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*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:櫻井 るみ(プロフェッショナル・ゼミ)

「ブフッ!!」

ああ、しまった。
電車の中で吹いちゃった。

チラと見上げると、目の前に立っているおじさんが怪訝そうな顔で私のことを見ている。

おじさんがそんな目をするのも仕方ないかもしれない。
先ほどから私は、スマホを見ながらニヤニヤしていたかと思えば、ついに「ブフッ!!」と声を出してしまったのだから、はたから見たら怪しいことこのうえない。

電車の中で読むときはマスク必須だな……。

読み終わったので、一旦スマホをしまう。
会社最寄り駅に着くまで、しばし寝る。

それにしても、『マリ』て!
『かゆ!』て!

目をつぶっているのに、口元に笑いがこみ上げる。
やっぱり怪しい人間に見られてしまう……。

***

最近私は、朝夕の通勤時間にWeb天狼院に掲載されているみんなの記事を読んでいる。
言ったことなかったけれど、私は今まであまり他人の記事を読んでいなかった。
リアルで仲良くさせてもらっている人の記事だけ、たまに読む程度だった。
残業して帰るとパソコンを立ち上げる気力もなかったし、スマホの細かい字は目が疲れるし、充電はすぐ切れるし、読みたい本が山のように積んであるし……。
なんやかんやと理由をつけて、あまり読まないようにしていた。
同じライティング・ゼミ仲間で私の記事を読んでくれていた人もいるのに、失礼な話だ。
ごめんなさい。

でも、本当は知っていた。
私があえて積極的にみんなの記事を読まなかったのは、落ち込みたくなかったからだ。
みんなの記事を読むといろいろと思うことがある。
『なんでこんなに何でもないことをドラマチックに書けるんだろう?』
『なんでこんなに長い文章なのに飽きさせないで読ませることができるんだろう?』
『なんでこの人はこんなにトリッキーな体験をしてるんだ?』

そして、様々なその思いはやがて一つの問いに繋がる。

『なんで私にはそれができないんだろう?』

答えの出ない問いにいつもぶつかり、そして落ち込む。

落ち込みたくない。
私には才能があると思っていたい。
他人の圧倒的な筆力に『負けた』と思いたくない。

だから私は、あえてみんなの記事を読むことはせず、そうすることで『私だって……』という小さなプライドを保っていた。
みんなの記事を読まないということは、私にとって自分を保つための防御策だったのだ。

そんな防御策から180度方向転換したのは、つい最近のことだ。
きっかけは、記事を読んでいないと話についていけないという、本当にささいなことだった。
それから、みんなの記事を読むようになった。
毎週膨大な量の記事がアップされるWeb天狼院だから、全部を読むことは出来なかったけれど、ちょくちょくチェックして読むようにしていた。

そして、記事を読めば読むほど、『自分にはこんな記事書けない。悔しい!』という思いよりも『やっぱりこの人おもしれー!!!』という思いのほうが勝ってきた。
読むことも好きだから、単純に一読者として楽しめたのだ。

一ライター(の卵)として勉強になることもあった。
今まで自分が無意識に書くことをためらっていたことを平気で、しかも面白く書いている人を見て『あ、こういうことも書いちゃっていいんだ』と目からウロコが落ちたこともあった。
『あ、こういうことって書き方次第でコンテンツになるのね!』と日常の些細なことを今までずっと見落としていたことにも気付いた。

今まであまりみんなの記事を読んでこなかったことを後悔した。
すぐそこにある良質のコンテンツを見て見ぬ振りをしていたのだ。
もったいないことをしてきた。

Web天狼院の膨大なコンテンツの中で、私が最近最も楽しみにしている記事は、福岡天狼院店長・川代紗生ちゃんの記事だ。
彼女は店主・三浦さんに次ぐコンテンツメーカーで、他のスタッフさんやお客さんからの信頼も厚く、彼女自身のファンもいる。
最近では劇団を立ち上げ、主演も務めた。
彼女に関する話題は多く、こうして他人の記事に登場することも多々ある。

そんな彼女は今、ある宣言を実現するために「これでもか!」というレベルで記事を更新している。
その記事を読むのが楽しいのだ。

みんなの記事はあまり読まなかった私だが、紗生ちゃんの記事は実はちょくちょく読んでいた。
人気記事ランキングの<<川代ノート>>とタイトルにある記事を適当にクリックして、そこから過去の記事にさかのぼって読んでいった。
その記事を書いていた頃の紗生ちゃんのことはよく知らない。
まだ出会う前か、親しく話をする前のことだと思う。
ただ、三浦さんやスタッフの山中なっちゃんや他のお客さんが、よく【川代さん】の話をしていたので名前だけはよく知っていた。
だから、『この記事が噂の【川代さん】……!』と思って、ドキドキして読んだ。

その頃の彼女の記事は、自分の性質を持て余しているような、とがった記事が多かった。
私からしてみたら「はあ? 何言ってんだ!」という話だ。
頭も良くて、いい大学を出てて、若くて才能溢れてファンもいて、なんでも持っているじゃないか!
どこを取っても自慢できるところばかりなのに、何でこんなに自虐的!?
これ以上何を望むんだ!!

