メディアグランプリ

野球少年が実は文化系男子でもあったと気がついた時の話


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記事:土方 海里(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「中学、高校は何部だったんですか?」
この質問に、わたしは一旦、
「中学は野球部、高校は剣道部です」
と答え、理由を聞かれる前に、
「それまでずっと野球をやっていたのですが、違うスポーツをやってみたくなりまして」
と話を展開させる。さらにその話題が続くならば、
「でも実は、一番面白かったのは、兼部していた映画研究会だったんです」
という事実を打ち明ける。
 
今は月額のネットストリーミングがメインになってしまった感じだが、わたしが小学校の時は、テレビをつければ必ず野球がやっていた。クラスの中心的な男の子たちの夢は基本的にプロ野球選手かサッカー選手かバスケットボール選手だった。中でも、野球人気がまだまだ強かった時代だったので、放課後は必ず、小さな公園にみんなで集まって野球をしていた。雪が降ってグラウンドが真っ白になってもやっていたので、もしかしたらプロ野球より年間試合数は多かったかもしれない。そんな中、野球も、サッカーも、バスケもやらない子は、「少し変わった子」、という風に見られていた。
 
野球にハマり出したわたしは、もっと上手くなりたいと思い、小学校、中学校と、地域のクラブチームに入団することとなった。小学校はまだ緩やかな雰囲気だったが、中学校に入ると、監督や選手との人間関係に悩むようになり、野球の成績も落ち込んだ。気分転換も兼ねて、何か違うことをやってみたくなり、ギターを始めた。そのことを同じ野球チームの人には黙っていたのに、なんと親が彼らに暴露してしまったのだ。
「ギター!?調子乗ってんのかよ!?」
という目で見られ、非常に居心地の悪い思いをした。野球男子たるもの純粋に野球を続けることこそ、正義だったのだ。さらに、人並みに運動神経の良かったわたしは、
「野球をやめるなんてもったいない!」
と言われていたこともあり、野球を心から楽しんではいなかったが、しぶしぶ続けていた。
 
なんとか中学校までは野球を続けたが、高校は悩んだ。そもそも部活動に所属したくはなかったが、強制的に入らされるため、これは悩んだ。正直、野球部以外に所属したかったが、小学校、中学校、共に野球をしてきた人たちと、さんざんサポートしてくれた親に、「野球をやめる」というのは非常に言いづらかった。それで野球部に入部はしたものの、他人の目を気にして野球を選択したわたしに、キツい練習を耐えられるはずもなかった。到底続けられないと思い、意を決して親に、
「野球をやめようと思う」
と言うと、案外あっさり、
「いいよ」
と言ってくれた。しかし、同時に、
「でも、ずっと家の中にいたりするのはやめてよ」
とも言われた。何も、「文化系の部活はやめてよ」と言ったつもりはなかったのかもしれないが、それでも、上述した「少し変わった子」になってほしくない気持ちは心のどこかにあったと思う。だから、わたしが次に選ぶ部活動は、「スポーツ」というカテゴリーの中からしか選べなかった。親をはじめ、周りの人の目をとにかく気にしていたのだ。そこで、剣道を選択した。武道というものに興味があったし、せめて個人種目なら、チーム戦のようなプレッシャー、人間関係の難しさはないように思ったからだ(実際そんなことはないのだが)。
 
初めてやる剣道に、負けてばっかりの三年間だったが、野球部より忙しくなかったことは幸いだった。ある日、映画研究会に所属する友達が、
「映画を撮って文化祭で上映しようとしてるんだけど、出演しない?」
と誘ってくれたのだ。剣道部内でも、「もっと練習しないと勝てない」という雰囲気は当然のようにあったが、勇気を持って無視し、練習をお休みして映画撮影の時間を優先することにした。
シナリオは学校を舞台に繰り広げられるサスペンス。味方だと思っていた担任の先生が犯人だった! という、割とオーソドックスな話の展開だったが、その担任の先生役に、急遽抜擢された。かなり長いセリフも多く、何度も撮り直したり、一筋縄ではいかなかったが、撮影を続けているうちに、その面白さにすっかり魅了されてしまった。「このセリフはこういう感じで喋った方がいいだろうな」など、自分なりのこだわりも出始めた。文化祭の上演当日も、生徒から先生にいたるまで大好評で、犯人役のわたしは廊下ですれ違うたびに、
「めっちゃおもしろかったよ!(笑)」
と声をかけられた。別に、笑いを狙ったストーリーではないのだが…まあ、自分も楽しく、他人にも喜んでもらえるなら何でもいい。わたしはそのまま、部員4名の映画研究会に加入することとなった。
 
これまで、吹奏楽部や美術部のような、いわゆる文化系の部活動に所属する人たちを、下に見たりすることはなかったが、わたしがまさかその分野に喜んで加わるとは思ってもみなかった。しかも、映画研究会だ。これには我ながら驚いた。結局、今でも、会社の中で少しではあるが映像の仕事をすることもあるので、人生というのはわからない。映画を見るたびに、自分のつくる映像に何か活かせないかと考える。自分がこのように、映像に対して少なからずこだわりを持つ人間であるということは、高校で映画を撮ったあの時、初めて気がついた。
 
勇気を持って野球をやめなかったら、自分のそういう個性に気がついていなかったかもしれない。幅広い視野を持って、面白そうだなと思ったことを、他人の目を気にせず、とにかくやってみる、それが個性をつくりだすことに繋がるのだろう。もし自分に子供が生まれたら、たくさんの選択肢を与えようと思う。家には野球のグローブ、サッカーボール、ギターなど、物で溢れるかもしれないが、子供が何に興味を示すかわからない。親として、その環境を作ってあげ、子供が自由に選択する姿を黙って見守ることが、わたしの役目だと思う。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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