プロフェッショナル・ゼミ

【現代版】ゴリオとジュリエット《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中望美(ライティング・プロフェッショナル)

わたしはカーテンを閉めるとすぐにLINEをした。

さっきの、ロミオとジュリエットみたいじゃなかった?

わたしは、クククッと笑いながら、スマホでそう文字を打ったのだ。

すると20分後に帰ってきた返信が、

ゴリオとジュリエット? 
という文字と、悲しげな顔文字だった。

わたしはそれを肯定し、自爆行為だねと微笑んだ。

わたしがみんなからゴリラ呼ばわりされている彼と出会ったのは大学生の時だった。
サークルの同期として親しくなり、ごく普通に友人から恋人へと転換したのだ。

友人から恋人へ変わる瞬間は、どこに一緒に行くかで、その経緯がわかる気がする。

コンビニのピザまんに始まり、ケンタッキー、そして流行りのカフェ、さらにグレードアップすると、ハウステンボスといった感じだろうか。

私たちはとても順調に見えた。毎日会い、何をするでもなくしゃべり倒して過ごしたり、ゲームをしたり、グースカピースカ寝ていたり、お互いが気を遣わない、安心して一緒にいられる存在だと分かっていたのだ。

だがしかし、物語には必ずと言っていいほど試練がある。ロミオとジュリエットが周囲から彼らの恋をはばかられた様に、大きな壁が待っているのだ。

私たちはそんなこともつゆ知らず、日々を送っていた。

いつからだっただろうか。些細なケンカが増えてきたのは。些細なケンカは日に日に些細ではなくなり、気が付けば、顔を合わせればケンカするようになっていた。しかしそのケンカの内容は、わたしにとってかなり理不尽なものだと思えてならなかったのだ。単なるムキになったり、素直になれなくて……というものではない。

もっと黒々しくて、人間の負のエネルギーが凝り固まったようなものだったのだと今では思う。

その正体は「束縛」だ。

テレビでも雑誌でも、リアルな世界でも、女の子がたまに、
「束縛された~い」
と嬉しそうに語っているところを見たことがある。わたしはその時点では、束縛というものがどういうものなのかわからず、彼女たちの意見がよく理解できなかった。少女漫画でいう、「なんであいつと会うの?」とか、「この笑顔は誰にも見せたくない」とか、そんな類のことなのか? などと想像していた。結論的には、ちょっと歯が浮くような恥ずかしさだが、悪くないかも、とぼんやり思っていた。

これから自分に襲い掛かってくるそいつの正体に気づくこともなく。
わたしはこの時だけ、少女漫画を読みすぎていた自分を呪った。

初めはそう、やっぱり些細なことからだった。
「夜おそくに出歩くのは禁止」
「足の見えるようなスカートは履かないでほしい」
「男の人がいる飲み会はいかないでほしい」
「あの男とは関わるな」

もっともっと、それは束縛以外の何でもないと思われるようなことをたくさん言われたし、されてきたことは確実である。しかし、今の私はそれを明確に思い出すことができない。それほど頭の中から消し去りたいほどの息苦しい記憶なのだ。

彼は本当に口がうまかった。あらゆる自分がされて嫌なことを、わたしに理論的に言ってきて、どうしてほしいかを要求した。もちろんわたしはそれはあんまりだということについては反抗したのだが、どうもうまく反抗できず、結局言いくるめられるだけだった。

言いくるめられ続けると、さすがにもう諦めてきてしまう。いや、違う。本当に彼の言うことが正しいのだと思えてくるのだ。多分あの域はもう洗脳されていたように思う。しかし、肝心な自分自身はそのことに気づいていなかった。

会うたびに言い合いになる毎日は、ただただ苦しかった。あんなに楽しく触れ合っていた毎日が噓のように思えた。あの頃に戻りたいと願えば願うほど、彼の私に対する束縛は進行した。

なにも自分のやりたいと思うことができなくなったのだ。好きな服を着ようにも、この服はだめだとか、それは胸元が開きすぎだとか、異常な神経質さで言われる日々だったので、常にああいわれないか、こういわれないか、という彼の魔の声が頭の中にあったのだ。もちろんそういうデリケートなことを心配する気持ちはわかる。私も気を付けないとな、と思った。しかし、時には短いスカートをはいたり、大人に見えるような服を着たいと思うこともある。その旨を言うと、返ってきた言葉はなんと、「そうやってほかの男にモテようとしよるとやろ?」であった。いやいや、そんなことはない、わたしにはあなたという付き合っている人がいるんだから、というが、その言葉は彼には届かなかったようだ。

