プロフェッショナル・ゼミ

 アメリカへの片道切符《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:山田THX将治(ライティング・ゼミ プルフェッショナルコース)

友人Tの話。

Tとは、同じラグビーチームでスクラムの一列目を組んだ仲である。
身長182㎝、体重は公称110㎏。実際はもっと体重が有った(スクラム練習をすれば分かる)が、当時は滅多に100㎏以上測ることが出来る体重計が無かったので、110㎏で済んでいた。それより、信じられない怪力の持ち主だった。その頃は小生も、90㎏を越える体重が有った。その小生を、軽々と頭上まで持ち上げることが出来たぐらいの怪力だ。その一方で、普段は気の優しい男だ。
ラグビー選手として、良いことばかりではない。Tは、その風貌通りの鈍足だった。その上、すぐに息が上がった。密集戦では、その体格と怪力が大いに役立ったが、多くの場面でそこに加わることはなかった。鈍足過ぎて、間に合わなかったのだ。

そんなTと、高校1年生の夏休み有楽町のよみうりホールへ、映画の試写会に出掛けた。小生が、当てた招待状が2名入場出来るものだったからだ。当時からよみうりホールの椅子は狭く、デカい図体の二人が並んで座れたものでは無かった。最前列の両端に席を取った小生とTは、終映後、あまりの感動に明るくなったホールの席から立てなかった。試写で観たのは『アメリカン・グラフィティ』。今となっては、青春映画の金字塔(監督は後に『スターウォーズ・シリーズ』でブレイクするジョージ・ルーカス)といえる作品だった。映画の内容は、1962年のカリフォルニアの田舎町で起こる、夏休み最後の日を楽しむ高校生達を、それこそ落書き(グラフィティ)状に描いたものだ。
「良かったな~!!」
ホールのロビーで、短く感想を述べあった。

『アメリカン・グラフィティ』の試写会から一年後余、高校2年の時の年末、小生はTに呼び出された。何事かといぶかしく思い、待ち合わせ場所の学校近く、いつもたまり場にしていた喫茶店に駆け付けた。先に来て待っていたTは、沈痛な表情でこんなことを言い始めた。
「俺、アメリカの大学に行きたい。『アメリカン・グラフィティ』みたいなことをしたい」
始め、Tが何を言いたいのか、小生には理解出来なかった。当時の留学は、それこそ大金持ちの子弟か、日本で1・2を争う秀才が、国費やウルブライトの奨学金で行くものと、相場が決まっていた。
「バカ言うんじゃない。少しは冷静になれよ」
と、小生は言った。しかし、この時ばかりは普段は優柔不断なTが、強い意志で言っていると思われた。それでも、小生は
「よく考えろ!お前なんか、英語がしゃべれないじゃないか。TOEFL(TOEIC以前の試験制度)のスコアだって、学年で下位だろうが。それに、郊外の食料品店の次男坊じゃ、身分が違いすぎるだろう」
続けて、
「第一、今は1975年だ。『アメリカン・グラフィティ』の時代とは、きっと違ってるさ」
と、再度考え直すように説得した。本当は
「お前みたいな奴が、アメリカの大学へ行ったって、本場のアメリカ娘にモテやしないさ」
と、隠れた本音は言わないでおいた。武士の情けだ。
Tは、これから一生懸命英語を勉強すること、学費と滞在費はジイさんが出してくれると言って来た。
「どうしても、東部の大学で学問がしたい」
と、『アメリカン・グラフィティ』の主人公気取りになってしまったTの意志の固さを感じた小生は、しまいに
「ま、どうなろうともお前の人生だ。好きにやるがいいさ。でも、弱音は聞いてやらないぞ。応援はするけどね」
と、告げた。
何故かTは、小生に礼を言い、その時のコーヒー代を奢ってくれた。

その後Tとは、進学に関して一切言葉は交わさなかった。しかし、毎週、英会話の教室には通っていたようだ。週末は、全く小生等に付き合わなくなった。
高校を卒業した2か月後、遂にTがアメリカへ旅立つ準備は整ったと言ってきた。相当英語を、勉強したようだ。発音も、ネイティブに近付きつつあった。
成田まで見送りに出た小生達は、Tに旧型のラジオを持たせた。これも、『アメリカン・グラフィティ』のラストシーンを真似てだ。
Tは、一人一人とハグをし、日本を後にした。

