夜通しヤキを入れると景色が生まれるらしい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:サイ・タクマ(ライティング・ゼミ)
「センパイ、いよいよ『焼き』の日ですネ。よろしくお願いします」
先日、大学時代の後輩に誘われて、奈良は宇陀郡の山の中で陶芸をされている方の家へお邪魔して、茶碗と皿を作りに行った。
今日はその作品たちを「登り窯」で焼成する作業のお手伝いをする日。
24時間を3つに分け8時間交代で窯の温度を上げて、2・3日かけて焼き上げていく。
深夜0時から朝8時までが、僕たちの当番になった。
何から何まで初めてのことで、見よう見まねだが、これが楽しい。
ただポイポイと無分別に薪をくべればイイわけではなく、一定の段取りとリズムがあるように思え、タイミングを外してしまうとあれよあれよと言う間に温度が下降してしまうし、歯車が噛み合えばグッグッグッと数値が上昇していく。かといって逐一構いすぎるのも良くないようにも思われた。
夜が深くなると皆、窯を見つめて黙り込んで作業した。
その沈黙はどこか濃密で、苦にならない類のものだった。
沈黙を破るのは時折温度計の数値を読み上げるときや、薪が爆ぜる音に感嘆を漏らすとき。
つけっぱなしにしてあるAMラジオのいなたい選曲も、そういった心地よい沈黙に一役買っていた。
中でも印象的だったのは、夜が明ける前の一番暗い時間帯に手渡された「焼き芋」だ。
登り窯の上でじっくり時間をかけて温められた焼き芋は、軍手の上からでもチチチ……と火傷するほど熱く、急いでアルミホイルと新聞紙を剥いて、程よいところで割ってみると湯気が立った。
一番外側がしっとりと透き通って、蜜のような粘りが見て取れる。
満を持してガブリかぶりつくと、見た目を裏切らず、ねっとりと滑らかな感触が口いっぱいに広がった。
た、たまんねぇ~~……!
この濃厚で素朴な甘さはなんだ。
熱い焼き芋もうまいが、少し冷えてくると余計に甘さが立ってくる。
芋は不思議だ。焼く前と焼いた後ではまるで別の食べ物に思える。
実際、サツマイモを生で食べるのは結構厳しい。硬いし、うまみも感じられない。
だがしかし、しかるべき加熱を施すと魔法がかかったようにうまくなる。
最初にこの「しっとりと柔らかくなった芋」の味を知った生き物の反応はどんなものだったのだろう。その歓喜たるや凄まじいものがあったんじゃないだろうか。
その雄叫びは山中に轟いたに違いない。
なにも焼き芋に限った話ではなく、食料が火によって柔らかくなり、甘くなったり旨みが増したりすることを知った我々の祖先たちは沸きに沸き、大いに喜んだはずだ。
ただ焼くのではなく、今でいう弱火・中火・強火の概念や、時間をかけることではじめて得られる恩恵があることも、火との長い付き合いから学んでいったのではないだろうか。
そう考えると、目の前にデデンと鎮座する登り窯が、輝かしい人類の知恵の象徴のように光り輝いて見えてきた。
土から陶器へ。より丈夫に、より美しいものを。機能と芸術性の、試行錯誤の歩み。
電気やガスの窯と違い、薪の窯で焼成した器は、炎の状態やその当たり方、灰のかぶり具合などの条件によって、さまざまに表情を見せる。よく出来たものは、その味わいを「景色」と呼ぶそうだ。
焼きあがったものを眺めて、それがどんな風に炎に当たっていたか、ストーリーを推理するというのも楽しみのひとつだねえと、寡黙なお爺さんが教えてくれた。
外気の温度や湿度、火の扱い、炎の流れ。結果、一つとして同じものが出来上がらないと言う。
満足に仕上がるものもあれば、そうでないものもある。それは焼いてみないとわからない。
挑戦と工夫と自然偶然が一体となって織り成すドラマ。
こりゃあハマるのも無理はない。
形に残るし使えるし楽しいし……いいことばかりじゃないか!!!
窯の口の上には、塩と酒と米が供えられていた。
火を扱うことへの畏怖、または恩恵への感謝や祈りの意がこめられているように思え、万物に宿るアニミズムの概念が、スーッと沁みこむように理解できた瞬間だった。
また、ラジオから偶然流れてきたお寺のお坊さんへのインタビューの後ろでお経が流れ出した数分の間だけは、なんだか登り窯をご本尊に護摩焚きをしているような錯覚に陥り、まるで「ゆく年くる年」を俯瞰で見ているときのような神妙な気持ちになった。
食、産業、芸術、宗教。登り窯から見えてくることは、僕が便利な世の中でつい忘れそうになる「ことのはじまり」を実感することへ立ち返るきっかけをくれた。
登り窯の火の番をするとき、僕も皆も不思議と黙ってしまったのは、それぞれが無意識のうちに、窯の火と言葉のない会話をしていたからなのかもしれない。
向こうに見える朝の奈良の山は、霧がかかって、紅葉とのコントラストが映えていた。
交代のおじさんがやって来た。気がつけばあっという間に8時間が過ぎ去った。
心地よい疲労感に包まれたけれど、昔のような徹夜明けのナチュラル・ハイが来なかったことに苦笑しつつ、帰りの車内で意識を飛ばして白目を剥いた。
焼き上がりのあと、同じくらい時間をかけて器を冷ますそうだ。
どんな景色が、僕の器には焼きついたのだろうか。
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