外国人に道を聞かれたら答えた方がいい、恋人ができるかもしれないから《プロフェッショナル・ゼミ》
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ただの道案内が、ここまで印象深い時間になるとは思わなかった。
とても楽しい時間だった。
「可愛かったなぁ。はぁ」
大きくため息をつく。
もしかしたら惚れたのかもしれない。
でも、残念ながら連絡先は知らない。
聞いておけばよかった、と激しく後悔をしてしまった。
10年以上も前のある日、夜の新宿西口を歩いていた。
テンションが上がるような音楽を流していたので、音楽のせいか、機嫌はいい。
特別に何かいいことがあったわけではない。
そんな中、同年代と思われる女性がいた。
遠目で見ると、彼女は首を右に左に向けて、キョロキョロしていた。
人を探しているのか、それとも道に迷ったのか。
上手く見つかればいいなと思いながら歩いていたら、
「Excuse me? (すみません)」
と英語で話しかけられた。
テンションが高い音楽で聞き取りづらかったが、かろうじて聞こえた。
どうやら、旅行者のようだった。
見た感じはアジア系、中国か韓国の女性だろう。
困った。
英会話はあまり得意ではない。
でも、話を聞くだけ聞いてみようと思い、
「どうしました?」
と英語で答えた。
「東京都庁に行きたいのですが、どう行けばよいのでしょう?」
そう彼女は英語で質問をしてきた。
話しかけられた場所は、新宿西口駅前の地上。
都庁はそこまで遠くはないが、行くまでの道のりそれなりに複雑だった。
10年以上も前なので、スマホもないしGPSもない。
ガラケーでは自分の居場所は分からない。
彼女は地図を持っていたが、小さすぎて役に立ちそうになかった。
都庁までうまく道なりを英語で伝える自信はない、だがこのまま放っておくわけにはいかない。
彼女に一言こう言った。
「Follow me」
案内すると言いたかったのだが、いい単語が出てこなかった。
最近見た映画で使っていた気がするので使ってみた。
彼女はちょっと驚きつつも嬉しそうな顔で、
「ありがとう」
と言った。
「それじゃあ、行きましょう」
二人で新宿の街の中を歩く。
二人はさっき知り合ったばかりの男女。
やや暗い街並みの中、二人は横並びになって歩く。
新宿の街灯が二人を照らす。
二人の微妙な距離感が明らかになる。
お互いに緊張しているのが分かる。
それでも二人は一緒に歩く。
目的地に向かって。
行先は都庁だ。
途中までお互いに沈黙していたが、せっかくの機会だ。
少し会話をしようと思った。
まずは、どこから来たのかを訪ねたところ、色々答えてくれた。
彼女の名前はソユン。
韓国から来た旅行者だった。
ソユンは一人で来たらしい。
「日本に来るのは初めてだから、来るのがとても楽しみだったの」
ソユンは嬉しそうに言った。
「でも、少しだけ残念なことがあったの」
「どうしたの?」
「日本人、意外と冷たい」
話を聞くと、自分に話しかける前に5人に声をかけたが全員スルーされたらしい。
しかも、朝にも同じように声をかけたのだけど、たくさんの人に無視されたとのことだった。
「日本人のスーツを着た人、歩くの早いし冷たい」
恐らく、朝の通勤ラッシュに向かうサラリーマンに声をかけたのだろう。
朝の彼らにはそんな余裕があるようにはあまり思えなかった。
ソユンをなだめるかのように、
「気の毒だったね、朝の会社員はあまり余裕ないしね。それに日本人は英語苦手だから、本当は答えたかったんだけど泣く泣く諦めたのかもね」
「そうかなぁ。まぁ、そういうことにしておくね。道案内してくれる人もいるし」
ソユンはいたずらっぽく笑った。
そんな会話をしているうちに、迷うことなく都庁に到着した。
夜の都庁は上の階から都内の夜景を見ることができる展望室がある。
ソユンはそれが目当てだった。
自分も夜景が好きなので、都庁に行くのは都合がよかった。
一人で夜景を見に行くのはとても寂しい。
はたから見ても寂しい人にしか見えない。
ソユンを案内しようと思ったのは、そんな裏の理由もあった。
入り口で荷物チェックを受け、エレベーターで上の階へ。
展望室の高さは約200メートルとのことだった。
