FacebookをFacebook爆弾にしないためには
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記事:佐藤穂奈美(ライティング・ゼミ)
後藤加奈子さんは鵜飼健太郎さんと結婚しました。
ああ~、またですかい。
ほいほい、お幸せに~。
携帯を置く。
水曜夜23時。
サラリーマンにとって水曜日の夜とは「うわ、なんか、もうすごいしんどいんだけど……あと2日あるとか有り得ない……」と、もれなくうんざりする時間である。
その日も会社で散々な気持ちになり、近所のコンビニで夕飯用にどうでもいいような弁当を買って、トボトボ家に帰った。
家に着くなり、なだれ込むようにリビングに入り、電子レンジで弁当を温める。
着ているものを次から次へと床に放り出し、部屋着に着替えてちょうど温まった弁当を食べる。
それの繰り返しだ。
本当に疲れていると、テレビの音さえうるさく感じることがある。
だから、夜遅くひとり夕食を食べているときはSNSを見ることが多い。
一日中、鳴りやまない電話や上司の気まぐれに振り回され、クタクタになって、ようやく家に帰り一息ついて、今日どんなことがあったのかな、とFacebookやTwitterをしゅんしゅんと見るのだ。
そんな矢先にさっきのアレである。
二十代も半ばに差し掛かり、いい加減慣れてきたが、疲れ切ってコンビニ弁当を食べているようなわびしい夜にはなかなか迫ってくるものがある……。
もう、しわしわ……。
それ、きつい……。
思うに、きついのは、たぶんそれをどこか羨んでる自分がいるからだ。
くそぉ、羨ましい……。
でも今更ダサくて「早く結婚したい!」なんて言えないし……。
なんだよ楽しそうに余興なんかしちゃって……仲間に入れてよっ!
そんな羨ましいが降り積もって、Facebookを見られなくなっていく。
あるとき友達が、Facebookで突然衝撃的な事実を知ることを「Facebook爆弾」と言っていたけれど、ほんとにそのとおりだ。Facebookの威力はすごい。
そんな訳でFacebookはあんまり見なくていいや……と敬遠していた私だったが、あるとき、web天狼院に記事を掲載してもらえることになった。
天狼院で記事を書くためにはFacebookのアカウントが必要である。
だから、しばらく封印していたFacebookを使い始め、久しぶりに投稿してみた。
そんなリア充キラキラの投稿でもないし、フォトジェニックな写真が載っている訳でもないし、どうせ見てもらえんだろ……と思いながら。
数日経って、びっくりした。
疎遠になっていた友だち。
今まで深い話をしたことのなかった友だち。
SNSにもほぼ姿を見せなかったから、どうしているのかも分からなかった友だち。
そんな人たちが「いいね!」と言ってくれ、中には「久しぶりに飲みたい!」と連絡をくれた人もいた。
正直、素直にうれしかった。
私の心は浮かれ騒いでいたのだが、ある奴から連絡が来て、うれしかった反面、会っても大丈夫かな……と不安になったのだ。
そいつは大学1年の時から友達で、一緒に学園祭を作り、バカ騒ぎして、まあ悪友みたいなやつだ。
もうかれこれ、8年とか、そんな付き合いになる。
幾度も学園祭のメンバーで飲み会はしたけれど、二人で飲んだことはなかった。
なぜって、みんなでいるときは最高にふざけられる仲間であったそいつのことを、実は苦手だったからだ。
そいつのことを仮に「花」と呼ぼう。
私の中で花は典型的なリア充だった。
最初に花のFacebookが予想だにしない凶悪さを見せ始めたのは、学部生の皆が就活を終えた頃である。
私は大学院に行くことになっていたため、大学3、4年のころ「就活」とは完全な他人事であった。
みんなが就活をする中、私はこれまでと変わらずバイトに行ったり、酔いつぶれたり、思い出したように授業に行ったりなんかしていたが、ある時からこんな投稿がタイムラインに現れるようになったのだ。
「最高の同期!」
「みんなノリよくてめっちゃ笑った同期会だったわw」
ええっ……まだ入社してもないのにすごい団結力……そしてみんなのパリピ感すごい……。写真のキラキラすごい……。
で、さらに花はカラーランとか言って、カラーパウダーでカラフルになった写真や、同期でフェス! とバッチリサングラスをかけたフェス仕様のイケイケの写真を次々に投下してくるのである。
大学の研究室か図書館に引きこもり、黙々ともはや化石のようになった古文書や古地図を紐解くわたしとなんという違い……!
同じ大学なのに全然違うじゃないかっ!
正直羨ましい……!
なんというキラキラ……!
格差だ! 格差社会だ!! 格差反対!!!
あまりの辛さに謎のデモ行進をしそうになった。
が、結局のところ当時の私は「わたしは自分のペースで人生を考えてるんだ!」なんて自分に言い聞かせて、Facebookの波状攻撃に耐え、素知らぬふりをしていた。
その後しばらくFacebookとの戦いは平行線を辿っていたが、Facebookが真の凶悪さを見せつけてきたのは、社会人になって間もないころ、24,5才の頃である。
定期的に「○○さんと○○さんは結婚しました」とか「○○さんは○○さんと一緒です」みたいな暗に察しろよ、みたいな謎アピールの写真など、Facebookは実に様々な方法でわたしにそれぞれのリア充ぶりを見せつけてくるようになったのである。
やめてえええええええええええええええええええええ!!!
冴えない自分の毎日との比較が苦しくて、私はFacebookを見ることができなくなっていた。
そんな中、私の中のキラキラ代名詞、花からの「ほーちゃんの文章読んだよ! 飲みたい!」である。
!!!
長年バカ騒ぎして、飽きるほど飲んできた仲間だけど、今更ふたりでなに話せばいいんだ……。
え? そもそも花は私と一体何を話したいんだ……?
