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アラフォーになっても給料日前にお金を借りに来るシンくんの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:牛丸ショーヌ(ライティング・ゼミ)

「すまん、今月一万貸してくれん?」
決まって月の初め頃に僕はこのようなLINEのメッセージを受信する。
彼は僕に対して、お金を無心するのだ。
そのような関係が僕らの間ですでにできあがっている。

メッセージの送信主の名前はシンくん。
もっとも僕は彼のことを「おい」とか「お前」と呼ぶので、「くん」をつけるのは本意ではないが、彼の周りの親しい人たちからはそう呼ばれているらしいので、シンくんとしておく。

シンくんは、僕が中学生だったときからの友人だ。
つき合いの長さでいけば、かれこれ25年くらいになるだろうか。
一般的には「親友」と呼び合う仲なのかもしれない。
現に、彼は僕のことを親友と思っているふしがある。
しかし、僕が考える彼との関係は、少し他人からは理解しがたい特殊な関係性だ。

シンくんと僕は中学1年生で出会い、3年生の高校受験を控えた冬休みには、僕が当時通っていたスパルタの学習塾を紹介し、一緒に冬期講習を受けたことがある。
彼はわずか2週間の冬期講習で偏差値が10もあがった。
その勢いのまま、僕と同じ高校を受験し、入試の獲得点数は僕よりも高かったほどだ。
しかし、典型的な理系脳で、高校に入ると、現国の小論文の提出課題があまりに稚拙で、爆笑必死の内容だったため、原稿用紙はクラスメイトの手から手へ渡り、隣のクラスまで回覧され、さらには文系理系の壁をすり抜け、階下のクラスまでこの小論文を目にする事態となった。
そして、彼は「おバカで面白い人」として高校では認知され、知名度をあげたのだ。
僕が文系で、彼が理系だったため、高校生のときは疎遠だったが、多くの友人に囲まれて楽しそうに青春を謳歌している様子を傍で眺めていた記憶がある。

それから、何の因果か、大学まで一緒になった。
こうなると、もはや腐れ縁である。
もちろん彼の自宅へは何度も遊びに行くことがあったので、彼の両親は僕のことを知っていて、僕に対しては「真面目でしっかりものの友人」という抜群の信頼感を持っていた。彼はそれを利用して、夜遊びするときには、勝手に僕の名前を出すようにしていたという。
そうすることで、彼の両親は安心感を得ていたらしい。
そんな彼は医学部でも院に入ったわけでもないのに勉強熱心で、大学に7年も通うという偉業を成し遂げ、僕より3年遅れて就職した。
しかし、「何か違う」という違和感を抱き、上司とケンカして会社を辞めるということがルーティーン化してしまい、職を転々としたらしい。
転勤族だった僕は実家に帰省しても、時間を作ってまでわざわざ彼と会う気にもなれず、一年に一回程度、メールをするくらいの繋がりになっていた。
社会人になり家庭を持てば、旧友たちと疎遠になるのは誰もが経験することだと思う。
シンくんと僕の関係もそうなるはずだった。
ところが、である。

東京で働いていた僕が2年前に転職して地元の福岡に戻ってきたときのこと。
久しぶりの再会を果たした僕らは、シンくんの仕事場から僕の自宅まで自転車でわずか15分の距離だということもあり、頻繁に会うようになった。
夕食後の夜21時過ぎから近所の公園に行き、格闘技の練習をしたり、ランニングをしたりと一週間に一度の頻度だった。
10月のある夜だったと記憶している。
身体を動かし、ひと汗かいた帰り道にシンくんは突然、「ごめんけど、2万円くらい貸してくれん? お盆に鹿児島のお祖母ちゃんのところに行ったりして、お金がないっちゃんね」と申し訳なさそうに懇願してきた。

「は?」僕は軽く驚いたふりをした。
正直、僕はこの状況がすごく面白いと感じてしまった。
30代の半ばを過ぎて、友人にお金を借りることをいとわないシンくんが、愛しいとさえ思えた。これは同情でも憐みでもない。
僕の中に生まれた名状しがたい感情だ。

僕は貸すことにした。
面倒な借用書も、念書のたぐいも一切作っていない。口約束のみだ。返済日はシンくんの給料日である20日の夜。
こうして、僕とシンくんの関係は、親友関係を飛び越えて、「貸主と借主」の関係に飛躍したのだ。

大人になると、親から子へ送られる大切なメッセージ(特に男性の場合)のベスト3に入るだろう「友人の借金の保証人にだけは、ならないように!」というものがある。
これは、債務者たる本人が夜逃げや、行方をくらましたことによる返済義務が保証人である自分に廻ってくるリスクを忠告したものだ。
僕の場合は直接の貸主になったのだ。
僕らの間には誰も介入していない。
いわば、誰にも迷惑はかけていない。
僕が負うべきリスクは、貸したお金を回収できるかどうかのリスクのみ。
さいわい、僕の職業は金融業なので、回収ノウハウに関してはプロである。
そして、彼のことは知り尽くしている。
家族まで知っている。
何も躊躇する理由はなかった。
ちなみに、今まで返済が滞ったことは一度もない。

それから2年少しが経過した。
このズブズブの関係はまだ続いている。

「えー、どうしよっかなぁ。いつ必要なん?」
僕はLINEのメッセージを返す。
「できれば今週。もちろん利息払うけん」
今まで僕が金の無心を断ったことはない。彼もそれを知っている。
でも、僕は素直に分かったという返事に飽きてきているのだ。
「今回は何で、金欠なん?」
「なんか知らんけど、今月はいきなり住民税が天引きされとって、いつもより5万給料が少なかったんよ」
彼の言い訳がユニークなので毎回、理由を訊くのを楽しんでいる。

つい最近、会ったときにシンくんが僕に対してこんなことを言っていた。
「おれ、めちゃ感謝しとうよ。もし、宝くじが当たったらマジで20%くらいあげてもいいと思っとうよ。いや、やっぱ10%くらいかな。それくらい感謝しとう」

この言葉で僕は救われた。
20%をちらつかせて、10%まで下がったのには気分悪いが、とにかく彼が僕に感謝している雰囲気はこの言葉で確かに伝わったのだ。
ネット社会の現代では、すぐに人と繋がれる半面、人と人がリアルに会うこと自体が少なくなっているように感じている。
お金だってネットから申し込みして、当日中に口座に振り込まれる時代である。
実際に会って、お互いの顔をみて、話さないと分からないことは多い。
そういう意味では、顔を合わせ、手から手へ札束を渡すという最高のコミュニケーションが僕とシンくんの間では成立しているのだ。

「ところでさ、宝くじ買ったことあるのかね?」
「いや、今のところはないよ。」

あと数年で僕らは40歳になる。
そして12月は師走。
1年で最も財布からお金が出ていく一カ月でもある。
忘年会、クリスマス、おおみそかとイベントが目白押し。
シンくんが耐え凌ぐことはほぼ100%不可能だろう。
来る。
きっと来る。
彼から12月の初めに来るであろうLINEメッセージを心待ちにしている僕がいる。

 

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2016-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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