、好きなのかもしれない。
いや、好きだ。
久しぶりに亜美に会って、気持ちがよみがえってきた。相手にされないからと大学時代から封印していたのに……。
だが、いつも考える。ホントに亜美と付き合いたいと思っているのか。ホントに付き合いたいと思っているなら、なぜ今まで告白しなかったのか? 自信がないからなのか? 好きとういう気持ちは友情ではないのか? この気持ちを複雑にしているのは、「10年」という友達期間だ。どうしても、恋愛に至る「一歩」の答えを見いだせない。
「お待たせ。あれ、圭吾は?」
「帰ったよ。彼女と待ち合わせしてるらしい。宜しくって言ってたよ」
「直接言ってから帰ればいいのに。薄情者」
少し間があいた。亜美がしゃべりだした。
「そろそろ時間だね……」
おれは、
「あーそうだな。もうこんな時間か……」
なんとなく、お互い次の行動が見いだせない雰囲気。それは、お互いが意識している微妙な駆け引きが生まれる空間。
「どう思う? わたしは、彼氏と別れたほうがいいのかな? こんなに疑ってるのに付き合い続ける意味があるのかな?」
「それは……、わからないよ。亜美はどう思っているかじゃないかな。彼氏のこと好きなの?」
「……。わからない。正直、今は、好きよりも裏切られた気持ちが強いかも」
「それなら、別れればいいじゃん!」
私は、つい言ってしまった。
「この年になると別れるのも勇気がいるんだよ。次が見つからなかったら、私、みじめになる。女は30歳になると臆病になるんだよ。まっ、男にわかんないか」
「わかんないけど、亜美ぐらいきれいだとほっとかないよ。少なくても、最近知り合いになったら、気になる存在だけどな」
「へー、隆史がそんなこと言ってくれるんだ。じゃあ、私が別れたら隆史が付き合ってくれるの?」
おれは、仰天した。亜美から告白?
「酔っ払ってるな。いつもはそんなこと言わないのに。亜美は女王様タイプだから」
「なにそれ。ひどいな……。前から、隆史のこと気になっていたのに。私に興味ないと思って、ずっと言えなかったのに」
「いっいきなりどうしたんだよ。酔っ払いすぎだぞ」
亜美が言い出したことばと思わぬ展開のために、「酔っ払いすぎ」としか言えない俺。
「隆史のこと、今も気になってる。私のこと、どう思ってんの……?」
直球がきた。おれは、「9回裏ノーアウト満塁、サヨナラのチャンス」のバッターボックスにいる。10年間、封印をしていた気持ちが溢れてくる。このチャンスを逃すまいと心に決意をする。だが、自分でも信じられない言葉がでてくる。
「友達だよ。大切な友達」
……。
「そっか……。ごめんね。変なことを言い出して。酔っぱらったみたい。今のはなし。これからも、たまに飲みにいこうね」
なんで俺はその言葉を言ったのかわからない。
「9回裏ノーアウト満塁、サヨナラのチャンス」のバッターボックスに入り、「見逃し三振」をしたのだ。おれは「逃げた」のだ。
付き合う喜びよりも、臆病が勝って「逃げの一手」をうってしまった。
情けない感情が沸き起こってくるが、もはや後にひけない。
そして、会計を済ませ、タクシーを待っているときに、
「もうちょっと、飲んでかないか?」
と延長戦を期待していったが、
「今日は、遅いし帰るね。また誘って」
亜美は、タクシーに乗って帰っていった。
私は後悔した。
だが少しスッキリと安堵した気持ちもある。亜美と付き合うことへの覚悟がなかったのだ。
私は、へなちょこだった。
自分が少しでも傷つくことがあるなかで、自分の気持ちを素直に伝えることができなかったのだ。
3年後……
「結婚式場を早くきめないとね……」
ソファーで一緒に並んで雑誌、ゼクシーを読んで会話をしていた。
「そだなー、亜美にまかすよ」
「すぐそう言う。めんどくさいことを私にまかせっきりだし……」
「そうか? じゃあ、一緒に探そう」
驚くことに俺と亜美は付き合った。
あのあと、亜美から付き合ってほしいと言われたのだ。彼氏と別れて。
もちろん、親友の圭吾の助けもあった。
あの日、酔っぱらった亜美になにも告げずに帰宅させた行動が「誠実」に見えたそうだ。
そして、女王様気質な性格の亜美が、告白したにも関わらず見向きもしなった俺が気になって仕方なくなったらしい……。
「逃げるは恥だが役にたつ」
最近人気の恋愛ドラマでの一言。
ドラマの主人公が「後ろ向きな選択だっていいじゃないか。恥ずかしい逃げ方だったとしても生き抜くことのほうが大切でその点においては異論も反論も認めない」
と言っていた。
私は、「9回裏ノーアウト満塁、サヨナラのチャンスのバッターボックス」で逃げ出した。
傷つくことを恐れて……。
しかし、結果はどうだろう。
部活でも社会人になってもことあるごとに、「苦しみから逃げるな。立ち向かえ」と教えられた。結果がでなくても一生懸命逃げなかった努力が実を結ぶと……。
「逃げるは恥だが役にたつ」
少しばかりに逃げたっていいじゃないか!
今回は、逆転満塁ホームランだった。確かにこんなことは人生そうあることでない。
まるで、ドラマみたいな体験談。
人生80年。これから逃げ出すことも一度や二度ではないだろう。チャンスでバッターボックスに立っていることも気がつかない場合もあるだろう。
そして、大変で苦しくて投げ出したくなるときもある。そんなときこの言葉を思い出してほしいのだ。
「逃げるは恥だが役にたつ」
「逃げても得られるものは必ずある」
私の人生で経験したことであり、教訓だ。
私は、ドラマを毎週みている。
「あーわかる。この気持ち……」共感できる数少ないドラマだ。
そして、なんといってもガッキーの笑顔が素敵です。
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