ぐちゃ味噌は、どうしても手放せない精神安定剤なのだ。
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記事:ゆりりん(ライティング・ゼミ)
「今日の夕飯何?」
トントン、トントン。
包丁とまな板が心地よくリズムを刻んでいる。
部活から帰宅した私は、居間へと続くドアを開けると同時に質問した。
トントン、トントン。
そのリズムが一瞬止まり、私よりも背の低い母がふふっと優しく微笑みながら返事をした。
「ぐちゃ味噌だよ」
「でたー、ぐちゃ味噌」
高校生の私は、毎日当たり前に出てくる料理に、特に関心を持たず、条件反射的に答えた。
ぐちゃ味噌。我が家の定番料理だ。にぼしからとっただし汁を使い、じゃがいも、たまねぎ、ほうれん草、かぼちゃ、肉、小松菜、しめじなど多くの具材が入っている味噌汁のことである。具材同士の色や味の合う合わないは関係なく、汁椀から溢れんばかりの具材が入っていることが特徴だ。栄養的に言えば、こんなに優れた味噌汁はないと思う。
ただ見た目が……、その名の通り「ぐちゃぐちゃ」しているのだ。
じゃがいもが入っていた時なんか特に顕著だ。じゃがいもが溶けて汁が白く濁り、ドロドロになっている。汁椀の表面張力でこぼれないように、踏ん張っているから、まずは具材を食べて表面張力を解消する。それからやっと、汁をすすることができる。こぼれないように、そっと汁椀を左手で持ち上げ、ゆっくりと口元へ運ぶ。
ふーふー。
ごくっ。
ひとくち飲む。
じゃがいものとろみ、ジューシーな肉の旨み、かぼちゃの自然な甘み……。
今思い返せば、母のぐちゃ味噌は化学調味料では到底出せないような、身体に染み渡るほっとする味わいだった。
なんで、あの時、もっと大事に飲まなかったんだろう。
なんでテレビを見ながら、なんで不機嫌になりながら、なんで特にありがたみを感じずに飲んでしまったんだろう。もっと、味わって飲めばよかった。
大学生の私は、料理に特に関心のない顆粒だしの味噌汁女だった。
社会人になり鰹節や煮干し、昆布などの食材が手に入るようになった。それからというもの、毎朝味噌汁を作っている。もちろん、だしから。
野菜は、毎週アパートに届く野菜BOXから選ぶ。働く人にとってありがたいサービスで、スーパーに行かなくても食材が揃う。季節の野菜が入っているから、栄養価も高い。しかもオーガニック。野菜BOXの中からめぼしい野菜を手にとり、まな板の上にのせる。包丁をまな板の上でリズムよく踊らせ、カットした野菜を鍋に投入する。今の季節は大根、人参、小松菜、ほうれん草など。ぐちゃ味噌を目指し、できるだけ多くの具材を入れる。
今では毎食飲まないと落ち着かない。
朝と夜はできるだけ野菜を多く入れたぐちゃ味噌を飲む。母の味とはやっぱりどこか違う。高校生の頃に当たり前に飲んでいた味が、今になってはとても貴重な味で、お正月の帰省の時ぐらいにしか飲むことができない。もっと味わって飲めば良かったな。
会社には味噌をサランラップに包んで持っていく。職場の引き出しにお麩や乾燥わかめを常備しておくのだ。具材と持参した味噌玉をマグカップに入れ、お湯を注ぐ。化学調味料の一切使われていない、味噌汁の完成だ。味噌汁を飲まない食事は、食事を完了した気がしない。なんだかそわそわするのだ。たくさん食べても物足りなさが残る。
どうしても野菜を切るのが面倒くさい夜は、お湯を入れたマグカップに味噌だけ入れて溶かしたものを飲む。名前の通りの「みそしる」だ。
「だし」「野菜」にこだわり始めたら、「味噌」にもこだわるようになった。今では自宅の冷蔵庫に「赤味噌」と「白味噌」を常備している。
「赤味噌」は味わい深く濃厚で香りが高いのが特徴だ。塩分が強く、具材の味に負けないので貝やお肉との相性が良いとのこと。ほんのりとした甘味のある「白味噌」は、野菜の旨みを引き立てることができる。脳の興奮を抑える神経伝達物質のGABAが含まれるため、リラックス効果や過食を抑えることできるという。やっぱり、科学的に見ても精神安定剤の役割を果たしていたのだ!
毎食味噌汁を飲んで、塩分は大丈夫なのかと思う人がいるかもしれない。
大丈夫なのだ。塩分は身体を温め、気力・体力を増し、健康を保つ上で一番大切な栄養素である。ただ、体内に留まると生活習慣病の原因となる。しかし運動や労働をして発汗し排泄すれば問題はないのである。
つまり、現代人が敵視するのは塩分ではなく、運動不足なのだ。運動や入浴で余分な塩分を発汗していれば、毎食飲んでも大丈夫なのである。
もはや、私にとって精神安定剤の域まで達しているぐちゃ味噌。もう、絶対に手放すことはできない。だからこそ私は、運動することをさぼらない人でありたいと思う。
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