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子連れ外食の神様は公園のすぐそばにいた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
ジリジリと焦りだした夕方五時過ぎ。太陽はとっくに傾きだしている。
目の前では我が家の兄弟が無心で砂遊びに興じていた。せっせと砂をかき集めては山をつくりそこに掘ったトンネルに水をジャーッと流し込む。もう何もかも泥だらけだ。
 
「おーい、そろそろ帰るよ」
「ねえ! 帰るよってば!」
さっきから何度も声を掛けるが、反応が悪く段々と私も諦めモードに切り替わる。
これはもう、帰宅して一から晩ごはんの支度をするのは無理だな。仕方ない、もう今夜は冷凍ごはんチンと納豆で食べてくれ。
 
ようやく兄弟を半ば強引に公園から引きずり出した頃、時計の針は六時を指そうとしていた。
兄弟がそれぞれ自転車を漕ぐのを見守りながら小走りで伴走する。
上り坂の途中であるものが視界に入り、私はふと足を止めた。
 
(あ、お好み焼き屋さん……)
存在は知っていたが、入ったことはない。その看板になぜだか今日は強烈に惹かれてしまった。
 
(え、もしかして、今日子連れ外食するのアリ??)
実は……母は今、猛烈にお腹が空いている! 今すぐ何かを食べたい!
そんな気持ちが私に揺さぶりをかけてきた。
 
本来は、平日の夜に外食を強行することはほぼ無い。メニューによっては時間がかかり過ぎることもあるからだ。それに何より、お店側に迷惑をかけてしまうことが怖い。
 
特に小さいうちはその日のコンディションによってぐずったり泣いたり、それくらいならまだマシな方で、お腹が空きすぎたイライラから兄弟喧嘩でも勃発したら目も当てられない。
しかも今日は夫がおらずワンオペ。子連れ外食を一人でこなすのは苦行となるかもしれない。
 
それを押してでも子連れ外食にチャレンジするか、それとも今日はおとなしく帰宅するか。
 
さあ、どうする私!!
ドルゥルルルルルルルルルルルルルル、ダンッ!
脳内でのドラムロールが着地すると私は子供たちに言った。
「ねぇ! 今日ここで夕飯食べていかない?」
 
私は自分の空腹に負ける形でワンオペ外食チャレンジといういばらの道を選んだ。
不意に訪れた外食のチャンスに万歳して喜ぶ兄弟を尻目に私は祈った。
(どうかうるさい子連れでもなんとか許してもらえますように……)
 
敷地内に兄弟の自転車を停めていると、一つの事に気が付く。お店の入り口に掛かっている暖簾に阪神タイガースの法被のイラストが描かれている。これはどう考えても熱烈なプロ野球、しかもタイガースの大ファンに違いない。
 
プロ野球に全然詳しくない者の偏見で誠に申し訳ないが、熱狂的なファンは少々怖いという印象がある。もちろんほとんどのプロ野球ファンが善良な市民というのは重々承知だがアツくなりすぎたファン同士の乱闘などをテレビで拝見したことがある私は若干ビビりだした。
(どうしよう強面のおじさんが出てきて「小便くせえガキはおとなしく家で食ってろ」とか言われたら! そんなことがあったらショックで立ち直れない!!)
 
そんな事を考えていると、店の扉がガラガラと開いた。
ゆっくり顔を上げるとそこにはやや恰幅がよく、ツンツンショートヘアに大きめのセルフレームのメガネをかけた女店主が立っていた。髪色はピンクでこそないがその容姿はCCBのドラムを彷彿とさせる。
 
女店主はメガネの奥の目尻をこれでもかというほど下げ、兄弟の自転車を見ながらこう言った。
「へぇ~。マイカーで来たんだぁ。かっこいいじゃん」
 
よかったー! この人はどうやら子連れ外食の味方のようです!
この一言で私たちは招かれざる客ではないことが判明した。
 
店内に通されるとまず目に入ってくるのが二つの大きい壁掛けテレビ。
プロ野球の生中継が映し出されている。それぞれ違う試合だ。それ以外にラジオ中継もいくつか聞こえてきている。あまり中継を見たことが無く画面に釘付けの兄弟。
女店主はにっこり笑いながら言った。
「ぜーんぶの試合をチェックしているのよ」
 
注文が終わると女店主が棚を指さしながら言った。
「あそこにあるおもちゃ何でも出してきて遊んでいいからね」
棚を見てみるとそこには数えきれないくらいのおもちゃが箱にパンパンに詰め込まれていた。
オセロ、トランプ、磁石で描くお絵描き帖、他にもボードゲームやちょっとしたぬいぐるみなど多種多様なおもちゃたちが顔を覗かせている。
時間稼ぎに有効なアイテムがこんなにも……!! この品揃えは神です!!
 
「お母さん一緒にオセロしよう」「ぼくはトランプ」
恐怖も手伝って私は必死に子供たちと遊んだ。
 
待つこと10分。女店主が厨房から「はーい、お待たせ!」とまずは熱々の湯気が立ちのぼるイカ焼きそばを持ってきた。よかった、グズリ発動の前に食べ物が来た!
子供たちの歓声が上がる。それぞれのお皿に取り分けてあげるとふうふうしながら食べだした。
「イカがやわらかーい」ご満悦の表情だ。
私も食べてみる。うん、どこにでもある普通の焼きそば。そうそう、こういうのがいいんだよ。子連れ外食にシェフの気まぐれアレンジは必要ない。
 
みんなで焼きそばを黙々と頬張っていると次にお好み焼きが運ばれてきた。
女店主がトンっとテーブルに置き「これ、なーんだ?」とクイズを出題。
こげ茶色のお好み焼きの表面にはマヨネーズで何かが二つ描かれている。
「あっ! アンパンマンと……バイキンマン!」
アンパンマンはわかる。絵心がなくても適当に○を並べたらアンパンマンになりうる。しかしバイキンマンの形態はそうもいかない。ちょっと複雑な曲線を描く。だから少し難しい。それが同時にお目見えして子供たちのテンションは更に上がっていくのだった。
 
中継画面の中ではヒットを打ったり、ギリギリのところでバックホームしたりと盛り上がりを見せている。そのたびに女店主はにこにこしながら「おっ」とか「あちゃー」とか小さく声を挙げた。だんだんと空になっていくお皿をみながら私は心底ほっとしていた。子供に優しいお店は大人にも優しい。プロ野球ファンが怖いだなんて一瞬でも思ってごめん。
 
会計も終わり店を出る時、女店主が「はい、どーぞ!」と満面の笑みで差し出してきたのはペコちゃんの棒つきキャンデーだった。お土産までもらった兄弟は小さく飛び跳ねた。
 
女店主はわざわざ見送りのために外に出てきてくれた。結局子供たちは遊び疲れて空腹というグズリ発動の条件は揃えていたにも関わらず、一瞬たりともピリついた空気になることはなかった。こうして、とても穏やかで夢のような子連れ外食の時間は過ぎたのだった。
 
一か八かでピットインした私たちをどこまでも優しく温かく迎え入れてくれたこの店は、私の中で子連れ外食の味方から「神様」に昇格した。子供たちがずっと楽しく過ごせた桃源郷のようなお好み焼き屋。困った時、子供を抱えて私はまたここにピットインするだろう。
 
振り返るとまだ女店主がニコニコと手を振っていた。
その姿は後光が差しているようだった。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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