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あの時、もしも好きだと泣き叫んでいたら、今ごろ何か変わっていたのだろうか。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:木村保絵(ライティング・ゼミ)

背中に彼の視線を感じながら、わたしは改札を抜けた。
いつもなら笑顔で手を振るけれど、その日は振り返らなかった。
もう、決まったことだから……

あの時、もしも好きだと泣き叫んでいたら、今ごろ何か変わっていたのだろうか。

***

新宿駅では何度降りても迷ってしまう。
中央線から山手線に乗り換えるために、人の波に流されながら階段を降りる。
右か? 左か? 
勘を頼りに進むと大抵間違える。
ホームへと続く階段を探していたはずが、突然視界の広がる明るい空間。

――また、アルプス広場だ。もう電車逃しちゃうよ。

路線検索で目的地までの時間は調べて来たのに、どんどん予定時刻を過ぎていく。

……あれ? 

広場の片隅に、不自然な一組のカップル。
まだ大学生くらいだろうか。
厚手のグレーのピーコートを羽織った青年が、困ったように頭を掻き、ため息をついている。
その視線の先には、しゃがみこんでしまった真っ白いコートの女の子。
泣いているんだろう。
歩きながら横目で見やるだけでも、何が起こったかは一目瞭然だ。
顔を上げればきっと可愛いんだろうなと想像させる華奢な背中。

「……んで、なんで」

鼻をすする哀しい音の合間を縫って、か細い声が聞こえてくる。

あの子、振られちゃったんだろうな。
何の関係も無いけど、二人のその後を知れないことに後ろ髪をひかれながら、人の流れに乗って前に進んでいく。

――いいなぁ

ん?

カツカツカツ
自分のヒールの音が聞こえてくる。
いつの間にか7cmのヒールで歩くことも苦にならなくなった。
少しくらい急いで歩いても平気だ。
今ならまだ、余裕で間に合う。

――いいなぁ

……

カツカツカツ……

――いいなぁ

……
なんだ? 
なんなんだ? 
「いいなぁ」って、なんだ? 

キョロキョロしてみたところで、声の持ち主とは目が合いそうにない。
聞こえてきたその声は、紛れもなく、わたしの声だからだ。

人々が行き交う中、しゃがみこんで泣きじゃくって彼を困らせていたあの子のことを、横目で見やっていた32歳のわたしの声だ。

「格好悪いな」でも、
「みっともないな」でもない。
「いいなぁ」が、心から漏れてきた。

あんなにも素直に感情を表現できる彼女のことが、
10歳以上も年下であろうあの子のことが、羨ましかった。

わたしは今まで、あんな風に好きな人の前で泣きじゃくったことはない。
格好悪いのも、迷惑かけるのも、全部無視して、
それでもあなたが好きだ! と、
全身で伝えたことなんて、なかった。

今に至るまで、何人かと恋をして、その度に少しずつ物語は進んでいった。
それでも、いつも章の終わりを告げるのは、相手の方だった。

「もう、別れた方がいいのかなって、思っているんだ」

大抵は、メールだった。

悲しい程に陽気なメロディに呼ばれてメールを開いた瞬間、
息が苦しくなって、涙がぶわーっと溢れてくる。
いやだよ! いやだよ! ……んで。なんで! 
空気が薄くなって、頭が痛くなって、段々視界が白くなってくる。

鼻の下が真っ赤になるまで泣き尽くした後、生きるために大きく空気を吸い込む。
ぼわ〜んとした意識の中、携帯を握って、一文字ずつ文字を打ち込む。
本当の思いを飲み込んで、一文字ずつ、震える指で押していく。

「そっか。うん。そっか。
わかったよ。今までありがとう。」

いやだなんて言えなかった。
もう別れたいって言われているのに。
それでもわたしはあなたが好きだから、我慢してわたしと一緒にいて! 好きになって! 
そんなこと言えなかった。

わたしはあなたが好きだ! 
そんな思いを、ハッキリと自分の言葉で言えたことは、一度もなかった。

あの時もそうだった。
ずっとずっと待ちわびていた彼と再会できた時。
本当は、顔を見た瞬間にでも叫びたかった。

この時をずっと待っていた。
ずっとずっと、忘れられなかった。
今でも……いや。今までも、これからも、ずっとずっとあなたが好きです。

そう、泣いて叫んで、伝えたかった。

だけど、できなかった。
昔の彼女として、彼の瞳の中に映る自分を思い浮かべてしまった。
笑っていなきゃ。
気まずい思いをさせないように、やわらかな空気を作らなきゃ。

そんなことに必死だった。
震える手をギュッと握って、テーブルの下に隠した。
たくさん笑って、せっかく時間を作ってくれた彼に、楽しい時間を過ごしてほしかった。

だから、その穏やかな空気を変えてしまうような言葉を、口に出すのが怖かった。
真面目な話なんて何一つ、切り出せなかった。
気付けば、カプチーノの泡も、すっかり乾いていた。