上の階に到着し、ソユンと一緒に窓際へ向かう。
「すごーい、綺麗!!」
「そうだね、とても綺麗だね」
ソユンは感動していた。
自分も感動していた。
しばらくの間、お互いに言葉を交わさずに夜景を見ていた。
おもむろに、ソユンはバッグの中からデジカメを取り出した。
夜景を撮影し始めたのだ。
興奮して何枚も撮影する様子が見ていて可愛らしかった。
本当に日本の旅行を楽しみにしていたのだなぁと、連れてきてよかったと思った。
自分も夜景が見たいというささやかな理由も達成はできたが、最早どうでもよかった。
夜景は見ていたが、ソユンとはぐれないように横目でソユンを見ていた。
そうすると、おもむろに自撮りをしようとしていたのが分かったので、
「撮影してあげるよ」
と、デジカメを手に取った。
ありがとう、と答えソユンは窓際に向かう。
そして、こちらを向いて笑顔でピース。
本当に嬉しそうだった。
あまりにもいい表情すぎて、動揺して手が震えたが、無事にシャッターを押せた。
ソユンにデジカメを返す。
すると、横にいたカップルの女性が、ソユンに向かって、日本語で話しかけてきた。
会話の内容は声があまり大きくなかったので聞き取れなかったが、ソユンは日本語が分からず、茫然としていた。
すると、その女性が韓国語で話し始めた。
何のやり取りをしているのだろうかと思った。
突然、ソユンが自分の手を引っ張る。
そして、窓際に誘導された。
ソユンが説明するように言う。
「2人の写真を撮りましょうか、だって」
なるほど、そういう会話か。
どうやら、カップルと見間違えられたらしい。
まぁ、ソユンが楽しそうだし、いいか。
そう思い、デジカメを見る。
横では笑っているソユンがピースをしている。
真似をしてピースをする。
ソユンみたいに笑えていたかは分からない。
その後は、御礼がてらそのカップルの写真も撮ってあげた。
お互いに手を振って別れる。
その後も展望室からの夜景を楽しんだ。
気がつけば夜も21時。
そろそろ役目は終わりかな、と思っていると、
「とんこつラーメンのお店に行きたいのだけど、このお店知ってる?」
と、旅行カタログを見せながら聞いてきた。
そのとんこつラーメン屋は知っていたが、既に閉店時間であることをカタログは教えてくれた。
乗りかけた船だと思い、ラーメン屋の営業時間を指さしながら、
「そのお店、営業終わってるみたいだね。他のお店知ってるけど行く?」
と質問した。
「ありがとう!」
ソユンがおもむろに抱き着いてくる。
少し体が温かくなった。
「えっ!」
動揺して声が出る。
韓国の人の挨拶に抱き着くってあったかな。
欧米ならそれなりにあるのだが。
そう思っているうちにすぐにソユンの温かみが消える。
「じゃあ、早速行きましょう!」
「そうだね、まずは列に並ぼうか」
「列?」
帰りのエレベーターには行列ができていた。
「日本は並ぶことが多いね」
ソユンは少し不服そうに言った。
「これが日本文化だよ」
おどけて返す。
「日本文化かぁ、勉強になるなぁ。待つのは好きじゃないけど」
おどけた回答にまじめに納得するソユン。
まだ不服そうに、でも楽しそうに返事をした。
都庁を出てラーメン屋に向かう。
ラーメン屋は新宿南口にある。
歩いて10分くらいであっさり到着。
だが、ラーメン屋には行列ができていた。
行列の待ち時間は20分と書いてあった。
「日本文化だけど、20分待てる?」
またおどけて言う。
「うー、ここまで来たら待つ。美味しいんだよね?」
少しプレッシャーをかけてきた。
「日本文化だからね」
やっぱりおどけて言う。
「じゃあ、待つ。それに、日本に来てラーメンを食べてみたかったの」
「韓国には辛ラーメンがなかったかな?」
「何それ?」
「赤いパッケージのインスタントラーメン」
「あぁ、それね。美味しいよ。でも、辛くなくて、インスタントでない日本のラーメンが食べたいの」
「なるほどね」
と、たわいもない会話をしているうちに、席に着くことができた。
ここのオススメは、海老のダシを使った海老とんこつラーメンである。
普通のとんこつもあるのだが、こっちがオススメだよとソユンに促す。
結局二人ともオススメのエビとんこつラーメンを注文した。
