「彼女」というノイズを求めたがるお年頃
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記事:村人F (ライティング実践教室)
最近「彼女欲しい」と連呼している気がする。
行きつけのバーや男友達同士で集まった時など、とりあえずビール感覚でこの話をぶっ込んでいるくらいだ。
そして今年33歳になるからそろそろヤバくなってきた、なんてことも言いながら笑いを取る。
今の僕はそういうモテない男子だ。
ただ、ちょっと前までは彼女や結婚に対する憧れはなかったように思う。
むしろ「独身の方がよくないか?」とすら考えていた。
理由は、結婚している人からロクな話を聞かないからだ。
例えば天狼院書店の読書会に参加していたある女性がコロナを患って料理できなくなった時の話である。
このグロッキーな彼女に夫が用意したのは、焼肉弁当やカップラーメンだったという。
そのため元気だったらちゃぶ台ひっくり返していた、との文句を言っていた。
こんな具合に既婚者から聞こえてくる言葉がほぼ愚痴なのである。
男性の上司からも「お小遣いが少なくて辛い」やら「独身は自由でいいよね」みたいな羨ましそうな視線を浴びる始末だ。
そのような状況なので「僕は独身のままでいい」とつい最近まで思っていた。
それなのに「彼女が欲しい」と急激に方向性が変わったのには2つ理由がある。
1つ目はオーソドックスな、独り身の寂しさが辛くなってきたというものだ。
やはりコンサートや映画を観た後、その感想を出す場がSNSしかない状況が耐えられなくなってきたのである。
かたやカップル同士で幸せそうに語り合っていると言うのに、僕は誰も読んでいないだろうTwitterに書き込むしかない。
その虚しさから解放されたいという動機で相手を求めている。
もう1つの理由は、既婚者の方々がいう文句の本質がわかったからだ。
相手の嫌なところが、心地のよいノイズであるという事実である。
確かに一緒に住んでいれば、気に食わないことが大量に出てくるはずだ。
「洗濯物のたたみ方が雑だ」とか「食器洗いの時に洗剤を使いすぎている」など、挙げたらキリがないだろう。
しかし、それらは自分では奏でられない音でもある。
例えノイズであろうと、相手からしか得られないメロディーなのだ。
だから、そういう部分も実は楽しいんじゃないかと気付いたのだ。
そう考えると文句をいう既婚者の見え方も変わってくる。
たしかに素直に受け取ると「今すぐ離婚した方がいいんじゃないか」なんて思えるほど容赦ないことのように聞こえる。
しかし話をする方々は全て、すべらない話を披露するような雰囲気なのだ。
つまり、なんだかんだ言いながらそういう部分も含めて面白がっているわけである。
だから数十年も一緒に過ごしているのだろう。
それに、バカにされている相手も同じように抱えているはずである。
そのため文句を言う方も、当然ながら同じくらいノイズを発しているのだ。
そう考えるとよい夫婦というのは、お互いが出す嫌な部分も含めた音が、よい塩梅で心地よいメロディーを奏でている存在をいうのだろう。
そう考えると最近になって彼女が欲しいと強く思うようになったのは、ノイズを受け入れる体制が整い始めたからだと言える。
これまでは自分のことで精一杯だったから、相手のことを気遣う余裕なんてなかった。
だから独り身でいることにより重圧から逃げていたのである。
しかし30代になり仕事もそこそこ上手くできるようになり、金銭的な余裕も出てきた。
そうなるとむしろ、1人では持て余す感覚になってきた。
そのため自分では決して得られない何かを求め、結婚に憧れるようになったわけだ。
だから、今年は最大限に求めていくようにしたい。
必要なことは出会いの場を増やすことも当然だが、自分から発する音をより洗練させることも同じくらい重要だろう。
それは強みだと考えている音域を更に伸ばすことであり、ノイズを極力小さくすることでもある。
人にはそれぞれ、よいところと悪いところがあるのだ。
それらを心地よいバランスに調整することこそ腕の見せどころである。
そうやって作り上げた楽器で、2人しか奏でられない音楽を奏でる。
それは黒板消しを爪で引っ掻いたような音と、一流のオペラ歌手の歌声が合わさったような世界で1つだけの曲だ。
そういう歪んだ美しい旋律を共に演奏するのが結婚なのだ。
そして僕は今、それを人生で最も求めている。
だから手に入れるために、様々な場で自分を演奏していきたい。
***
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