そう思った。

そうだ。
私が一番最初に、一番大きく嫉妬したのは紗生ちゃんだ。
その若さに。
その才能に。
その可能性に。
そして、20代のうちに天狼院書店と出会えたという運の良さに。

40間近で、特に突出したものがあるわけでもなく、平々凡々と人生を半分くらい過ごしてしまった女からしてみたら充分に嫉妬の対象だ。
『若くて可能性あって運もあるくせにうじうじしてんじゃねーよ!』と口の悪い私の本性が叫ぶ。
身も心も丸くなってしまった中年女性には、あんなとがった記事は書きたくても書けない。
自分が出来ないことをやすやすと出来る力を持っている若い子に激しく嫉妬したのだ。

もちろん、紗生ちゃんが運だけでここまできたとは思っていない。
それは彼女の記事を読めば分かる。
彼女の人柄や小・中・高・大とどんな学生生活を送ってきたのか。彼女は赤裸々に書いている。
彼女が今の位置に立てているのは、彼女自身の努力があってこその結果なのだ。
だからこそ、彼女が自虐的なことを書いていると何とも言えないモヤモヤが募った。
『そんなになんでも持っているのに……』と思ってしまうのだ。

でも、そうやって私をモヤモヤさせておきながら、彼女の記事は最後にはとても明るい方向に抜けていく。
希望が持てて、光が射すのだ。
読んでいて、とても気持ちがいい。
前半にどんなにモヤモヤさせられても、最後にはスッキリさせてくれる。
だから、彼女の記事は読むことをやめられないのだ。
それに、一通り記事を読み終わると、『紗生ちゃんでも【そうできない自分】に悩んだり葛藤したりしてるのか……』という、共感というか、安心感のようなものが生まれる。
何でも持っていて、何でもできそうで、経歴や肩書きを見たら、「おっ!」となるくらい、しっかりした女性……に見えるのに、実はよく悩むし、不器用な女性。
自分と何一つ変わらない生身の女性の姿がそこにあるのだ。

だから、私は紗生ちゃんと仲良くなろうと思った。
単純に知りたいと思った。
こんな記事を書けるのはどんな人なのかと。

実際の紗生ちゃんは、初めに私が感じたような『とがった』女性ではなかった。
記事の中の激しさはまったく感じさせず、そして、ちょっと天然が入っている(ここら辺は本人が記事にしてるけど)。
でも、しっかりしていて仕事ができるのはイメージ通り。
年相応の可愛いお嬢さんだ。
ますます興味が湧いた。
こんな女性から、どうしたらあんな激しい記事が生まれるのか。
知りたい。そして、あわよくばその発想の仕方とか考え方とかを盗んでやれ……と。

そう思っていたら、タイミング良く一緒に学べる機会ができた。
ライバルとして火花を散らすのではなく(いや、メディア・グランプリ上ではライバルになるんだけれども)、仲間として、いいところは大いに取り入れて真似しよう。
彼女から学ぶべきところはいっぱいある。
私と彼女は違うから……とか、私は若くないからそんなこと書けない……とか、ひねくれている場合じゃない。

恥? プライド? そんなクソの役にも立たないものはありませんが、何か?
オリジナリティ? そんなものはあとからついてくる!

今はただひたすらに、いいところを吸収しまくるのだ。

***

「ブホッッッ! フフフフフフ……アハハハハ!!」

ああ、ついにやってしまった。
コーヒーを吹いてしまった。
しかも、職場でこんなに大きな声出して笑っちゃって……。

今私のいる場所がフロアの端のパーティションで区切られた応接ルームだからって、お昼で人がほぼ出払っているからって、こんなに大声で笑えば残っている人に聞こえてしまう。
一人で笑ってる変な人だと思われる。

しかも、コーヒー吹いてるし。

だけど……、やっぱり紗生ちゃんの記事は面白い! 面白すぎる!!
スースーおばさんて!! 『スッ』て!
この間の『マリ』といい、なんだ? 最近はお笑いの方向に走っているのか!? 川代紗生!?

あーもうダメだ。
アカン。これ、職場で読んだらダメなやつや。

紗生ちゃんの記事が面白すぎるとか、吹いてしまったコーヒーがもったいないなとか、一人で大笑いして恥ずかしいとか、いろんな思いがないまぜになったので、とりあえず紗生ちゃんにメッセージを送ることにした。

『スースーおばさんでついに吹いたwww。私のコーヒーを返してくれwww』

私もいつか、読んだ人が希望を持てるような記事とコーヒー吹くほど面白い記事を書いてやる!

***
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