「お待たせしましたっ!」
威勢の良い、イケメン店員が熱そうなどんぶりを持ってきた。
2つのどんぶりから立ち上る湯気、漂う海老の香り。
白いスープからはかすかにとんこつの香りもする。
2人の食欲をそそるには十分である。
さて、ソユンはお気に召していただけたかな、と思いながら横を見る。
ソユンは固まっていた。
「海老の香りが凄い、これがラーメンなの?」
ソユンは驚いて目を丸くしながら、質問してきた。
「そうだよ、いい香りでしょ。さっそく食べようか」
「ちょっと待って!」
そういいながら、デジカメを取り出した。
そして、ラーメンを撮影し始めた。
光の角度が気に入らなかったのか、どんぶりの位置を変えようとどんぶりに触れた瞬間、
「熱っ! どんぶり熱いよ」
と、なぜかはたかれた。
八つ当たりもいい所である。
はたかれた痛みを我慢しつつ、
「大丈夫?」
と言いながらおしぼりを渡す。
ありがとうと、返事をしながらも、おしぼりを使ってどんぶりを移動させ、ラーメンの撮影に夢中になっていた。
「お待たせ! 食べましょう!」
割り箸を割り、メンマをつまみ上げた。
自分は両手を合わせて、
「いただきます」
と、言いながら軽く頭を下げていた。
ソユンがそれを見て、メンマをラーメンの上に戻して真似し始めた。
両手を合わせて、
「いただきますっ!」
なぜか気合が入っていた。
ソユンはメンマを食べ、ラーメンをすすり、スープを飲む。
その勢いはすさまじかった。
「美味ひい! 美味ひい!」
口の中に麺を入れながらしゃべるソユンの英語は、言葉になっていなかった。
でも、美味しいと言っていることはよく分かった。
顔にそう書いてある。
美味しさのあまり、興奮を抑えきれなかったようだ。
そこまで気に入っていただけたなら、こちらとしても大満足。
安心してラーメンを食べられる。
「うーん、美味ひい! ひあわせだね!」
うっかり、自分も麺を口に入れたまましゃべってしまったようだ。
食べ終わった後に、少しだけ待っててと言い、トイレへ行く。
戻ったらすぐにお会計だが、せっかく韓国から旅行に来たのだから、少しぐらい気前のいいところを見せようか、なんて思いながらトイレの中の鏡を見た。
目の前には、頬が緩んでいる自分がいた。
今の自分は楽しんでいるんだな、と思った。
こういう時間がかけがえのない時間なのだろうなと思う。
ソユンとはもう会うこともないだろう、一期一会ってこういうことなのかなと思った。
お待たせ、と言いながら席に戻る。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうね」
と言いながらレジへ向かう。
お会計は自分が全部支払った。
「道案内もしてくれて、美味しいラーメン屋にも連れて行ってくれてありがとう!」
「これで少しは日本人の冷たいイメージをとってくれるかな」
なんて笑いながら答える。
「でもね」
急にソユンが深刻そうな顔をする。
「私からもお礼がしたいなと思って」
おもむろに封筒を渡してきた。
「お礼として少しだけお金がいれてあるの、受け取って」
「いやいや、そのつもりで案内したわけではないし。受け取れないよ」
少し間をおいて、少し頬を膨らませながら、
「いいから、受け取る!」
なぜか命令形で言ってきた。
「分かった、ありがとう」
少しだけ複雑な気持ちだったが、きっと笑顔で受け取ったと思う。
ソユンのホテルは渋谷にあるようだった。
新宿からは電車で3駅、西口の駅の地上で見送ることにした。
「今日は本当にありがとう、とても楽しい体験ができたよ。友達に自慢ができるよ!」
「いえいえ、楽しんでいただけたようでよかった。残りの旅行も楽しんでね」
お互いに、手を振りながらお別れをする。
ソユンは後ろ歩きをしながら遠ざかる。
少し遠くなった後に、ソユンが投げキスをしてきた。
無邪気な子だなあ、と笑いながら、身体全体を右に傾けてかわす動作をする。
ソユンは不満そうな顔をしながらも、最後は笑いながら駅の中へ入っていった。
「さて、帰りますか」
一人呟きながら自宅に戻った。
自宅に着いたがその道のりは覚えていない。
ずっとソユンのことを考えていた。
ただの道案内が、ここまで印象深い時間になるとは思わなかった。
