なんか凄かったなと思う父の思い出
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記事:吉川真理子(ライティング・ゼミ2月コース)
父は、私が大学に入学してすぐの18歳の夏に突然亡くなった。
前日までめちゃくちゃ元気だったから、かなりびっくりした。前日の夜にアイスを美味しそうに食べて、肌着にこぼしている父の姿を見て軽く軽蔑したのが、最後の記憶になってしまった。
思春期でクールな対応をしてしまったけど、もっと優しくしていればよかったなと後悔した。
思い返すと、父は「夏祭り」の様な人だったと思う。
お祭りみたいに、明るく、いつも楽しそうで、仕事や趣味にも全力で、嵐の様なスピード感で人生を謳歌し、撤退は潔かった。
父は仕事が大好きな「鬼の営業マン」だった。住宅メーカーで、戸建て販売の営業をしていた。早朝から深夜まで働き、家に帰っても仕事の電話をしまくっていた。
不動産業は土日休みではなく、水木休みだったことも、私と父の微妙な距離感を作っていた。
とにかく見るからに激務だったが、弱音を吐くこともなく、むしろ天職の様に楽しそうであった。
私の考える「天性の営業マン」のロールモデルは、父である。
とにかく人懐っこくて、懐に入るのが上手い、男に可愛がられる男だった。仕事以外は何もできなかったが、突出したコミュニケーション能力でカバーできていた。
私が中学1年生の時に、父はマイホームを建てた。戸建て販売をしていた父にとって、マイホームは一つの夢だったと思う。同時期に3軒新築が建つので、近隣の入居者まで調べ、とても親切なお隣さんにも恵まれた。
引っ越してすぐに、町内会に顔を出し、みんなを引き連れて、自慢のマイホームを紹介していた時は、その馴染むスピードに驚いた。
町内会の当番で「火の用心」の夜回りの際も、先頭きってみんなを引き連れていた。お調子者と人の懐に入るスピードがとにかく凄かった。
父は、家では野球好きのタバコばっかり吸っているただのおじさんだった。
でも、父のお葬式と自分が社会人になった時に父の凄さに気が付いた。
現役の営業所長が会議中に倒れ、そのまま病院に運ばれ、脳溢血で亡くなったのだ。会社の人も、同じように激務であったし、「明日は我が身」と戦慄が走った事だろう。
お通夜、お葬式の際に、かなりの会社関係者や友人が参列し、涙を流してくれた。
父にそっくりな営業マンたちが、涙を流している姿を忘れない。こんなにも愛されて、良い仲間に恵まれていたのだと思った。
激務と高血圧が関係した突然死だったが、父の仲間たちは、父の会社への貢献についても訴えてくれた。情に厚い、父みたいな人がそこには何人もいた。
父の勧めで違う業界に転職した部下も毎年仏壇に手を合わせに来てくれる。父を可愛がっていた兄貴分も毎年シャインマスカットを送ってくれる。
もう20年も経つが、毎年会社のメンバーがお墓参りに来てくれている。
自分が死んだら、こんなにしてもらえないと思うから、いかに父が周りに愛されていたかがわかったのだ。
父が死んでから、私は遅刻することが増えた。よく考えたら、遅刻しそうになると、黙って玄関に車を横付けして、駅まで無言で送ってくれていたのだ。
常に10分前行動の父は、やはり営業マンの見本だった。
社会人になり、一般職として営業部で働き始めた。毎日怒号が鳴り響く環境であったが、私は平気だった。
父が鬼の営業マンだったから、毎日部下に鬼電を掛ける父のお陰か、その怒鳴り声に慣れていたのである。
そして、現在はパワハラになるので、こういう上司は減ってしまったが、部下を叱ってくれる上司は、「実は優しい」ということに、私は早い段階で気がついていた。愛情がなければ「怒る」ということ事態、疲れることだから、放っておかれるのだ。
そして、あんなに飲んで、朝早く出勤して、夜遅くまで働く体力面でも、凄さを感じた。社会人になって毎日働くことで精一杯で、あんなパワフルであること事態すごいと思った。
会社の人を父が新築の家に招いた時、部下に「お嬢さん、所長に似ていますね」と言われ、デレデレしていたのを思い出す。私はすごく嫌がっていたけれど。
受験に受かった時にも、会社で自慢していたと後から聞いた。
これらは、私が社会人になり、すごくいい教訓になった。
どんなに怖い鬼の営業マンでも娘にはデレデレである。
鬼に見える怖い上司も、娘の前では優しい父なのかと思うと、怖くなくなった。
時々思い出すことがある。父は、家事全般何もしなかったが、年末の大掃除になると、なぜか雑巾を持って、外側の窓拭きをしていた。
近所の人に目立つ場所を本能的に選び、「家の事を手伝う旦那さん」を見事演じていたのだ。
あっという間にいなくなってしまって、悲しかったけれど、思い出すのは、そんな「夏祭り」の様な楽しい父である。
***
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