プロフェッショナル・ゼミ

この世の中で二人でしか行えないたった一つの行為《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:小堺ラム(プロフェッショナル・ゼミ)

私は満たされている。
子供のころ思い描いたものは殆ど全て手に入れた。
小学生の卒業文集に「大人になったらキャリアウーマンになって夜景の見える都会のマンションのベランダでワインをかっこよく飲みたい」と私は寄せた。
言霊だか引き寄せだか、最近流行りのスピリチュアル系が唱えていることはどうやら正しいようで卒業文集に書いたとおり、私はガッツリと働き、都会の夜景がきれいなマンションの高層階のテラスで、仕事終わりにワインを飲むことができている。
都会と言っても東京都港区みたいなきらめきには劣るが、九州の地方都市だけどかなり人気の地区でタワーやドームといったランドマーク的な夜景がきれいに見えるマンションの高層階のテラス(ベランダを言い換えるとこうなる)で、ワインは寒いんで、冬だし、熱燗や焼酎のお湯割りをちょっとだけ飲んで、仕事の疲れを一人優雅に癒している。
仕事では部下を数十人持つ立場になり、責任を持った仕事をして充実している。
スケジュールに都合がついたから、今年の年末はクリスマス前からお正月明けまでシンガポールに滞在する予定だ。
旅は手慣れたもので、一人で渡航し、現地でコンドミニアムを借りて最近根を詰めている小説の執筆に専念する予定だ。
一方で普通の平日は、レイトショーで映画を観たり、角打ちにふらりと訪れたり、どうしてもお肉が食べたくてカウンターのある焼肉店に行ったり、絶叫したくなったので一人客専用カラオケ店に行ったりもする。
住みたい場所、やりたい仕事、行きたい場所、やってみたいこと、思いつくことは全てやってきた。
やりたいことをいろんな理由で我慢したり慎んだりしている方には申し訳ないような境遇であろう。
だけど私はちっとも満足していなかった。
それどころか自分自身を持て余していた。
空虚な気分さえ漂うことすらあった。
贅沢だと人は言うだろう。
何故なんだろうか、誰もが充実を極めるようなこのシュチュエーションで、何故私は満足できなかったのだろうか。
もうおわかりだろう。
全部一人でやってるじゃないか、所詮一人完結の人生でしょ、だから空虚なんだよ。
そうなのです。
一人暮らし、一人海外旅行、一人焼肉、一人角打ち、一人カラオケ……
私が人生で精一杯やってきたことは全部一人でできることなのだ。
それぞれとても楽しい。
一人暮らしも一人焼肉も、マイペースにできるし。
自分の好きなように、いくらでも気分に合わせてカスタマイズできるの。
ところが、一人焼肉でどれだけ高級な肉を頼もうとも、一人海外旅えて行でどれだけ豪華なホテルに泊まっても、どうやっても埋まらない何かがあった。
「おかしいな、これだけ好き放題やってるのに、何でかなあ」
ある時私は、一人レイトショーから帰宅した後、映画の余韻に浸りつつテラスでワインを飲みながら考えていた。
美しい夜景の上に、静かに月が出ていた。
「わー、きれいだなあ」
思わず声に出した。
冬の澄んだ空に浮かぶ月は、いつもに増してクリアによく見えた。
しばらく見とれていた。
ワインを飲むことも忘れて。
この美しさを誰かと共有したくて、知ってほしくて、私はスマートフォンで写真を撮ってSNSで友人に送った。
待てど暮らせど返事はこなかった。
そうだよね、午後11時30分を過ぎてるし、もう寝てるかもしれないよね。
私は月の美しさを誰かと一緒に楽しむことが出来ずにがっかりした。
一人で夜風に吹かれ、ワイングラスを持ったままやっとわかったのだ。
「一人だから虚しいのか」
何をやってもどこかしら空虚。
充実しているはずのスケジュールなのに何故か持て余し気味。
何故なんだろうと思っていたが、何でも一人で済ませていたことが影響していたのだ。
そういえば、繋がりとか交流とか複数じゃないと味わえないこと、しばらくやってなかったなあ。
いやいや、仕事は複数人のチームでやってるから雰囲気を盛り上げて士気をあげたり、それぞれがお互いを気使ってカバーしあったり、逆に切磋琢磨したりしている。
でも私が求めているのは、そういうのじゃない。
三人以上のチームだと、それぞれの関係性を深めて濃くするより、チームとして共通の目的が達成されるか否かにより、この組み合わせで何かをやってよかったということに対する満足度が変わってくる。
この期に及んでチームワークを学びたい訳ではなかった。
私は、複数における最小単位である「二人」という関係性の中に流れる、繋がりや雰囲気の醸成や絶妙な間を豊かに楽しんでみたいのであった。
そもそも、二人でやると存分に楽しめることって何があるだろうか。
或いは、二人でしか行えないことって、何だろうか。
お喋りは三人でもできるしなあ。
オンラインゲームも二人だけじゃなくて、三人以上でも楽しめる。
紅白歌合戦の司会?
確かに二人でしかできないけど、総合司会もいるから本質的には三人じゃないか。
テニスも二人でやるけど、ダブルスだったら四人になってしまうし。
二人でしかできないことって何があるだろうか。
ワインを飲んでいたテラスから早々に退散し、一人寝の前に歯を磨くべく鏡に向かっていた。
歯ブラシを加えた間抜け顔の自分が写っている。
前歯を丁寧に磨こうと思って、鏡に寄った。
唇を「ウー」とつきだして歯ブラシをくわえた自分の顔が近づく。
「あ、キスだ。二人でやるのって、キスだ」
確かにキスは二人でしかできない。
三人でキスする馬鹿はそういないだろう。
仮に三人で取り組んだとしても交々が頬に唇をつけるスタイルになってしまう。
そんな子供だましは大人のキスにカウントできないのだ。
そうすると、やはりキスは二人という人数でしかできない行為だ。
「二人」という関係性の中に流れる、太い繋がりや濃密な雰囲気の醸成や絶妙な間を豊かに楽める行為なのだ。
そうか!!