「じゃあ、行こうか」

伝票を手にした彼に、「うん、行こうか」と笑顔で答えた。

辿り着きたくなかった改札は、あまりにも近かった。
いつもならぐるぐる迷うはずなのに、その日の新宿駅は、わたしに味方してくれなかった。

「じゃあ、またね」
「うん。ありがとう」

背中に彼の視線を感じながら、わたしは改札を抜けた。
いつもなら笑顔で手を振るけれど、その日は振り返らなかった。
もう、決まったことだから。
そう、自分に言い聞かせた。
彼は、あの頃みたいに、わたしの姿が見えなくなるまで、見送ってくれていたのだろうか。
今にも叫び出したい背中を無理やり伸ばし、まっすぐと前を向いて歩いた。
あの時。
会いたくて会いたくて仕方なかった彼に再会したあの時。
もしも好きだと泣き叫んでいたら、今ごろ、何か変わっていたのだろうか。

あの広場で泣きじゃくっていた白いコートのあの子のように、想いを全身で伝えることができたなら、二人のそれからに、何か変化はあったのだろうか。

――いいなぁ。
あまりにも必死に想いを伝えるあの子の姿は、見ず知らずのわたしの遠い記憶を引き出した。

いいなぁ。
わたしもあんな風に泣いて、自分の想いを全力で伝えたかったな。
例え結果が変わらなかったとしても、せめて好きだという想いだけは、伝えたかった。

でも。
これで、よかった。
これで、よかったんだよ。

そう、思える自分もいる。

燃焼しきれずに燻り続けた思いがあるからこそ、今のわたしがいる。
口では上手く伝えられなかったからこそ、書いて伝えることを覚えるようになった。

わたしはあなたが好きだ! 
そんな溢れる思いを、まだ見ぬあなたへ伝える術を、身につけ始めた。

あなたが好き! 届いてほしい! 格好悪くても、この思いを、伝えたい! 
大きな声で叫ぶように、文字で叫ぶ方法を、知るようになった。

口では上手く言えないからこそ、何度も消して考えて、思いを込めて綴っていく。
大好きな彼に、泣きじゃくって想いを伝えることのできなかったわたしにも、伝えられる方法があった。

最初のうちは、「匿名希望」「誰でもありません」の象徴「やまだはなこ」をイメージし、「おはな」という名前をつけて書き始めた。
「わたし」でなければ、好きなことが言える。
誰も知らない「誰か」としてなら、あの人が好き! あの本が好き! あの映画が好き! 
と、大きな声で叫ぶように書けるようになった。

桜の季節が終わり、東京の長い長い夏が終わる頃。
わたしは、誰でもない「おはな」から、
わたし自身を意味する「木村保絵」で書くようになった。
「わたしはこの人が好きです」「この本が好きです」「この映画が好きです」
わたし自身として、まだ見ぬあなたへの思いを伝えることは、とても勇気の要ることだった。

そうして段々イチョウの葉も落ち、黄色の絨毯が出来始めた今。
4ヶ月を2回繰り返した今。
8ヶ月間受講した「天狼院ライティングゼミ」受講生として、最後の記事を書いている。

書き始める前のことを、思い出してみる。
どうだろうか。
書くことで、わたしの人生は変わっただろうか。
相変わらず、好きな人には好きだと言えないし、別れ際に泣いて叫ぶこともできそうにない。
それでも、何かは、変わったのかもしれない。
少なくとも、あの時のわたしは、もういない。
テーブルの下で震える手を握り締めていたわたしは、もう、いない。
誰でもない「おはな」でなければ、思いを書けなかったわたしも、もう、いない。

これからは「木村保絵」として、書く人生を歩んでいく。
人生が変わったわけではない。
あの時、好きだと泣き叫ぶことができなかったわたしは、
わたしとして、好きなものを好きだ! と言える人生を、取り戻した。
出来る人にとっては、なんでもない平凡な当たり前の人生だ。

だけど。
好きな人に想いを伝えられず、「別れたい」と言われても泣いて嫌がることのできなかったあの頃のわたしにとっては、夢に見た憧れの人生だ。

ようやく、スタートラインに立てた。
人生が変わったのではない。人生が、始まったのだ。

だから、もし。
あの時、どうしても大好きなあの人に、泣いて好きだと伝えることができなかったあなたが読んでくれているのなら、
あの時、泣いても叫んでも、大好きな大好きな人に、思いを届けきれなかったあなたが読んでくれているのなら。

この思いだけは、どうしても、最後に書き残しておきたい。

あなたのその想いも、書き出してみたら、どうだろう。
下手くそでも、格好悪くても、困らせてしまってもいい。
最初は、誰でもない「誰か」として、書いてみてもいい。
いつかあなたが、あなたとして言葉を綴れるようになった時。
その時。
きっと、あなたの人生も、始まると思うから。

***

ようやく乗り継いだ山手線で辿り着いた池袋。
人の波に押されながらホームへ降り立ち、外へと飛び出した。
東口から10分ほど、歩いた先に待っている、小さな小さな本屋さん。
あの日、彼を振り返っていたら、ここには辿り着けなかったかもしれない。
「天狼院ライティングゼミ」
それは、わたしが、わたしとして生きるための、人生の入口。
「好きだ」と伝える術を教えてくれた、スタートライン。

 

 ***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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