ある事件も起こった。わたしは、どうしても中学校のときの友人たちと集まって飲みに行きたかった。しかし、その場には男の人がいる。ばれない様にいこうかと思ったが、後々ばれることになれば、かなり大変なことになる。怒鳴られることがわかっていた。なんで俺の気持ちをわかってくれないのか、と。そんなことをするから信用できなくなって、また気持ちよく飲み会に私のことを送り出せなくなるのだ、と。時にはそれを泣きながら言うのだ。私たちはもう、そういう深刻なところまで来ていた。

しかし、彼がこうなったことにはある大きな理由があったらしい。それは、昔付き合っていた女の人に男関係で裏切られたという出来事。もともと心配性であるうえ、さらに彼にとっては残酷なことが起き、付き合った女性に対するその心配性がますますエスカレートし、今の状態になったのだという。わたしも相当思い悩んでいたが、彼も苦しんでいるように見えた。お互い傷つきあいたくないというのに、やっぱりだめなのだ。それは、相手のことが好きだからこそなのかもしれない。

だから私は、彼の心の傷がいえるまで、我慢しようと思った。しかし、それはとてつもなくきついことだった。すべて彼の言う通りにしなければならないのだ。好きな服も着れないし、自分が話したいと思う人とも会話ができない。わたしはだんだんふさぎ込んだ。狭く暗い部屋の中に閉じ込められたような気分だった。何一つ自由にできない。何一つ自分の思い通りにできない。少しでもその部屋から出ようとすると、どこからともなく押さえつけられる。だんだん周囲の人が私たちの異常な関係に気づき始め、何とか私をそこから抜け出すことができるよう引っ張ってくれた。しかしすでに洗脳されつくした私の心はどうすればいいのかわからず、ただただ私にも悪いところがあるのだ、彼は最もなことを言っている……
もうまさに、当たり前だが心のないロボットのようだった。

だけど、やはり私は人間だった。どうなったって完璧なロボットになれはしないのだ。腐敗したような私の心が涙を流し始めた。もっと自分の好きなようにしたい。もっと自由に、何も考えずに動きたい。たくさんの感情が溢れだした。夜中に一人泣いていた。わたしはもうどうしようもない、自分がどうすればいいのかわからないと思い、ある男の先輩に電話をしたのだ。真夜中に突然電話したにもかかわらず、その先輩は私の話を聞きに、会いに来てくれるといった。わたしはここまで来ても戸惑っていた。もしこのことがばれれば、それこそまたとんでもないことになってしまう。怖かった。でも、私もこれ以上息苦しい日々を送りたくないと心底思ったのだ。限界が来ていたのだ。これはもう賭けに入るしかないと思った。神様、お願いします。どうかバレませんように。そう願った。
わたしの不安をわきまえてくれたのか、わたしの家の近くにあるファミレスの駐車場で、先輩が乗ってきた車の中で話を聞いてもらうことになったのだ。

わたしは、すべてを話した。これまで起こった出来事と、それが起こったことで自分はどう思ったのかをすべて話した。友人と話す時にはいつも聞き手でいる私が滝のように話が止まらなかった。先輩は、ただただ静かに合図地をしながら聞いていた。そして私がひとしきり話し終えると、大真面目な表情で、
「それはかなりエグイ束縛だね」と言った。

わたしは、
「え?? そうですかね? これって束縛なんですかね?」と大真面目に返した。
わたしはその先輩に面と向かって言われるまで、自分がされていることを束縛だと信じ切れなかったのだ。もしかしたら、とは思っていた。全く感づいていなかったわけではない。だが、本当の束縛というものがこういうものだとは知らなかったし、自分がそんなことをされるなんて思ってもいなかったのだ。だから先輩に言われるまで、確信が持てなかった。

わたしがでも、と彼のことをかばうような言い訳を言うと、

「いや、それはやばいよ、お前たちは普通じゃないよ。二人の世界の中でしか話し合ってないから、そう思うのかもしれないけど、周りを見たら、全然違うことに気づくと思うよ」

それから先輩は、自分や自分の友人のことを例に出して、どんな付き合い方があるのかをたくさん教えてくれた。お互いを全く干渉しなくても、ちゃんと行き合っていけること。束縛が原因でお互いにマイナスになるのだったら、別れるというのも一つの手であるということ。わたしはびっくりした。自分たちの付き合い方のへたくそさに驚いたのだ。そして今までわたしが普通だと持っていたことが全くそうではないことに初めて確信できたのだった。

わたしは無知だったのだ。狭い二人の世界の中だけで生きていた。だからこの世界が普通になってしまった。最初は息苦しいと思っていたものも、長く続けば、心が無理やり適合していった。

