プロフェッショナル・ゼミ

残念ながら、年輪はただの「若さ」に勝てないのだと思った誕生日の夜《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石村 英美子(プロフェッショナル・ゼミ)

いやな言い方がある。
「劣化」
この劣化と云う単語を、あろうことか人に対して使っているのを最近よく目にしないだろうか。しかもそれのほとんどは、女性の容姿に対して使っている。

失礼な。なんて失礼な。まるで物呼ばわりじゃないか。うん、分かっている。確かに肌の弾力は失われ、ケガは治りにくく、筋肉痛は忘れた頃にやってくる。劣化と云う言い方は的確なのかもしれない。だからって、失礼極まりないと思うのだ。

関係がない年代の方は、そんなにいきり立たなくてもと思われるかもしれない。違うんだ。当たっているからこそ「言わないでよ! 自分が一番分かってるんだから!」と悲しくなってしまうのだ。

「劣化」を感じる瞬間は、昨日もあった。

大阪在住の劇作家さんからLINEが来た。テレビを見ていたら福岡の役者さんがCMに出ていたと画像付きで送って来てくれた。今度会ったら、見てくれたようだと伝えますと返信すると「最近のあなたの写真はないのですか?」と返ってきた。

スマホから写真を添付し、舞台写真しかありませんでした、と返信した。すると「相変わらずステキです! 壁紙にしました!」とスクリーンショットが送られて来た。

本当は、写真はそれしか無かった訳じゃない。他の写真はなんだかくたびれていて、光でアラが飛んでいる写真はそれしか無かったのだ。いわゆる渾身の一枚を送ったのだ。その作家さんとはしばらく会っていないが、会うたびに私に「ステキな石村さん」と言ってくれる稀有な存在だ。がっかりされたく無かった。

せっかく褒めてもらったのにモヤモヤした気持ちだった。お風呂に入って寝てしまいたかった。だから、この後に入れていた予定をキャンセルしてしまいたかった。

その予定とは、
「天狼院 裏フォト部」
そう、写真撮影のイベントである。

大人の女性の「セクシー」を標榜し、新しい自分を発見する、そんなイベントで、撮影される側でもいい。撮影する側で参加してもいい。メイクする側として参加してももちろん構わない。男子禁制(一部除く)の女性の花園なのだ。

タイミングが悪い。気分が全く乗らない。担当の山本さんに「行くよ」とは言ったが、チケット予約していたわけでもないので、このまま寝てしまおうかとも思った。

タイミングが悪いことはもう一つあった。あと数時間で、私はもう一つ歳をとる。つまり翌日が誕生日なのだ。いやでも自分の実年齢を意識する。どうしても卑屈にもなる。

持っていくメイク道具を弄びながら、行くかどうか迷っていた。女の子の髪や顔を触るのは好きだ。少しでも華が増すのを見ると嬉しい。でも……。

そこで、はたと思い出した。

「マタニティ・フォト」

参加者の一人が妊娠8ヶ月で、その写真を撮るというのだ。そうだった。それ、見たい。参加したい。子供なんか大っ嫌いだけど、生命の神秘と母性には無条件で敬服する。これはもうしょうがない。DNAに組み込まれているのだから。

よし、この機会は逃すわけにはいかない。時々「メイクさん」として舞台の現場に呼んでもらっている私でも、こんなのいつでも経験できる訳じゃないのだ。そんな勿体無いことをしちゃいけない。急にやる気を出した私は準備をすると、自転車で会場に向かった。寒くは無かった。

会場に着くと、熱気が充満していた。
モデルになっている女性に、複数人のカメラマンが群がっている。全て女性。黒いロールバックは強いライトに照らされ、その上には和服をはだけた女性が横たわっている。黄味を帯びた日本人の肌色と、鮮やかな浅黄色の着物が非現実的だった。

心の中で「うふふ、あたまおかしいや」と思いつつ、ビールを注文した。面白い、変な人たちばかりで面白い。そしてもちろん自分も変な人たちの一人なのだ。全くもって面白い。ちょっと楽しくなってきた。

次に撮影したのは19歳の女の子だった。普段は写真部に所属し、なんと取られる側になるのは初めてだそうだ。来ていた白シャツのボタンを余分に外して椅子に座ってもらい、困惑と緊張の混じった笑顔でポーズを取ってくれた。

うん、固い。でもその固いのが一瞬くずれたところがとても良い。カメラマンたちが口々に「かわいい!」「目がキラキラしてる!」と褒めそやす。だって実際かわいいんだもの。口から出る言葉に無理がない。

