メディアグランプリ

41歳独身 色気なしの女が、街で男に声をかけられるとこうなる。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:のんのん(ライティングゼミ)

日曜日の夕方の銀座。

めったに行かないので基準がわからないが、クリスマスシーズンを迎え、ボーナスも近づく今日この頃。いつもより人出が少ないというわけはない。電車の扉を出た瞬間から、それぞれの方向へと突き進む、たくさんの人の群れと行き違う。

3路線が乗り入れ、複雑で広大で、巨大迷路の様相を呈する銀座駅構内。ただでさえ方向音痴で、地図があっても道も迷うわたしだ。行き交う人を避けつつ、目指す出口を探しつつ、前に進むだけでもいっぱいいっぱいだ。

田舎者的自意識が過剰なのかもしれないが、駅や街中でキョロキョロするのは、みっともなくっていやだ。情けない。
ましてや、ここは銀座。エレガントな大人の街。洗練された身のこなしが、浮き立つことなく自然とハマる街。新参者と古参者の街内格差が著しい、残酷な街。

はぁ〜。
「銀座が似合う女」なんてものには、一生ご縁がないまま人生が終わっていくのかしら。
銀座という街の重圧に飲み込まれて、勝手にブルーになる。

それでもなんとか見覚えのある通路にたどり着き、同方向に進む人の流れに乗ることができると、少しほっとできた。
よしよし。 気を取り直して、さっさと用事済まして、わたしにふさわしい街に帰ろう!

そのときだった。
数歩前を歩いてたサラリーマン風の男性が、突然振り返って声をかけてきた。

「あの、有楽町方面の……」

道を聞くんかい。このわたしに。

「あ、すみませーん。ちょっとわかりませーん」

ろくに目も合わせないまま、食い気味に断って立ち去ろうとする。

よくあることだ。そしてわたしは、ほんとに方向音痴なのだ。
冷たいように思われるかもしれないが、聞かれたってどうせわからないのだから、早めに次の人に当たってもらったほうがいい。

「いや、あの、違うんです」

男性はわたしを引き止めてきた。
違う? 違うって、なにが?

「さっき、有楽町方面の出口のところで、すれ違いましたよね?」

は?

「気づきませんでしたか?」

は?

「えっと、あの、あなたとわたしがってことですか??」

「はい」

……。

普通のサラリーマンである。
よく見ると、むかしアトピーかなにかで苦しんだのであろう独特のちょっと浅黒い肌の色をしている。しかし、それ以外には なんて特徴のない男。細身でどちらかというと小柄。イケメンでもなければ、マッチョでもなければ、奇抜でもない。
お前のなにに気づけというのか?

やべーな、これ、やべーやつだ。

「すみません。ちょっとわかりません」

さっきと同じセリフを強めに繰り返し、即行で立ち去ることにする。

そうなのだ。昔からわたしに声をかけてくる人って、なんかのアヤシゲなやつのアヤシゲな勧誘と相場が決まっているのだ。

18歳で上京して、初めて大都会を一人で歩いていたら、すぐに街角で大人に声をかけられて、「おお、これが噂の街でスカウトされるってことか??」とテンション上がったときも、そうだった。
「幸せになる方法を教える」という、わかりやすくあやしいセミナーへの勧誘だった。

希望の大学に1発合格して、夢いっぱい胸いっぱいの18歳の乙女だったはずだが、「あなたには、どうしてもこれを伝えなければならない! というオーラが見えた」そうだ。

あれからもう20年以上たつが、あれから何回、同じような人たちに声をかけられてきたか知れない。
そないに幸薄そうかね、わたし。

そういう、うんざり&ドン引き感が、思い切り顔に出ていたのかもしれない。

「いや、あの、違うんです。」

男もまた、さっきと同じセリフで、わたしを引き止めてきた。

なんだよ? 今度はなにが違うんだよ?

「あの、僕は、****社で経営コンサルタントをしている****という者なんですけれども……」

会社名とフルネームを名乗ってきた。まったく知らない会社だったから意味はないが。
とりあえず「アヤシイものではない」と言いたいらしい。

「今も、これからお客様のところに商談に行かなきゃいけないところで……」

知らんがな。

不安とイライラが毎秒倍増しているこちらの心情を知ってか知らず、男は超マイペースで、一言一言かみしめるように話す。

「こんなときに、こんなところで、わざわざ追いかけて行って、声をかけるというのも、どうかな? と思って、かなり迷いはしたんですけども、でも、どうしてもこれは、伝えなければならない、と思いまして……」

前歩いてたんじゃなくて、追いかけてきて追い越してたんかい?
なんやねん。そこまでして、わたしに「幸せになる方法」でも教えたいんかい??

「実は、あの……」

少し間を置き、声のトーンを落とし、最強にもったいぶって、男は言った。

「僕の、前好きだった女性に、ちょっと似てるんです!」

…………???

ナンパやったんかーーーーーーーーーーーーーーーい!!!

まさかの展開。

しかも「ものすごくそっくりで運命を感じました」的なことならまだしも、「ちょっと」ってなんやねん。

ツッコミどころ満載すぎて、どう落とし前つけていいものやら。フリーズするわたしに、男は依然マイペースになにか話し続けている。

「お顔にものすごくインスピーレーションを感じて……」

みたいなこと言ってたかな。もう覚えてないけど。

「すみません、急いでるんで」

立ち去った。
もう、立ち止まることはなかった。

41年間、モテるということを知らず、色恋沙汰に縁なく過ごしてくると、こういうことになる。
街で声をかけられて、まさかナンパだとは夢にも思わない。イライラモードで話を聞いてしまうので、入ってくるものも入らない。

ほんでまた、声をかけてくる方も、恐らく同じようなヤツなので、話の持って行き方が洗練されてないことこの上ない。
いくらわたしだからって、これで引っかかるはずがない。

年齢だけは大人になっても、銀座で声をかけられてみても、ちっとも色っぽい展開なりゃしない。

類は友を呼ぶ。
さえないわたしには、さえない人が声をかけてくる。
結局そういうことなのか。

とある新進気鋭の書店の店主は、「大きくなったらカメラマンになりたい」とかなんとか言っているみたいだが、
41歳独身のわたしは、ひとり帰りの電車でこうつぶやいた。

「いつか大きなったら、銀座が似合う、まともな男に声をかけられる女になりたいもんやで、まったく」
 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-12-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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