大人だってハナマルが欲しい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:紗那(ライティング・ゼミ)
「わぁー、千恵ちゃんは人見知りしなくていい子だね!」
千恵ちゃんは屈託のない笑顔で私を見る。小さな手、ぷにぷにした二の腕、口からこぼれる泡のような涎、千恵ちゃんの一挙一同が私達を自然と笑顔にさせてくれる。
「子供っていいよなー。ちょっとしたことですぐ褒めてもらえるもんな」
そんな千恵ちゃんの様子を見ながら、同期の谷くんがぼそりと呟いた。
「え! なに? いい大人が子供に嫉妬?」
私が笑いながら答える。
全く、東大卒のエリートが何を言っちゃっているのだろうか。
「いや、だってさ、俺なんか毎日一生懸命働いても誰も褒めてくれないわけよ! それどころか、小さな小さなミスしただけで怒鳴られまくる日々だよ!」
谷くんは入社同期で、今は輝かしい部署に配属されている。東大卒だけど、物腰も柔らかくて、上司とも上手くやれるタイプだ。いわゆるエリートで出世コースをまっしぐら。そんな谷くんも今の部署では色々あるようだ。
「あー、谷くん典型的に社畜だね!」
千恵ちゃんのママである同期の杏奈がちょっとイジワルな顔をしてそう言う。今日は杏奈の子供である千恵ちゃんに会うために久しぶりに同期3人で集まっていた。
「うーん。社畜かなぁ? でも、時々よくわからなくなるんだよな。毎日のように怒鳴られてさ、あれ? 俺って何のためにがんばってるんだっけ? ってさ」
「あー。でもちょっとわかるその気持ち! 私だってさ、毎日千恵の面倒見て、ご飯作って、家事しても旦那に全然褒められないもん」
杏奈も谷くんの言葉に頷いた。
わかるわかる。
確かに私達は大人になると、途端に褒められるということがなくなる。与えられたことを間違いなくやることは当たり前。それ以上のことを求められ、万一少しでもミスをしたら咎められる。
こんな風になるのはいつからだろう? 小さい頃は、ほんのちょっと何かができるようになっただけで、喜ばれ、褒められ、かわいがられていた気がする。
だけど、大きくなるほどに私達は「できることが当たり前」になっていく。
小さな頃は、例えば逆上がりができるようになっただけで、褒められ、連絡帳にハナマルを書いてもらえていた。
「今日は逆上がりができるようになりましたね! よく頑張りました!」
言葉の後ろに先生の赤文字で綺麗に書かれたハナマル。そのハナマルを貰えると嬉しくて、もっと色々なことを頑張ろうと思えたものだった。そして、そのハナマルが、自分はもっとできるはずだという自信につながった。
そうか。
私たちはきっと、大人になってもハナマルが欲しいのだ。
誰かに頑張ったねって褒められ、ハナマルを書いてもらいたくて頑張っているのだ。
仕事では、上司に評価されたいと思いがむしゃらに働く、他人からの賞賛を浴びたくて、富とか名誉とかが欲しい。
だけど、社会ではそう簡単にハナマルは貰えない。
例え、ハナマルを貰えたとしても次はもっと難しい難題を出され、どんどんどんどん大人の世界で、苦しくなっていくのだ。
恋愛だってそうだ。
社会でハナマルを貰うのが難しいからこそ、私達は恋愛でくらい大きなハナマルが欲しいと願う。
「君は特別だよ」
「好きだよ」
なんて言葉を彼氏から言われたいのは、それが最高のハナマルだからだ。そのハナマルをくれる人を求めて恋活やら、婚活やらに精をだす。だけど、少しずつハナマルをくれなくなる恋人に嫌気がさして、新しい人を求めたり、嫌になってお別れしたりしてしまう。
私自身だってそうだ。
きっとずっとハナマルが欲しかったのだ。
誰かに認めてもらいたくて人よりも仕事を頑張ろうと思った。
たとえ、それが本当に自分のやりたいことでなかったとしても、頑張っていればいつか誰かに認めてもらえるだろうという思いで働いた。
好きな人に振られて苦しかったのは、彼がいなくなったことよりも、自分にハナマルをくれる存在がいなくなったことへの絶望が大きかったのかもしれない。
このライティングゼミに参加したいと思った理由だって、誰かに自分の気持ちや文章を認めてもらいたかったからに違いない。
だけど、不思議に思う。
簡単にハナマルを貰えなくなってしまった私達大人は、子供の頃より頑張っていないのだろうか?
きっと、そんなことはない。
むしろ、子供の頃よりも頑張り過ぎるくらい頑張っているのではないだろうか。
朝、狂いなく満員電車を運転する運転手さんだって
毎日明るく挨拶をしてくれる警備員さんだって
立ち寄るスタバの笑顔の店員さんだって
ちゃきちゃき働く食堂のおばちゃんだって
嫌味を言う怖いお局さんだって
ちょっと上から目線の上司だって
スーパーで見かける主婦の人だって
ママチャリで爆走しながら家庭と仕事を両立する働くママだって
仕事を退職して生きる目的を見失ったおじさんだって
谷くんだって、杏奈だって
みんな頑張っているのだ。
みんなハナマルを貰えるに値する人だと思う。
だけど、私達は他人のハナマルに依存している限り、振り回されてばかりだ。貰えるか、貰えないのかわからないハナマルを追いかけるのはもう止めて、自分で自分にハナマルをあげたほうがいいのかもしれない。生きていると上手くいく日も上手くいかない日もあるけれど、それでも私達は少なからず頑張っている。
何もできなかった小さな赤ん坊の頃よりは遥かに多くのことを学び、多くのことをできるようになっている。だから、上手くいかない日には小さなハナマル、上手くいった日には大きなハナマルを自分にあげてみてもいいのではないだろうか。
杏奈の家からの帰り道、谷くんと私は駅までの道を歩く。
「あー。明日からまた仕事だな……」
谷くんが憂鬱そうな声を出す。
「だねー。土日は本当にあっという間なんだよね」
「あぁ、また課長に怒られる日々だ……」
「でもさ、谷くんはさ、頑張ってると思うよ!」
私がそう言うと谷くんがきょとんとした顔をしていた。
「谷くんも、杏奈も頑張ってる!」
「おう!」
ちょっとだけ嬉しそうな顔をして谷くんが笑った。
私は谷くんにも、杏奈にも赤い大きな大きなハナマルをあげたい。
そして私自身にも小さなハナマルくらいなら、あげてもいいかなと思っている。
仕事ではたまにミスをするし、お局さんには嫌味を言われるし、本当にやりたいことだって未だに見つからないし、恋愛だってうまくいかないけれど、そんな私にも小さなハナマルをあげてみたい。
ハナマルは大人になったら、誰かに貰うものではなくて、自分で書いてあげるものになるのかもしれない。そのほうがきっと生きやすい。
***
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