このあたりで私は我慢ができなくなった。

「ちょっと顔を触りたい!!」

ちょっとだけカメラマンに待ってもらい、メイクさせてもらった。ちょっとだけ変えたい。かといって、こんな新鮮な娘にきついアイラインなど引いちゃいけない。少しだけルーセントパウダーをはたき、上気したようなチークを入れた。唇にはわずかに赤みの入ったグロスを乗せた。

うん! かわいい! なんてみずみずしいんだ! 「瑞々しい」とはよく言ったもので、刃物を入れると切り口から果汁が滴り落ちるような、そんな頬っぺをしている! もちろん刃物なんか入れないで、そっと手のひらで撫でくりまわすのだけどもね! なに言ってんだ!

束ねていた髪をほどいた彼女は、さっきより少し自然に笑ってくれた。とてもステキな笑顔だった。しかしもっとステキだったのはその笑顔の切れ間にわずかに覗く、不安気な表情だ。庇護本能とSっ気が同時に刺激される、不思議な感覚だった。

彼女のこの「時」は、今しかない。それは間違いない。こんなにかわいい彼女でも、あと5年、10年すれば違う表情になってしまうだろう。それ自体が良い悪いではない。でも「変わってしまう」というのは間違いない事実だ。

なーるほーどねー。
なんだか分かるような気がする。これなのかも知れない。世の中で「若さ」に価値があるとされる理由って。確かに偏重気味かもしれないが、無くなってしまうと分かっているのなら、それを愛でたくなるのは仕方がないのかも知れない。

そして、私だって恐らくそう思っているわけで。かつての瑞々しかった自分の方が良かったと思っているわけで……。

もちろん、その瑞々しさというのはフィジカルだけではない。かつての無駄に繊細な感受性、物を知らないゆえの行動力、そんなものが懐かしく思われてしまう。懐かしい、ってことは、もうここには無いって事だ。劣化という表現は、本当に当たっているのだ。

だがしかし、不思議と私は落胆しなかった。
頭の中がクリアになった。こんな風に考えた。

「私はとっくにもう新品じゃ無いんだから、少々乱暴に扱っても、もったいなく無いよね! 遠慮なく使えばいいよね!」

何を恐れることがあるのか。以前は物を知らぬ行動力で失敗し、傷ついたりもしていたが、今はもう失敗する選択をする方が難しい。感受性は擦り切れた代わりにメンタルの角質が厚くなり、痛みに鈍感になっている。少々のことは大丈夫!

ここで、やっと覚悟が決まった。
参加するぞ、自分史上最高にsexyな自分を探す『天狼院裏フォト部』に。実はまだ参加してなかったのだ。この時点まではまだ、おじゃましてたにすぎないのだ。

えぇ、私も撮ってもらおうではないか。渾身の一枚を撮ってもらおうではないか。劣化してたって構うもんか。むしろ劣化しているからこそ、使い込んだ運動靴のようにどんな道だって気にせず歩き進められるはずなんだ。

俄然楽しくなってきた。
これまで、このイベントに参加した方の記事コメントを読むと、皆さん「自分の新しい側面が見えた」とか「自分をオープンにできた」等書いてあった。多分、それが一番まっとうな楽しみ方だと思う。

でも私は、さらけ出すほどの自分なんて、恐らくもうない。
ではどうするのか。

「デコる!」

実は、充分仕込みはして来ていた。黒いストッキングにタイトスカート。真っ赤なハイヒール。からの「白衣」完全にテーマは「ニセ女医」である。メタルフレームのメガネまでかけてやった。

気がのらなかったと言いながら仕込み充分なのは、多少の期待感もさることながら、ふだん衣装・メイク屋として活動してる私の性でもある。セルフブランディングくらい出来なくてどうする。

白衣をまとった私を、カメラマン(カメラウーマン)たちは大仰に褒め称えてくれた。

「黒ストッキングの透け感最高!」
「足長い!」
「スタイルいい!」
「エロい!」

そうでしょうよ。そういう風に見えるように工夫したんだもの。シャッター音が鳴り響く中、調子に乗ってポーズを変えた。ふだん、褒められるとさい疑心でいっぱいになる私だが、自分自身というよりは私の演出力を褒めてもらったような気がして、素直に嬉しかった。変な写真がいっぱい撮れてたらいいな。そしたら大阪の劇作家さんにまた送ってあげよう。そして「何やってるんですか!」と笑ってもらおう。