とても楽しい時間だった。
「可愛かったなぁ。はぁ」
大きくため息をつく。
「なんで周りにああいう可愛らしい子はいないのだろう」
と、一人愚痴ってしまう。
どうやら、あの無邪気さにやられてしまったらしい。
もしかしたら惚れたのかもしれない。
でも、残念ながら連絡先は知らない。
聞いておけばよかった、と激しく後悔をしてしまった。
後の祭りである。
そういえば、お礼の封筒を渡してくれたていたな。
お金は別にいいのに、と封筒を除いてみたらお金だけではなく、メモ書きが入っていた。
メモ書きにはソユンのメールアドレスと、
「絶対メールしてね、写真も送りたいし」
とハートマーク付きで書いてあった。
頬をつねったが痛かったので夢ではないらしい。
心の底から嬉しかった。
これからも連絡ができることが。
メールで何を書こうか、と頭の中はいっぱいになっていた。
だから、命令形で受け取るように言ったのか。
そう思うと嬉しかった。
そして、一緒に入っていたお金は、なぜか円でなく10,000ウォン(1,000円位)だった。
自宅に帰って一つだけ調べたいことがあった。
英語で一つだけ気がかりなことがあったからだ。
道案内をするという英語が、
「Follow me」
で合っていたのだろうか調べたかった。
インターネットで調べたところ、意味は、
「ついてこい」
だった。
余りにも意味が違いすぎて愕然とした。
開始30秒でKO負けしたボクサーのような敗北感に見舞われた。
自分の英語力のなさと、知らなかったとはいえ礼儀のなさに。
ソユン、よくこの英語表現でついてきたなぁ。
本当に無邪気なのだろうな、ソユンは。
冷静に考えると、一人で未知らぬ街に旅行をして、道を聞いた男についてこいと言われて、その後をついて行く、というのはなかなか度胸がいる。
このままぼったくりのお店に連れていかれるパターンもありうるのに、よく信じてくれたなぁと思った。
まぁ、英語は失敗したけど、結果として喜んでくれたからいいかと思った。
英語は勉強しておこう。
ソユンが韓国に戻った後は、メールで色々な会話をした。
自分から、連絡先を教えてくれてありがとう、の簡単なメールに始まり、旅行が楽しかったことのお礼やその後訪れた浅草寺などの旅行先の写真を送ってくれた。
都庁で一緒に撮った写真も送ってくれた。
自分もソユンみたいに笑っていたようで安心した。
ソユンからの最初のメールには追伸が書いてあった。
「投げキスをかわすのも日本文化なの?」
「そんな文化はないよ」
と、返信をした。
他にも色々な会話をメールでした。
韓国のソウルに住んでいることも分かった。
辛いものはよく食べるよ、と言いながら辛ラーメンとキムチの写真も送られてきた。
話していくうちに徐々にメールは長くなり、間隔も短くなっていった。
そして、実は学生で、今年で卒業だから今は就職活動で忙しいことを話してくれた。
韓国の就職活動は日本よりも恐ろしいと教えてくれた。
新卒で受からないと大変なことになると。
徐々に就職活動の内容が増えていき、なかなかうまくいかないソユンはとてもナーバスになっていた。
メールでは徐々にネガティブな言葉が増えていったのだ。
メールでは励ましの言葉を伝えつつも歯がゆかった。
日本にいてはメールでしか応援はできない。
韓国に応援しに行こうかとも思ったが、逆に忙しい最中に邪魔してもいけない、と思った。
メールのやり取りだけで励ますしかないと思った。
ある日も、ソユンを励ますメールを送ったが、この日は数分後にメールが来た。
「明日、本命の会社の最終面接なの。本当にどうしよう」
とだけ書いてあった。
また何か支えになる言葉を伝えようと思った。
すぐ返せば、ソユンは見てくれるかな。
「大丈夫だよ、今までたくさんの準備をしてきたのだから。ここに受かるために。弱気にならないで」
すぐに送信ボタンを押した。
すぐに返事が来た、まるでチャットだった。
「でも、落ちたらどうしよう」
かなり弱気になっているようだった。
どの言葉がソユンに響くのかは分からない。
気分を変えさせる意味も含めて、シンプルに聞いてみた。
「受かったらどうなるの?」
数分の沈黙。
