樹上にマジンガーZのコックピットが現れるまで
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀越ひでき(ライティング・ゼミ2月コース)
子供の頃、私の背丈と同じくらいの高さだったはずなのに、気が付けば、マジンガーZの身長を優に超える30mくらいの高さとなった杉の木。それは家の裏手で家から10mほどしか離れていない山際に生えています。そんな家の近くにある木だから、これ以上大きくしたら管理が大変です。といって、私の力量で、そんな高さの木……幹回りは80㎝はあるでしょう……を切り倒すことは、「冬山経験のない私が、冬の中央アルプスへ登頂をしかけるようなもの」、事故のもとです。無理はしてはいけません。
私の実力はというと、中学生の頃から、家に植えてある小さな庭木を勝手に剪定していました。大人になり、高い松とか紅葉とか、家の周囲に散在する伸び放題の木に果敢に登って剪定していました。その時は怖いものなしでしたから、ノコギリ一本だけを持って登って、高い木の枝とかを切り落としてました。でも、親戚の叔父さんから言われた一言が私を変えました。
「どんな低い木でも命綱を付けて作業しないといけない」
そうなんです。過信禁物、木に登るなら命綱を付けてです。
それからは、命綱を付けて木に登るようになりました。そうしたら逆に木の上が怖くなるんです。命綱というリスク対策をとることで「落ちるかもしれないんだ」と心が感じてしまうんです。でもこれは正しい恐怖なんだと思っています。怖さと向き合いながら仕事をしないと、いつか事故を起こしてしまうでしょう。この辺りが人の心の難しさ、不思議さだと思います。
そうした学びを得ながら、気が向けば大きな木に登って剪定をしていました。もちろん命綱をつけて。
でも……だから、大きな木を根元から切るというのは、あまり経験がないのです。そして木が倒れる時の怖さは「半端ない」ことも知っています。木は本当に重たいですし、倒れる時のスピードは想像以上ですし、なにより木を倒したい方向に倒すのって、なかなかできない。事故も相当あるのではないでしょうか。だから木を切ることをちゃんと学んでいない、私がいきなり大きな木を切るのは怖いです。
そこで次善の策として、先端部分をちょん切ることにしました。もう大きくならないようにと、願いも込めて。
では作業の手順を説明してみます。
まずは、20mくらいの梯子を木にかけて登り、そこから枝伝いに1mほど登ったあたりの幹回りが30㎝程度でした。
感覚的に「これならノコギリでも切れるかな」という位置です。この位置を決めるのが一つのポイントでもあると思います。幹が細くなると切るのは楽になりますが、その分高く昇らなくてはいけないし、幹が細いので揺れるんです。風でも揺れるし、身体を動かしても揺れたりします。地上30mでの揺れ……それはそれで「怖い」んです。
そういう意味で、30㎝の幹回りポイントは重要です。
大体の切る位置を確定させると、次は命綱(腰に巻き付けたロープの先端)を杉の木に巻き付けます。そのうえで足場となる枝に足を慣らして切る姿勢を確認していきます。私はノコギリなら両方の手で使える両刀使いなので、どっちの手で切るのが楽かも考えながら決めていきます。そしていよいよノコギリを幹に当て切っていきます。最近のノコギリはよく切れますが、それでも30㎝は一気には切れません。木の上で何度も休憩しながら、切っていくことになります。
樹上では、大地の上とは違った経験を体験します。足場が不確かで命綱があるとはいえ、下手をしたら落下しかねないわけですから、無意識にも腕や脚などなど各所の筋肉が自動で働き、チカラを使います。
そいうふうに身体を使いながら、3月の陽気で緩んできている自然を体験します。耳では、カラスの鳴き声やそよぐ風の音を聞いたり、樹上ひとりの世界でちょっとした異空間を味わったりもできるのは、楽しみですね。
こういう時、下をみて、ちょっとした肝試しをするのも、楽しみのひとつです。やりすぎると怖くてしょうがなくなるので、よい加減でしないといけませんけど。
「ブーン・ブーン」
遠くの山でチェンソーで木を切り倒す音が聞こえてきました。
たぶん、家の田んぼをはさんで向こうの山で、チェンソーで本格的に木を切り倒しているようです。そんなチェンソーの音を遠くに効きながら……
「こっちは、ノコギリかよー」
と使えもしないチェンソーへのあこがれを抱きながら、愚痴ってしまうのです。やっぱり、ノコギリで切るって力いりますから。
そうこうしていると、幹が「メキメキ」音をたててきます。幹回り30㎝といえども、枝もついているので相当の重量になるし、倒れ方によっては危険です。何しろ樹上20mの世界ですから。なので最後は慎重にもの慎重を期して倒れる方向を考えながら、自分の姿勢といざという時の退避(といっても幹に「しがみつく」ことですが)を考えながら手を動かしていると、舞台の情景が一気に変わるように、幹が「バッサ」っと倒れ、目の前の情景は一気に明るく変わっていきます。枝が取っ払われるから、明るくなるのです。
そして上の枝がなくなる一方、下の枝は従前ののように盛り上がっています。この情景は、「マジンガーZじゃねーか!」樹上がコックピットに感じられました。子供心を思い出してひとしきりマジンガーZに乗っかった気分を味わって、木を下りていくのでした。
この切った木を整理するのも、ひと仕事なんですけどね。
***
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