やるべきことを終え、すっきりした気持ちで本日のメインイベント、マタニティ・フォトのモデルを待った。待っている間、「若さ」と「劣化」は対義語ではなく、ある意味類語なのではないかとぼんやりと考えていた。

妊婦は夜半にやってきた。
二度目の妊娠だそうだ。上のお子さんを寝かしつけてから来たのかもしれない。さぁ、お仕事の時間だ。

白のチューブトップとスカートに着替えたほぼ初対面の彼女を、半ば命令するように椅子に座らせて、まずヘアアイロンで髪を整えた。無駄にカールなんかつけちゃいけない。毛流れとツヤ出しだけに留めた。顔にはふんわりとチークを入れ、リスのように黒目がちな瞳の淵に、少しだけマスカラを乗せた。元の唇の色を変えないようにグロスを塗った。

彼女が来る前、同席していた唯一の男性カメラマンが言っていた。

「責任重大だよね!」

全くだ。撮影もそうだが、メイクだって同んなじだ。こんな感じでいいだろうか。勝手に顔に手を入れてよかったのだろうか、そんなことも思いつつ撮影位置に移動してもらった。

照明を当てた妊婦は、不思議な生命感を放っていた。

あぁ、なんて綺麗なんだろう。そこに立って見えている女性は一人だが、実際は二人いるのだ。もうすぐこの世界にやってくる、マイナス二ヶ月の赤ん坊がそこにいるのだ。

感動した、なんていう表現だとちょっと違う。彼女自体が発光体のようで、それに吸い寄せられるように、カメラを持ってない私もスマホで撮影に参加した。最初はメイクの加減が心配だったが、そんなことはどうやら関係なかった。

白い衣装で撮った後は、黒い衣装に着替えてくれた。
漆黒に浮かび上がる肌と、「ここにいるよ」と突き出たお腹が神秘的だった。そこにいるんだね、と思った。カメラマンたちも夢中でシャッターを切った。

考えてみたら、妊婦をこんなにまじまじと見つめたのは初めてだった。これからだって、そんな経験をすることは無いかもしれない。しかも、被写体は妊娠8ヶ月の女性だったのに、どう考えても切り取ったのは彼女自体というよりも、次の生命を待つ「時間」だった。不思議な不思議な夜だった。

私は、子供なんか大嫌いだ。
でも、子供にはものすごく価値がある。価値なんていう言い方は間違っているかもしれないけど、実際そうだ。未来がある。なんなら未来しかない。「これから」の量がとてつもなく多い。

私は「これから」をだいぶ使ってしまった。

19歳の彼女に感じた瑞々しさもさることながら、まだ生まれていない赤ん坊の持つ未来の量に、完全に圧倒された。割と年数を生きてきて、何かをなしたわけじゃない。何かになれたわけでもない。今までを無駄遣いしてしまったのかも知れない。これからスタートする人を羨む気持ちが、確かにある。

若さ、幼さに価値があるんじゃない。きっと「可能性」に価値があるんだ。

でも私は、圧倒はされたが打ちひしがれたわけじゃなかった。この少し前、メールが来ていた。還暦を過ぎた先輩からのメールだった。

『少し早いけど、お誕生日おめでとう。すっかり大人になりましたね(笑)あなたくらいの頃が一番楽しかった。できることが増えて、分かることが増えて、おどりや芝居をしていてもまだまだ体がついてきてくれてました。一番気力と体力のバランスが取れていた頃です。でも無理はしないよう体に気をつけて、風邪ひかないようにね。ますますのご活躍を祈ってます。素敵な一年にしてくださいね』

泣きそうな内容だったが、タイミングがタイミングだったので、びっくりして涙は出なかった。そしてこのメールのおかげで、私の中に何かがチャージされた感覚があった。遅くまで起きていられない先輩は、日付が変わる前にメールを送って就寝したのだろう。起こしてはいけないので、明日返信しよう。

比べるのもおかしな話だけど、若い人に比べたら私の「これから」は少なくなってる。でも、それでもまだまだたくさんあるのだ。減ったことに気をとられていたって仕方がない。まだたくさんあるのに。

19歳の彼女の「今」と、生まれる前の赤ん坊とそれを待つ妊婦の「今」
それと遜色無い、いつかの私の「今」がきっとある。希望的観測じゃ無い。絶対ある。そう思えるのだ。

「可能性の量」という面では若さに勝てないが、勝たなくたって別にいい。無くなっちゃったわけじゃない。今できること、今でしかできないことをやればいいのだ。

と、また一つ歳をとった誕生日の今日、自分自身に宣言しようと思う!

***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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