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友達との楽しい時間に息苦しさがあった頃の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ハタナカ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私から見たAはとても器用な人だった。
周囲をよく見ていて、細やかな気配り上手な姿。普段は決して目立つことはせず、けどスポットライトが当てれば無難に返して流す。大学の勉強にもサークルにも熱心に取り組んでるわけではないが、単位は順当に取るしサークルは程よく参加して楽しみつつ彼氏も見つけていた。
恋にときめく姿はどこまでもピュアで女の子らしいのに、その一面を見せる相手をAは慎重に見定めていた。ある日、Aと2人だけで他の人には秘密の恋バナを約束していたことがあった。部室から2人で去ろうとすると
「え、2人でどこ行くの? 私も行きたい!」
と他の女子が話しかけてきた。
「あー、ちょっと今日は難しいかなー」
「えー、それって何の話? 私はダメなの?」
私は元々その子が苦手でしつこさに少しイラっとしつつ、咄嗟の嘘が下手な私がどうしようと困っていると、
「ゼミの課題について話さなきゃいけないんよー。だからごめんね!」」
とAがさらっと返した。
「さすがA! 私ああいうの絶対できないから本当に凄い!」
「そうやろ~! ああでも言わないと絶対2人で話せないって思ったから!」
2人だけになった時に興奮気味にそんな話をしたのを覚えている。
 
私とAはゼミもサークルも同じで一緒に行動する時間が長かったけど、性格は本当に正反対だった。
私はとにかく不器用で何に対しても体当たりでぶつかるタイプだった。悪目立ちもよくするし、単位に対しても詰めが甘くて落としかけたことは多々ある。
どこでもいじられキャラの私と、私の言動一つ一つを隣で面白がるAはまさにボケとツッコミのようで、不思議と息ぴったりで気が合った。
 
当時の私はAとのサークルとは別に、実質計3つのサークルを掛け持ちしていて、しかもどれもそれなりの役職にいてとにかく燃えていた。いつも何かしらのサークルの仕事や活動に追われている私に比べて、Aは程々の勉強にバイトにサークル、そして彼氏に就活と王道過ぎる大学生活をしていた。
私と重なる部分は一緒に頑張ってAのことは信頼していたが、しかしサークルの悩み事をAに話すことはあまりなかった。AにはAのやりたい大学生活が明確にあって、それはサークルの運営や活動に打ち込むことではないのは何となく分かっていた。
それがたまに寂しい時もあったが、大きく気にする点でもなかった。少なくとも最初の頃は。
 
しかしある時期、足並みを揃えたみたいに私が所属していたサークルがどれも立て続けに問題が起こった時期がある。
人間関係、モチベーション、引継ぎ等々……色んなとこから問題が溢れ出して、やる気満々で頑張っていた当時の私にはなかなかキツイものがあった。
私は一つ一つの事情を聞いては思い悩んで行動して、そしてまた思い悩んだ。
何となくの事情を知るAは私の愚痴を聞いてくれたりお菓子をくれたりして励ましてくれた。それでも「大変やね、でも私は味方だから!」と言うだけでそれ以上は決して踏み込むことはせず、私はふとそれが本当の賢い選択なんじゃないかと思った。
 
どうして私はこんなしんどい思いを抱えてまで頑張っているんだろう?
お金も稼げないのに、責任のある立場になんてならない方が良かったんじゃないか?
 
自分が心からやりたくて、大変になるのも覚悟して頑張ってきたはずなのに、全部間違いだったんじゃないかと息苦しさが生まれた。確かに感じていた成長ややりがいすら、空虚なものである気がしてくるようになった。
勿論Aのせいではないのは分かっている。
ただ自分とは違う生き方が出来る人が真横にいて、その人が上手に楽しく生きているのを見せつけられると、どうしても比べてしまう自分がいた。
そんなことで悩みつつも、私はやはりサークルのことを放棄出来なかった。
しんどくても自分が自分でいる為に、ここで踏ん張りたいと思った。誰かに褒められるわけでもないのに。
 
それでも結果として、頑張って良かったと思えることは沢山生まれた。
何とかやれるだけのことはやって、落ち込むことも沢山あったけど、後輩に何気なく感謝の言葉を貰えた時は涙が出そうになった。
 
私はAみたいになれないけど、でも私はこれで正しかったんだ。
 
その気持ちは本当だった。
それでもどうしても、不安になって思い悩むことは終わらなかった。
物事を同時並行で進めることの出来ない私に、サークルを実質引退してから待っていたのは周囲より遅れた就活や卒論だった。
サークルをどれだけ頑張っていたかなんて関係ない。Aや他の子は前を進んでいるのに、という焦りが常にあった。
でも私は体当たりで頑張り続けるしかなくて、それがやはり息苦しかった。
 
堪らなく悩んでいたある日、サークルの顧問の先生にとうとう相談した。
「私は目の前のやりたいことを私なりに頑張って成長したと思えたのに、でも周りの人を見ると置いてかれてるような気がして……本当にこれで良かったのか、分からなくなるんです」
すると顧問の先生は、熱量を感じる勢いで答えてくれた。
「そんなん、悩んで当然よ! 俺も本当にやりたいことを見つけたのなんて、三十になってようやくだからね? 二十代なんて、頑張っててもこれでいいんかなあって思うもんよ! それが普通よ! 大体まだ大学生でしょ? そんなん、これからいくらでもどうにかなるもんやって!」
そんなことを言われた。サークルでの自分を知ってくれている人の言葉だけに、胸が熱くなった。
自分はAみたいな器用な人間になれないのだと思う。
でも不器用なりに私は私が納得出来る生き方で進んでもいいのだと、希望が見えた思いだった。
 
そうして季節は流れサークルの追いコンの日、後輩達からこれまでの活動写真が貼られたアルバム冊子を貰った。
「アルバムにスペースは空けておいたので、良ければそこを先輩同士でメッセージを書くのに使ってください!」と言われ、同期のと交換してお互いにメッセージを書くことになった。
勿論Aとも交換した。何を書こうか悩んだ末に確かこんなことを書いた。
「私が苦手なことを得意でいてくれるAが、私と一緒にいてくれるのに凄く安心感があったよ。器用なAが本当に羨ましかったよ」
気恥ずかしさもあったが、間違いなく私の本心だった。
Aから自分のアルバムを受け取ってすぐに読んだ。いつも一緒にいて笑いが絶えなくて楽しかった、寂しくなるね、といった内容と、更にもう一つ書かれていた。
「本能のままに生きる姿、いつも羨ましいと思ってました」
それを読んだ時、私はかなり驚いた。
Aが私をそんな風に言うことは今まで一度だってなかった。冗談なのかどうなのか確かめたかったけど、やはりどこか気恥ずかしくて聞けなかった。
ただ、自分と正反対の生き方をしてる人が真横にいて思うところがあったのは、もしかしたらAも同じだったのかもしれないとその時初めて考えた。
 
卒業してからは住む場所も離れてAと長いこと連絡を取っていなかったが、つい先日ひょんなことから連絡をして、そのまま来月に会うことにあった。4年ぶりの再会である。
 
少し緊張もしているけどそれ以上に話すのを楽しみな気持ちが強くて、ワクワクしながらこの文章を書いている。
 
 
 
 
***
 
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