しかし、世界がこれだけではないと知った私はもう、この世界から脱出するしかないと思った。この世界から飛び出して、もっと自由に自分らしくいられる場所を求めようと。

そう決意した私は、彼に別れを告げることにした。

わたしは彼に電話をした。なぜ面と向かって言わなかったのかは覚えていない。それでもしっかりと自分の思いを伝えた。あなたがしていることは束縛で、わたしはそれにこたえることがもうできない。わたしはもっと自由に人生を送りたいの。あなたのことはとても好きだったけど、わたしはもっと自分を大切にしたい。
彼は、別れたくないといった。わたしが初めてしっかりと自分の意見をゆるぎなく言ったので焦っているようだった。彼は、変わるから、と言った。自分が変わるから、と。今までは私に変わるように求めていたけど、離れるくらいなら自分が変わる。だから、別れたくないのだ、と。わたしは迷ってしまった。ここできっぱりと別れるつもりだったが、男の人はこんなにも泣くのかというほど本当の気持ちを訴えてきたからだ。わたしたちはそれからしばらくの間ずっと自分たちお思いをぶつけあった。理論的な話のできないわたしはめちゃくちゃに感情をぶつけた。彼ももう理屈じゃなかった。ぐちゃぐちゃになりながら、自分の想いをぶつけ、ごめんね、変わるから、と言った。

ひとしきり泣き終わった後、わたしはもう一度だけ彼を信じたいと思った。自分が変わるから、と懸命に言ってくれた彼を。人は簡単には変われないというのはわかっていた。でも、それでもあの、キラキラした毎日に戻れるかもしれないという希望があるのなら、もう一度彼を信じてもいいと思えたのだ。

彼は変わった。とてつもなく変わった。

もちろん少しずつだ。今に至るまでに大きな感情のぶつかり合いは何度もあった。だけどそれでも私たちの縁が続いているのは彼が少しずつ、確実に変わっていったからだ。

毎日連絡をとらないと気が済まず、電話に出ないと何十回も不在着信をいれていた彼が週に一度連絡を取るくらいでも大丈夫になった。帰りが遅くなる飲み会にも行けるようになった。でも心配だから、迎えに行ける時はいくよというスタンスに変わった。短いスカートを着ても、何も言わなくなった。いいとも言わないが(笑)

小さなことかもしれないが、本当に確実に変わってくれた。むしろ、あまりに干渉されなくなったので、今度はわたしが寂しくなって、彼に迷惑をかけてしまうことも多くなってしまった時期もある。

でも、今はその壁も乗り越えたからこそ、ケンカをすることもなく、お互いを想いあっていけているのだろう。

最近、わたしたちは数週間ぶりに会うことになった。会うと言っても夜の数時間である。最近はわたしが忙しく、彼と予定が合わなかったのだ。久しぶりに会ったが、別にいつもと変わらず、ふざけあったり、馬鹿な話をしたりしてのんびり過ごした。

帰り際にわたしは今日の夜ご飯を彼に、買ってきてーとお願いした。

完全にパシリじゃありませんか、と変な声で彼は言ったが、最近頑張っているからと、コンビニまでひとっ走りしてきてくれた。

彼も次の用事があるようで、急いでいたので、外から投げ渡していい? と言ってきた。

わたしは笑いながら「はあ?!」といったが、わかったよ、とうなずき、

彼が戻って来たという合図の連絡を待った。

しばらくして、買ってきたよーというラインがきて、わたしはベランダへと出た。
ベランダから下を見下ろすと、コンビニ袋をひっさげた彼が立っている。 

彼がいくよー! と言い、わたしは身構える。
彼がしっかりと口を締めたコンビニ袋をバサッと私のベランダに投げ込むが、あと一歩届かず。

そう一度。

「いくよ」

バサッ。

「おおーーー!」

二人でそう言って、今度は見事にキャッチできた。

じゃあね、と見送りわたしはコンビニ袋の中身をウキウキ気分でのぞく。サラダとささみスモークとおにぎりだ。わーいと独り言をつぶやきながら、カーテンを閉める。

わたしは思った。

ベランダ越しに上と下で何かを話しかけあうのって、ロミオとジュリエットぽいな、と。わたしはそれを、さっき別れたばかりの彼に言いたくなって、LINEした。

「さっきの、ロミオとジュリエットみたいじゃなかった?」

「ゴリオとジュリエット?」 
という文字と、悲しげな顔文字だった。

わたしはそれを肯定し、自爆行為だねと微笑んだ。

試練を乗り越えた先にあるのは、現代版のゴリオとジュリエットだったのだ。

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この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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