それから2年程、Tからの連絡はなかった。メールなど夢の世界だった当時の国際電話は、卒倒するほど高額だった。手紙を出そうにも、Tの居所が掴めなかった。Tの母親に聞いたところ、NY郊外でホームステイをしながら、大学入学資格を得る勉強をしているとのことだった。
男同士で文通というもの、なんだか気味が悪いのでTからの連絡を待つことにした。
小生が、大学3年になった初秋、Tから小包が届いた。緑色のスタジアムジャンパーだった。左胸には、“Dartmouth”のロゴが刺繍してあった。
Tは、念願通りアイビーリーグの一つ、ダートマス大学に入学出来たらしい。
なんでも、ホストペアレントがとても親切な方で、自分がコネを持つ名門校へ強く推薦してくれたらしい。そうでなければ、Tが実力でダートマスに入学出来る訳はない。
同封の手紙には、入学式の写真と大学の寮、友人達が映った写真が入っていた。
「やっと、アイビーリーガーになれたよ。問題はこれから、いかに卒業するかだけどね。これからは、ちょくちょく近況を知らせるよ。日本には卒業する迄、帰らないから」
と、キザにも英語交じりの文章が、手紙の上に踊っていた。そりゃ、嬉しかったのだろう。

その後、Tからは毎月の様に近況を知らせる手紙が届いた。経営学を専攻しているとか、勉強が忙しいとか、アメリカンフットボール部(ラグビー部はさすがに無かったようだ)に入部したとあった。Tの鈍足でも入部できるとは、たいして強いチームでは無かったのだろう。
大学の図書館でいつも勉強していて遊ぶ時間も無いとも書いてあった。
住所は、ダートマス大学が在る、ニューハンプシャー州のハノーバーだった。

Tが2年に進級した頃、遂にガールフレンドが出来たと、写真を同封してくれた。シャーリーという名の、ちょっとグラマーな黒人の可愛らしい娘だった。今思い返すと、ミシェル・オバマ大統領夫人にどことなく似た、知的な雰囲気のある女性だった。
「どうして、Tなんかがこんな美人と付き合えるのかねぇ」
と、小生達はやきもち一杯で話題にした。

日本に残った小生達が、ほぼ無事に何も学ばず大学を卒業し、何も考えず全員職に就いてから暫く経った頃だった。一方のTはアメリカの田舎で必死に勉強し、なんとMBAを取得したと手紙で知らせて来た。その上、NYの会計会社に就職出来そうで、シャーリーと結婚する約束をしたことも知らせてきた。
ビザの関係で、一度日本に帰るとのことで、出迎えに来てほしいとのことだった。当然、シャーリーも連れてのことだった。唯一つ、車二台で迎えに来てほしいと、注文を付けて来た。
「どれだけ荷物が有るんだ」
いぶかしく思ったが、言われた通り、友人三名と(計4名)車二台で成田へ出迎えに行った。

予定通りに到着したパンナム機(時代が出てます)が、ターミナルに近付くと窓からTらしい人影が見えた。入国口で待つ事小一時間、二台のカートに乗り切らない程の大荷物と、Tとシャーリーが出口から出てきた。元々デカかったTは、益々アメリカンサイズに成長していた。これは、想定内だった。一方のシャーリーは、写真を上回る美人だった。これも想定内だった。
唯一つ、想定外のことを小生達は目にした。
カートを押すTとシャーリーの間に、よちよち歩きの少女が付いて来たのだ。
思考停止に陥った小生達は、この現実を理解するのにしばしの時間を必要とした。「お帰り」を言う前に、Tに対し
「これは、どう理解したらいいのだ?」
と、問いただした。
キャロン(これも『アメリカン・グラフィティ』の登場人物の名)と名付けられた、その幼い女の子は、当然二人の愛娘だった。日本人に近い肌を持ち、黒人独特のクリっとした大きな目をした、それはそれは可愛いハイブリッドガールだった。
出迎えを、車二台と指定して来たのは、キャロンの為だったのだ。

小生の車に乗ったT、シャーリーとキャロンは、道中しゃべりっ放しだった。
キャロンは、2歳に成ったばかりだったが、大変達者におしゃべりが出来た。
Tに事の顛末を聞くと、シャーリーと結婚する約束した後、在学中にキャロンの存在を知ったそうだ。シャーリーは休学し、現在も学生だそうだ(復学したが)。
とにかく、日本とアメリカ両方に入籍の手続きをしなければならないので、帰国したそうだ。キャロンは勿論、シャーリーも初めての日本だった。