こわい、こわすぎる。
これは罠だ。
それかあれだ……! なんか壺とか買わされるやつ……。
え、こわい、きっと花のリア充ビームにぶっ殺される……。
もう大混乱である。
しかし、今更この長い付き合いで一対一で連絡が来て「会えません」とも言えない。
もう私は初対面の人に会うくらい緊張して花に会うことになった。
出会って8年にもなるのに、意味不明のよそよそしさで花と待ち合わせの店で合流する。
無難に互いの近況報告をし、お酒も進んできたころ、花は突如目をキラキラさせながら怒涛の質問攻めを開始したのだ。
なんで文章を書こうと思ったの?
いまの仕事、どう思ってるの?
なんで天狼院に行こうと思ったの?
花の質問は尽きない。
あまりに花が真剣だから、緊張していたことも忘れて自分が悩んできたこと、考えていたこと、そんなことをポツポツ話した。
そして、じぶんのことを素直に話しすぎていたのであろう。
思わず言ってしまったのだ。
実は、花をずっと苦手に思っていたことも。
実は花のFacebookがキラキラしすぎていて辛くなって、しばらくFacebookさえ見れなくなっていたことも。
花は横やりを入れることもなくひとしきり「うん、うん」と聞いてくれた。
私が話し終わって、しばらく花はうーんと黙った後、だしぬけにこういった。
「わたし、コンプレックスの塊なんだよね」
その一言からは、もう雪崩のようだった。
わたし、ずっと優等生だったの。優等生だから、優等生以外の自分に折り合いがつかなくて、就活がうまくいかないときも、ゼミの同期は次々有名企業に内定していって、わたし恥ずかしくて自分が就活を続けてることも、内定した会社名も言えなかったよ。
文章を書くのも大好きだったけど、これはこれ、あくまで趣味だって言い聞かせて、出版社とか本に関する企業はエントリーさえできなかった。自分で自分に言い訳をしてぐずぐずしてたの。
Facebookもきっとコンプレックスの表れなのかもしれない。誰かに認めてほしいのかもしれない。恋愛にのめりこんじゃうのも同じで、きっと誰かに認められて、受け入れられたいんだと思う。わたし、本当に自分に自信がないから、すこしでも自分を受け入れてくれる人がいると「こんな私でも……」って思って、あっという間にのめりこんでいっちゃうんだよ。そんな中で、一歩踏み出したほーちゃんの記事見て、ほーちゃんは一体何を考えて一歩踏み出そうって思ったのかなって純粋に知りたくなったんだよ。
ああ。そうだったんだ……。
花も悩んでたのか。
自分の対極にいると思った花の話は、まるで自分の写し鏡のようで、すっと私の中に入ってきた。
自分に自信のないわたしは、他の誰かと否応なしに比較されるのが怖くて、自分だけの世界に、自分を傷つけない人たちだけがいる世界に閉じこもろうとしていた。
自分に自信のない花は、常に誰かを求めた。じぶんを受け入れてくれる誰かを求め続けた。
わたしと花は一緒だ。
本も書くことも大好きだったから、だいすきなことに真剣に取り組んで挫折するのが怖かった。
本気ですきなことを発信することがこわかった。
だって、発信して否定されたら、自分の全てが否定されたような気持ちになると思うから。
けど、発信しなければ傷つくこともない代わりに、誰にも何も伝えられない。
そんな自分は、もう変えたい、と思った。
Facebookにはいろんな気持ちが渦巻いている。
大人になると「成功」とか「しあわせ」のモノサシが無限に増えて、なかなか自分に自信を持つことが難しくなる気がする。
だだっ広い海に放り出されたように、大人になった私たちは毎日、毎日これでいいのかな、自分のこの選択はあってたのかな、と悩む。
だから、自分に自信がないとき、私は勝手にFacebookをFacebook爆弾にしてしまう。
自分はこうだ! と自信がないから誰かの投稿にいちいち反応してしまう。誰かの幸せと比較しないと自分の幸せが見えなくなっているのだ。
そしてFacebook爆弾になりかねない投稿をしている人もきっと同じなのだ。
Facebookをキラキラで埋め尽くしてしまうのは、彼女たちも不安で、自分の居場所を何かで確認したいのだ。
もしかするとあのキラキラは自分に向けられたものなのかもしれない。
だいじょうぶ、わたしはちゃんと毎日充実して過ごしているよ。だから、安心して、と。
だからFacebookはこわくない。
目を凝らすと意外とそこには等身大のひとがいる。
そしてFacebookはすごい。
うまく使って発信すれば、誰だって世界中のひとに自分の想いを伝えられるツールにもなる。
今までずっとFacebook爆弾に怯えていたけど、勇気をだして一歩踏み出したら、思いもよらないところから最高の友だちが現れた。
Facebookは勝手にリア充のものだなんて思っていた。
でも、ちがうんだ。Facebook爆弾は自信のない自分が勝手に作り出していたものだ。
緊張しながらガチガチになって始まった花との飲み会は、Facebook越しに見ていたキラキラの世界が、でこぼこ生きてるじぶんと同じように、みんなも一生懸命でこぼこ生きてる毎日だと気付けた、不思議にすてきな会になった。
連絡くれて、ありがと。
お互いぜんぜんかっこいい大人になんかなれてないけど、でも、まあいいよね。
だって、まだちゃんと変わろうとしてる。
ぜんぜんスマートでもかっこよくもないけど、進もうとしてるうちはだいじょうぶだ、ぜったいに。
そこまで話して、急に真面目に話していたことが恥ずかしくなって、お互い下を向きながら、学生時代みたいに「おつかれ~」と、肩をたたき合って改札を抜けた。
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