器の小さな人間は、人一倍他人を思いやれる人間なのである
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記事:あこ(ライティング・ゼミ12月コース)
先日テレビを見ていたら、芸能人が器の小さい話をして盛り上がっていた。
「飛行機の機内放送で“右側に富士山がきれいに見えています”ってわざわざ言いますけど、あれ必要ですかね? 僕は窓側の席だったんですけど、隣の席の人が、僕の前に身を乗り出して富士山の写真撮り始めたんですよ! ここは僕のエリアでしょ? なんで入ってくるの?」
手を激しく動かしながら、自分のエリアを説明している。
わかる。すごくわかる。
スタジオでも「それくらいいいじゃない」という派と「アナウンスは要らない」と賛同する派に分かれた。
前者は「富士山を見られる機会なんて少ないんだから、いいじゃないですかそれくらい」「縁起が良いんだから、みんなで分け合いましょうよ」とごもっともなことを言っている。後者はさらに「自分は見たくないのに、隣の人たちのために窓開けなきゃいけないの? えー、やだよー」「窓側の席を買ったってことは、窓の開け閉めも自由にできる権利を買ったってことでしょ?」と譲らない。
本当に器の小さな発言をしているなと思いながらも、私は窓側の席の権利を主張する芸能人に激しく賛同した。正論だと思う。
私も器の小ささでは負けない。
スーパーのレジに並んでいる時、異様に距離を詰めてくる人がいる。
まず、コロナ対策で立ち位置には目印が貼ってあるし、そんなに詰めなくても間に人が割り込んできたりしない。前に並んでいる私にくっついたからといって、会計にかかる時間をそんなに短縮できるわけでもない。
私がただの自意識過剰なだけかもしれないが、買い物の内容をじっと見られているようで嫌な気しかしない。
この人、他人との距離感がバグっている。私から離れて欲しい。
電車に乗っている時に思う不満がある。
ビジネスバッグで2wayタイプとでも言おうか、手で持つことも、リュックにもできるバッグがあるが、電車の中でもリュックで背負ったまま乗っている人がいる。リュックにした時にバッグの底面が横になるので、隣に立っている私にもろに当たるのである。
その人が頑なにバッグを地面に置かずに、丁寧に扱っているというならまだ許せるが、そんなに繊細な人間に見えない。地面に無造作に置かれているであろうそのバッグの底面が、私のお気に入りのコートに当たっている。電車が揺れて、私のコートに擦りつけられている。
クリーニング代を請求したい。
電車と言えば、こんなこともあった。
激混みの電車の中でイチャつくカップルがいた。ドア横に彼女を立たせて、車内側に彼が立ち、彼女が人混みに押しつぶされないように彼が一生懸命ガードするのである。彼女はしっかりとスペースが確保され楽しそうにおしゃべりをしていて、ドアが開いても降りることもしない。
こっちは車内でガッツリ押しつぶされている。
頼む、そのスペースを詰めてくれ。
カップルなんだから、くっつけばいいのに。
だんだん、不満なのか、カップルへの妬みなのかわからなくなってくるが、そんな八つ当たりもしたくなるような状況なのだ。彼に守られて笑っている彼女が羨ましかったのかもしれない。
もちろんここに書いたようなことは、自分でも「器が小さいなぁ」と思う。
わかっているからこそ、誰にも言わず、自分の中で消化する。
しかし、きっとみんなも声には出さずとも、思っているのではないかと思う。
あのテレビのように、みんな声に出せばいいのにと思うが、自分の器の小ささを露呈することになるから嫌だろう。
この気持ちをどうしたらいいかと考えて思いついたのが、「人の振り見て我が振り直せ」だ。
自分がやられて嫌なことは、人にしない、精神である。
恐らく、レジで詰めてくる人やビジネスバッグを背負ったまま電車に乗っている人は、気づいていないのではないかと思う。この手の話は、無意識でやっていて言われて初めて気づくことが多いと聞く。(恐らく、彼女をガードする彼氏は、言われても直すことはないだろうが)
もしかしたらこんなことを書いている自分自身も、気づかないうちに人に嫌な思いをさせてしまっているかもしれない。
だから、たまに立ち止まって考えてみることにしよう。
通勤電車の中で、このバッグの持ち方で迷惑をかけないだろうか、濡れた傘から前の人にしずくが落ちていないだろうか。会社で、キーボードを叩く音はうるさくないだろうか、電話の声が大きすぎないだろうか。
こんなに気を使っていたら、こちらが神経衰弱になりそうではあるが、「たまに」でいいので立ち止まって相手の気持ちを考えてみるといいのではないかと思う。
外国のように「自分は自分」という精神もとても素敵だと思うが、「自分がやられて嫌なことは、人にしない」という日本っぽい精神も私は好きだ。
器が小さいことはできれば隠したいが、それを生かして、ほどよく自分を持ち、ほどよく相手を思いやれるような、絶妙なバランスを持つ人間になれるといいなと思っている。
***
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