何でもやってきた一見して充実したように見えた私の人生に足りないこと、それは「二人」という濃い間柄で行う行為である、キスだったとは……
今のこの生活にキスを取り入れれば生活が一気に潤うのか?
そうなれば、一刻も早くキスをして充実した気分を味わいたい。
とはいっても、ここまでの一人完結ライフがたたっていて、復習をしないとキスを十分に味わえない気がする。
私は、歯磨きを途中で辞め、鏡の前でキスの復習をすることにした。
何と言っても二人でやる行為なので、そのプロセスの中でポイントがありここで、二人の波長が合わせる必要があるのだ。
それぞれのポイントを確認していこう。
その1。
二人の空間づくり。
ここでは、物理的な二人だけの空間の事を言っているのではない。
周囲にたくさん人がいるような市街地や、子供が隣で寝ているような狭い自宅の居間であっても、かわまないのだ。
まるで、周囲と一線を画すようなバリアーが張られたような空間を醸し出すのだ。
甘い空気、濃厚な雰囲気を出す。
背中からメラメラと出す。
え?ゴジラじゃないから背中から何も出せないって?
大丈夫!本気でキスする直前の大人たちの背中からは、不思議と濃厚な空気が出るようになってるから。
その2。
見つめ合っても見つめ合わなくてもいい。
ただし、一瞬だけは視線を交わすこと。
ここで何をしているのかというと、瞳の奥を見透かすことで、繋がるのだ、通じるのだ。
心で、魂で。
瞬時に気持ちを確かめ合うのだ。
ここで「あ、何か違うかも」って思ったら、引き返すことができる。
その3。
ここまでは、空間づくり、視線を交わすといった、有形力以外で構成される要素だった。
だがここからは、実行行為といえる、いよいよ本番である。
相手に接近し、口を吸う。
え、唇を重ねるという表現の方がいいのではないかって?
まあ、ライトな場合はそれもありかもしれない。
そこまで深入りしたくない場合や、敢えて浅くて軽いキスを楽しみたい場合などはそれでもいいだろう。
だけど、今回の目的は、キスを通して「二人」という関係性の中に流れる、繋がりや雰囲気の醸成や絶妙な間を豊かに楽しんでみたいというものである。
ライトに終わらせていいはずがない。
という訳で、思う存分に吸い付こう。
本当は思いっきり、相手の内臓を吸い尽くしたい程に取り乱しているけど、嫌われたらいやだし、ここはちょっと恥らいながら少しだけ、様子を見ながらやろうか……なんて思ったりすることもあるだろう。
逆に、そこまで大胆にやるつもりはなかったのに、相手の感触があまりにもよかったから、ついつい反応してしまって、記憶に残っていないほど夢中になってしまうこともあるだろう。
それぞれのリズムがそのキスごとに違うから、それを楽しんでもよし。
そんな高尚な事一切関係なしに、ただただ本能と気持ちよさに従って、体を任せるのもいいだろう。
ここまでの、その1、その2、その3のポイントを復習しながら、私はすぐにでもキスをすることができそうな相手について想いを巡らせた。
うーん、明日、遅刻気味で職場に通勤する途中の地下鉄の駅の階段を曲がったところで、いい感じの男とぶつかって恋が始まりでもすれば、奇跡的にキスできる運びになるかもしれない。
でも、今のところは、一人で先ほどの1から3までもポイントをひたすら復習するしかなさそうだ。
とほほ……
結局、私の生活はこのまま充実しないじゃないのよ~。
あ~あ、馬鹿な事ばかり考えずに書きかけの小説の続きでも書こう。
机に向かって書き始める。
小説は物語であり、必ず読み手が存在する。
だから、読み手に最大限のサービスを提供しないといけない。
独りよがりではいけないのだ。
書き手だけが独自の世界で物語を展開するのではなく、読み手をこちら側の意図した空間に入ってもらうのだ。
まあ、作者と読者の空間をつくるような気持ちで、書き進める。
読者を空間に引き入れたら、世界観ともいえるべき濃密な空気を充満させる。
その雰囲気で充満させる。
読者と作者だけの濃密な雰囲気を作るのだ。
そして、文字を追っている読者の瞳の奥を見透かし、心で繋がり魂と通じ合わせるのだ。
物語の虜にするような勢いで。
読者と作者が気持ちを確かめ合う瞬間でもあると言えよう。
ここで、あ、この物語ちょっと違うかもと感じた読者は、去っていくかもしれないけれど。
そして、最後に、物語を存分に味わってもらう。
物語の楽しさ、哀しみ、切なさ、全てを吸い尽くしてもらうのだ。
時には、物語を気軽に楽しみたいという人もいるかもしれない。
でも、色んな楽しみ方があるからそれでもよかろう。
快楽におぼれたい程物語にのめり込みたい人には、それなりの覚悟でこちらも挑まないといけない。
このように、小説は作者と読者が濃密に繋がって、その間にある何かを楽しむ代物であると私は思う。
って、アレレ???
これって、さっき復習した「キス」のポイントと一緒じゃないか??
この世の中で二人でしか行えないたった一つの行為は、キスしかありえないと思っていたけど、どうやら違うかもしれない。
私は今すぐキスをしたくてもする相手がいない。
だけど、小説ならば思う存分に書ける。
私の一見して充実した、でもどことなく空虚だった生活が、これで十分に満たされる。
そう思うと、ちょっと嬉しくなった。
***
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