メディアグランプリ

書くことが人生を潤わす


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:成澤ゆう(ライティング・ゼミ 10月開講コース)
 
 
今週の日曜日は、娘の9歳の誕生日だった。
娘は、2週間前から文字通り指折り数えて過ごし、当日を心待ちにしていた。最近は大人びたことも言うようになってきたが、やはりまだまだ子どもらしく、微笑ましかった。
 
当日は本人の希望で映画を見に行くことにした。息子は映画にあまり興味を示さないので、「神様の言う通り」の指差しにより妻が息子の留守番相手で、映画の同行には私が選ばれた。心の中で、小さくガッツポーズをした。
 
朝8:50開始の回を予約し、駅前の映画館に二人で歩いて向かった。家の前の空はどこまでも青く、呼吸も自然と深くなる。いつもの公園に入ると近所の子ども会のメンバーがゴミ拾いをしていた。若干の気まずさを感じながら見知ったパパさんと挨拶を交わし、やり過ごす。
 
道すがら、誕生日の今日は何をして過ごすのか、昼前にケーキを届けてくれるじぃじとばぁばと何をしようかと話す。娘の表情や仕草が本当に大人っぽくなってきた。丸みを帯びた可愛いかった横顔が、すっとした綺麗なものになってきたことに寂しさも感じつつ、我が娘ながら誇らしくも思えた。
 
途中、通学路として渡ることを禁止されている横断歩道を、「学校に行かないからいいんだもーん」と、いたずらっぽい顔で先を行く彼女が渡った。抱きしめたい衝動を抑えながらそんな彼女を小走りで追いかけた。
 
その後も、腕に絡み付いたり、自転車を避けるために引き寄せたり、付かず離れず寄り添いながら歩いた。私を見上げて話す彼女の瞳は、さざなみに反射する光のように輝いていた。
 
彼女が選んだ映画は、「すずめの戸締まり」。
新海誠監督の作品は大概見ていて、可もなく不可もなしという感想を持っていた。今回も同程度だろうから、作品を観るよりも二人の時間を楽しもうと思っていた。
 
でも、主人公の鈴芽が靴のまま足首までの水深に足を踏み入れるシーンで、靴の中から浮かび出る細かな気泡を見た時、私は、「あれ?」と思った。
 
「以前の私は、この細かな表現に気づいただろうか」と。以前であれば、目には入っていても、「細かく丁寧だな」とは思わなかったと思う。
 
気づいてみると、他にも随所に細かな描写があり、登場人物たちの表情や心情も同様だった。とても丁寧に描かれていて、密かに唸ってしまった。
 
細かさに気づいたことでストーリーは立体的になり、新海誠監督が作品を通じて何を伝えようとしているか、明確に理解することができた。原作・脚本・監督を務めるこの人の天才性を初めて理解した。
 
映像美とふとしたセリフに唸り、虚をついたやり取りに笑い、最後の「戸締まり」では、娘に気づかれないように涙した。濃厚な2時間2分はあっという間に過ぎ去った。
 
私が大して評価をしていなかった過去の作品は、私の目が節穴だったのだ。今、見返せば、きっと別の感想が出てくるだろう。
 
私がこの細かさに気づけるようになった理由には、心当たりがあった。
 
それは、とある書店が開催する「ライティング・ゼミ」に通って、人を楽しませる文章の書き方を学んだからだ。
 
そのゼミはオンラインで受けていたが、毎週2千字の文章を提出しなければならない。4か月続く。文章の苦手な私には少なくない負担で、万象お繰り合わせないと対応出来ないレベルだった。
 
提出すると担当の人からコメントがもらえる。「面白かったです!」の言葉が唯一の励みで、そのために色んなことをお繰り合わせた。
 
最初の数回は全然駄目で、4回目くらいにようやく「面白い」と思ってもらえたようだった。少しコツを掴んだものの、まだ自分では手応えが無く、三歩進んで二歩下がるような状態が続いた。文章を書くことはやはり苦手だった。何より、テーマを見つけるのが大変で、毎週心休まる時間はほとんど無かった。
 
家にいる時は家族とのやり取りの中に使えるネタがないかと意識を高めた。通勤途上ではちょっとした人間模様に、会社では上司同僚とのやり取りに、買い物では店員さんとの会話に、意識を向ける先さえあれば細部にまで意識を向けた。
 
思い出も遡ってみたけど、人に伝えて楽しませるほど詳細に覚えているものが少なく、過去の自分を呪いたくなった。ちゃんと憶えとけよ、と。
 
でも、意識を高めた状態で数ヶ月過ごすと、捉える世界が変わってきた。
木々や葉の揺らぎ、肌に触れる風の流れ、やり取りする相手のわずかな動きまでが、細かく捉えられるようになっていった。これまで、捉えることはただ見ることだったが、見て・感じて・留めて・味わうことに変わっていた。
 
そして、味わった感覚をなぞるように言葉を紡ぐことで、味わいはより確かになった。だから、書くことで世界がこれまでよりもずっと濃密になった。
 
だから、娘と映画館に行くまでの時間も、新海誠監督の映画も濃密に感じるようになった。
 
ゼミでは、「書くことはサービスである」と教えられるが、私にとって「書くことは人生を濃密にすること」でもあったのだ。
 
濃密な時間は文章として「保存」をすれば、それは記憶の記録として将来の私に届き、鮮明に思い出すことを助けてくれるだろう。未来の時間も濃密になるのかもしれない。
また、もし私の文章が「サービス」として成立するのであれば、誰かの時間を濃密にするお手伝いになるのかも知れない。
 
ここまで、書くことについて書いてみて、改めて書くことの価値の高さに気付かされる。砂漠に流れる水のように、書くことは乾いた世界を潤すことに等しいとすら思う。新海誠監督の作品は、まさに世界に潤いを与えているが、監督自身が潤ったとても濃密な世界にいるのかもしれない。
 
そう思うと、ゼミが終わったらしばらく書くことはお休みかな、と思ってたけど、もうちょっとだけ書いてみようかなと思ってしまう。
 
ちょっとだけ……
 
 
 
 
***
 
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2023-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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