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病気が教えてくれたこと

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:堀部 佳野乃(ライディング・ゼミ 2月コース)
 
 
「うつ病ですね」
 
心療内科の先生からそう告げられたのは、18歳のときだった。
 
それまでの人生は、多少の波はあれど、うまくいっていたと思う。
小学生の頃から比較的何でもこなせるタイプだった。
中学生になってからも、委員長になってみんなをまとめたり、ピアノが得意だったためピアノ伴奏をしたりと、目立つことも多かった。
高校受験も第一志望に推薦で合格することができて、完璧だった。
 
先生や友達からチヤホヤされて、あの時のわたしはとても調子に乗っていたと思う。
「わたしは何でもできる!」と、自分の能力以上のものを信じていた。
 
だから高校生になってからも、後先考えずに何でも挑戦した。
これまでバリバリの文化部だったのにめっちゃきついバドミントン部に入ってみたり、睡眠時間を削って勉強してみたり、明らかに自分のキャパを越えた行動をしていた。
 
その結果、部活動を開始した1週間で疲労骨折を引き起こし、睡眠不足により喉がパンパンにはれる扁桃炎を引き起こし、学校の勉強にもどんどんついていけなくなり、高校1年生の夏ごろには精神的に参ってしまっていた。
負のオーラが出ていたらしく、周りからは心配され、
「明らかに変だよ。せめて部活は辞めたら?」
と何度言われたことか。
 
だけど、過去の栄光にすがってプライドがあったわたしは部活を辞める選択肢なんて無かった。
辞めたら何でもできる自分ではなくなってしまう。
そうなるのが怖かった。
 
しかしそんな生活をズルズルと続けたことで、とうとう高校3年生の受験のときに限界が来た。
 
秋ごろからよくお腹が痛くなり、学校を休むことが多くなった。
冬ごろには朝起きられなくなり、ついには不登校になった。
学校に行こうとして、朝は何とか起きられたとしても、服が着替えられない。
服が着替えられたとしても、靴がはけない。
予定していた受験も結局受けられなかった。
何でもできると思っていた自分が、当たり前のことすらできなくなったことが悲しくて、毎日毎日
「死にたい」
と思っていた。
 
調子が良かった頃のわたしは、不登校になる子の気持ちがまったく理解できなかった。
「学校に来ないなんて、考えられない。ただ来ればいいだけじゃん。簡単なのに」
学校がチヤホヤしてくれる居心地の良い場所だったから、学校に行かないということを考えたことが無かった。
 
また、
「自殺なんて考えられない。せっかくもらった命を自分で捨てるなんておかしい」
みたいな考えのタイプでもあった。
例えば、人身事故で電車の到着が遅れていたりすると
「死ぬのは勝手だけど、周りの人に迷惑がかからないような死に方をしてほしい」
とか言っちゃう冷たい人間だった。
まさかそんなわたしが、不登校になり、死にたいと思うようになるなんて……
 
そこまで体調が悪くなっていたにも関わらず、まだプライドが抜けなかったわたしは、周りのペースに遅れることが嫌で浪人を決意し、予備校へ通おうとした。
しかし、それも3日で断念。
約50万円もの予備校代が無駄になってしまった。
 
そこまでしてようやく、きちんと休まないとだめだと気づき、すべてのことをストップして療養に専念することを決めた。
家族の理解と協力もあって、わたしは自宅でしっかりと休むことができた。
ドアを閉め、カーテンも開けず暗闇の中で、ひたすらベッドで眠り続けた。
しっかりと休んだ甲斐あってか、徐々に体調は回復していった。
 
完全に体調が回復して、普通の生活が遅れるようになるまでには、実に4年かかった。
想像以上に長かった。
18歳から22歳という人生の中で1番エネルギッシュで活動的なイメージがある年頃に、うつ病になりずっと家に引きこもっていたから
「何でわたしがこんな目に遭わなきゃいけないの?」
と何度も思ったし、悔しかった。
 
だけど、元気になった今はこう思える。
「うつ病になってよかったな」
と。
 
うつ病になって、勉強がうまくいかない人の気持ち、不登校の子の気持ち、自殺したくなる人の気持ち、様々な気持ちがわかるようになった。
今もし、人身事故で電車が遅れていることを知ったら
「どうして自殺という選択をしてしまったのかな?」
と考える。
人の痛みに寄り添える人間になれたと思う。
 
うつ病になる前のほうが、人生はうまくいっていたかもしれない。
だけど、うつ病になる前の自分には絶対に戻りたくない。
 
病気になったのは、わたしの身体が
「無理しないで休んだら?」
と知らせてくれたのだ。
身体は正直で、まるでセンサーのようにわたしに警告してくれた。
実はうつ病になる前から身体の違和感は感じていて、そのセンサーをないがしろにしてしまったことが病気を発症した原因だろう。
 
大学へ進学して、就職して……
多くの人が通るであろう人生のレールからは脱線してしまったかもしれない。
 
だけど、脱線したからこそ、見える景色があったり、新たな感情を知ったり、素敵な人との出会いがあった。
うつ病は今のわたしを形作る大切な要素であることに間違いない。
 
最近は初めて会った人に
「明るいね。挫折したこと無さそう」
とよく言われる。
 
あれだけ放たれていた負のオーラは、もうどこかへ飛んで行ったようだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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