メディアグランプリ

真のパワースポットは獣道にあり、そこは酸素カプセルの中だった


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記事:岩田 真治(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「遭難したら、誰も見つけてくれないかも……」と、思い始めた。私は、群馬県にある榛名神社へ来ていた。参拝を終えて、何か物足りなさを感じていた私は、榛名神社から榛名湖までの山道を、一人で歩いていた。
 
榛名神社は、関東屈指のパワースポットと言われている。そのパワースポットへの参拝が、たった30分で終わってしまった。東京から新幹線と路線バスを使い、2時間30分かけて榛名神社の鳥居までたどり着いたにも関わらず。
 
参拝を終えた時刻は、午前11時30分だった。東京へ帰るには早すぎる、と思っていた私の目に飛び込んだのは「榛名湖まで2.2㎞」の看板であった。私は、その距離を歩いて、榛名湖まで行くことを決めた。
 
歩き始めは順調であった。榛名神社の参道は、子供、お年を召した方や身体の不自由な方も参拝しやすいよう、平らな石畳やコンクリートで整備されている。その歩きやすい道が、まだ続いていた。このような道であれば、12時前には榛名湖に着き、お昼ご飯を食べて、帰宅すればいいと考えていた。
 
しかし、順調だったのは「榛名湖まで1.8㎞」の看板を目にした時までだった。この辺りから、山道・林道ではなく、獣道になっていた。登山はおろか、ハイキングすらしたことのない私は、早くも疲れを感じるようになっていた。
 
これは坂と呼ぶべきか、それもと崖と呼ぶべきか、表現の仕方が分からないくらい急な傾斜に、何回も出くわした。上りと下りが不規則に入り乱れた道を歩くのは、こんなにも辛いのか。と私は思い、マスクを外した。周りに歩いている人はいなかった。数多くいた参拝客の中で、私一人が榛名湖を目指していた。
 
「榛名湖まで1.2㎞」の看板を見たと思い込み、しばらく進んでいくと「榛名湖まで1.4㎞」と書いた看板を見つけてしまう。とうとう幻覚まで見るようになったのか、と私の心は折れそうになった。本当に心を折ってしまうと、歩くことが出来なくなるため、私は無い知恵を絞って、疲れにくい歩き方を試していた。
 
まず、歩幅を狭くして歩いてみたが、そのやり方は長く続かなかった。疲れる原因の一つが、自分で歩幅を調整できないことだった。平坦で整備された道を疲れず歩くには、歩幅を狭くするのがベストであろう。しかし、ここでは私ではなく、獣道が私の足の着地場所を決めていた。時には歩幅を広く、時には歩幅を狭くしないと、安全なところに足を置くことが出来ないのだ。
 
次に、右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出すナンバ歩きを試してみた。この歩き方も、上り坂では使えるが、下り坂になるとスピード調節が効かず、滑り落ちてしまいそうになる。それを防ぐため、どちらかの足に重心が偏ってしまい、逆に疲労を溜めることになってしまった。結局、今まで通りの歩き方を選ばざるを得なかった。
 
「榛名湖まで0.6㎞」の看板を見た時、私の体力は限界に近かった。まだ桜も咲いているはずなのに、眼に留まらず、足元ばかり見て歩いていた。この頃になると、100メートルほど歩いて2~3分休憩する、というセットを繰り返していた。しかし、遂に私は20メートルほどしか歩いていないのに、再び立ち止まり、両ひざの上に両手を置き、肩から息をするようになっていた。
 
「もうダメだ……」と思い、身体中の空気を口から吐き出した瞬間、急に頭と体が軽くなった。今までのネガティブな感情や疲れが全て吹き飛んだのだ。これがパワースポットの力なのか、榛名神社ではなく獣道が真のパワースポットだったのか、と私は思った。今までが嘘のように足が軽く、スキップでもしてしまいそうな足取りで榛名湖まで辿り着いた。
 
この超常現象を榛名湖のカフェで冷静になって考えてみた。特に禁止薬物を使ったわけではない。口にしたのはミネラルウォーターくらいだった。どうして急に元気になったのだろうか。一つの仮説を思いついた。
 
日常生活において、私たちの肺は半分くらいの機能しか使っていない。だから、片方の肺を切除しても生活に支障が無い。また、使っていないもう半分の肺には二酸化炭素を多く含んだ血液が流れている。
しかし、体力の限界まで獣道を歩いた私は、息を大きく吸って、吐き出す動作をした。それを繰り返すことで、肺に溜まっていた二酸化炭素が全て吐き出され、新鮮な酸素を肺一杯に取り入れることが出来た。それが、私の頭と体を駆け巡ったのだ。
 
確かに榛名神社は関東屈指のパワースポットである。参拝した翌日から、私の営業成績は底を脱した。しかし、真のパワースポットは、榛名神社と榛名湖を結ぶ獣道であった。真のパワースポットは、酸素カプセルそのものであり、私を限界からよみがえらせてくれた。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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