二週間程滞在するT一家に、小生達は真似事の結婚式を急遽サプライズで用意した。仲間の一人が、元祖お見合いパーティーを企画する会社に居たので、こうしたことには好都合だった。
無信教の日本人には、理解出来ない事件が起こった。
結婚式をあげようとした教会が、カソリック信者のシャーリーには、宗派が違うらしく直前にごねだしたのだ。
キャロンが、初めての結婚式、それも両親の式に大いにはしゃいでくれたので、ことを収めてくれた。シャーリーが、折れてくれたのだ。
結婚式後の披露宴は、芝のレストランを借り切って行った。バブルの頃の光景だ。
プロポーズの再現を二人に演じさせ、大いに盛り上がった。シャーリーの機嫌も直り、笑顔になった。キャロンは、友人の子供達とすっかり打ち解け、そこいら中を走り回っていた。
Tがシャーリーに、小生を一番の親友と紹介しておいてくれたのだろう、披露宴の御開きには、小生にハグしてくれながら喜んでくれた。
何だか、とても嬉しかった。

バタバタした二週間の後、T一家はNYへ戻っていった。
三年後、シャーリーとの間に男の子が誕生した。
「まさか、“スティーヴ”って名付けたんじゃないだろうな?」
小生は、手紙で尋ねた。
「何で分かったんだ!?」
Tの反応だった。“スティーヴ”も、『アメリカン・グラフィティ』の登場人物だったので、簡単な事だった。

それからTは、留学の時に世話に成った祖父の葬儀にしか帰国しなかった。
その時に貰った名刺には、“カート”のミドルネームが付いていた。
「分かるよな?」
ニヤリとTは、尋ねた。
「Sure!」
小生は、英語で答えた。単純を通り越して、アメリカ的な粋な男になったものだ。

時代がやっと、Eメール時代になり、Tとのやり取りも名刺に在ったアドレスを使う様になった。便利になり、連絡が頻繁になった。
ただし、Tの日本語は日に日に危なくなってきた。
Tのメールは、アメリカの情報を得る上で、大変便利だった。
“9.11テロ”の時には、連絡がなかなか付かず、大層心配した。Tが勤める会社は、WTCの近くに在ったからだ。しかし、後日付いた連絡では、Tはその日、たまたま休暇を取って居り、全く安全だったと知った。

小生がNYへ訪問した折は、Tの自宅にも伺った。ニュージャージーに在る、プール付きの邸宅に、Tはシャーリーと暮らしていた。風体は、完璧にアメリカのオッサンと化していた。今では、就職した会計会社のシニアパートナーに上り詰めたそうだ。シャーリーは、相変わらず美人だった。NYにあるコンサルト会社で、今でも働いているらしい。
大学生になったカートは、コロンビア大学に通っていたが、その時はドイツに留学中(工学を学んでいるらしい)で不在だったので会えなかった。でも、PC越しに挨拶してくれた。なかなかの好青年だ。しかも、流暢に日本語を操ることが出来た。あのTの息子が、何故こんなに優秀なんだと思った。多分、シャーリーが相当優秀で、その血を引いたからだろうと勝手に判断しておいた。

2歳の時以来に、キャロンとも再会した。自分の実家に、小生が居ることを知り、わざわざワシントンから来てくれたのだ。政府関係機関に勤めるダンナと、幼い一人息子を連れて来た。その子の名を聞くと、“ショーン”と答えてくれた。
“ショーン”は小生の英語での呼称だ。驚いていると、キャロンは
「おじさんに因んで付けました。私が、初めて記憶した親戚以外の大人だったから」
と、嬉しい事を言ってくれた。しかもしかも、ショーンは小生と誕生日が同じだった。小生とは、奇遇な事が有る一家だ。

その後小生は、以前と同じ様に色々な場で映画の話をしている。若い方達に、小生の若かりし頃の映画を語ると、当然『アメリカン・グラフィティ』の話をする。頭の隅っこでは、常にTが居る。
いつしかTは、自身がアメリカンドリームを体現しただけでなく、小生の夢も叶えてくれたのかもしれない。
Tは、小生が誇れる友人だからだ。

ずっとそばには居られなかったが、小生は、誇れる友人が居て幸せだ。
きれいごとでは無く、
これからは、いや、これからも、Tに誇りに思われる様な人生を歩んでいこう。
『アメリカン・グラフィティ』を再観して、そう思った。

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