「会社でたくさん仕事をして、結果を出す。初めての給料で両親にプレゼントを買って、今までのお礼をする。あと、日本にも行きたい!」
と書いてあった。
少しは前を向いてくれたかな。
「じゃあそうなるよ、Good Luck!」
と書いてすぐにメールをした。
自分の出番はおそらくここまで。
多くの言葉はいらない。
ただ言葉を投げかけることしかできない。
後はソユンの幸運を祈るだけである。
ソユンから返事のメールはすぐに来なかった。
その日からしばらく、ソユンからメールは来なかった。
2週間後、やっとソユンからのメールが来た。
「受かったよ!! 支えてくれてありがとう!」
と書いてあった。
自分のことのように嬉しかった。
メールには、しばらくメールが送れなかった理由が書いてあった。
単純に、面接に受かり就職が決まった後、その会社の人たちとの交流が盛んだったらしい。
合宿もあったようだ。
それで忙しくて時間が取れなかったと。
お詫びのメールと一緒に、受かった会社の前で満面の笑みを浮かべるソユンの写真が送られてきた。
本当に良かったなぁ、自分も大喜びだった。
追伸に、
「来週の土日に日本に会いに行くから時間をくれないかな?」
と書いてあった。
慌てて手帳を見る。
よかった、空いていた。
まあ、空いてなくても空けるつもりだったが。
祝福の言葉と共に、
「土曜日の夜に会おう!」
と、返事をした。
ソユンにはずっと会いたいと思っていた。
メールでずっとやり取りをしていたが、その中で惚れているかも、と言う気持ちは確信に変わっていた。
ソユンに早く会いたかった。
あっという間に、土曜日になった。
集合場所は、最初に道を聞かれた場所。
集合の10分前に到着し、そわそわしながら待つ。
でもここは、歩道の真ん中、集合場所にはふさわしくなかった。
しかたなく、歩道の端の方へ移動する。
少しして、肩をたたかれた。
そして、懐かしく、愛おしかった声が聞こえてきた。
「元気だった?」
久しぶりに会うソユンだった。
「もちろん、就職おめでとう!」
「ありがとう!」
新宿の街で久しぶりに会うことができてお互いに喜ぶ。
唐突に人がぶつかってきた。
喜びのあまり、端とはいえ歩道にいることをすっかり忘れていた。
どうやら酔っ払いのようである。
不意の衝突に思わずバランスを崩してソユンに倒れ掛かる。
ふと、口に温かい感触を感じる、だがそこまで柔らかみはない。
どうやら彼女の頬にキスをしてしまったらしい。
ドラマみたいなことをしてしまったが、誤らないと。
いくら人にぶつかられたからとはいえ、これはまずい。
だが、その前にソユンが不満そうに一言、
「そこじゃない」
「えっ!」
「そこじゃない!」
不満そうに、いたずらっぽい目をして言う。
冷静に考えたら、わざわざ会いに来てくれたのだ。
お互いに想っているのだろうな。
街中だけど、まぁいいか。
この雰囲気を壊す必要はないだろう。
「ごめんごめん」
彼女の両肩にゆっくりと触れる。
おもむろに、口を彼女に近づける。
口と口が重なる。
今度は温かみと、柔らかさが感じられた。
少しだけ息苦しいのだけれども、この感触にずっと酔いしれていたいと思った。
少しして、お互いに口を離す。
彼女は満面の笑みを浮かべながら、
「えへへ、どこ行こっか?」
と聞いてくる。
「あそこはどうかな?」
展望台のつもりでいたずらっぽく言う。
「夜景、綺麗だったもんね、また行きたい! ラーメン屋も!」
笑いながら答えてくれた。
同じことを考えてくれて嬉しかった。
「それじゃあ、行きましょう」
二人で新宿の街の中を歩く。
二人は知り合って1年にもならない男女。
やや暗い街並みの中、二人は腕を組んでぴったりくっついて歩く。
新宿の街灯が二人を照らす。
二人の親密な距離感が明らかになる。
お互いに緊張はしていない。
あたりまえのように二人は一緒に歩く。
目的地に向かって。
行先は都庁だ。
「そういえば、10,000ウォンまだ持ってるよ」
「今度使いに来てね」
次の海外旅行は、韓国になりそうだ。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
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