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メディアグランプリ

子どもは「才能があるね」って言って育てよう。根拠がなくても、嘘でもいいから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:みはらあずさ(ライティング・ゼミ)

幼稚園児って、案外、手先が器用なものだな。
感心しながら、制作発表会の会場となった体育館内を歩く。
年少組のブースでは、粘土の工作が並んでいる。
イチゴを模した丸い粒をたくさん乗せたケーキ。
粘土を細長くし、1本1本髪の毛を作って貼り付けた人の顔。
大きな貝殻の中に鎮座した人魚は、貝の胸当てや尾ひれまでちゃんと表現されている。
どれどれ。わたしの娘の作品は……?
期待しながら、横を歩く娘を見る。
娘はニコッと笑って私の手を引き、作品の前に導いた。
その作品名にはこう書かれていた。
「皿」
ん? と思って作品を見ると、平べったい粘土が置いてあった。それは、圧倒的なシンプルさで逆に存在感を放つほどだった。
「これは……?」
娘は満面の笑みで答えた。
「皿だよ」
いや、それはわかった。わかったけど。
「皿だけ……なの?」という言葉をグッと飲み込む。
他の子どもたちが手の込んだ創作物を作っている間、いったいこの子は何をしていたんだろう。2日がかりの制作物が、3分でできそうな皿だけって……。正直「この子には芸術的な才能はないのかな……」という軽い失望を禁じ得なかった。
あっ、でも。
私も、こんなふうにクラスで一番できの悪い作品を作ったことがあったな。
そのときの先生の言動は、きっと一生忘れないだろう。

あれは、専門学校に通っていたときのこと。
私は雑誌の編集者コースを専攻していた。その学校は、興味があれば他のコースの講義も自由に受けられるシステムだったので、私は美術系の生徒に混じってデッサンを学ぶことにした。
最初の講義のことは今でも覚えている。
円柱のブロックに、三角形のブロックを乗せたものをデッサンするというのがその日の課題だった。
木製のイーグルに画用紙を置いて、両端をクリップで挟んで固定し、練り消しゴムと、4Bの鉛筆を用意する。
鉛筆の芯はほどよく太いほうが描きやすい。だから鉛筆削りではなくカッターで削ってある。
椅子に座り、鉛筆の傾きを対象物の角度と合わせる。
深呼吸して、線を引く。
この「線を引く」という何気ない行為が、私を果てしなく苦しめた。
親指と人差し指で鉛筆を持ち、そのまま芯を画用紙の上に滑らせるように腕を動かす。
スッ。
ちがう。
線が右に10度くらいズレている。
すぐに消して、鉛筆を持ち直して姿勢を正す。手は動かさず、肘から先を右から左へ――。
スッ。
ちがう。
線の端がほんの少し下がっている。また消しゴムで消す。
スッ。
ちがう。
線の中央がわずかにふくらんでいる。
遅々として進まない私のデッサンをよそに、周囲の生徒たちの席からはシャッシャッシャッと鉛筆を走らせる音がする。彼らの画用紙の中では、円柱と三角の積み木が立体感を持って生み出されている。
カチ、カチ、カチ……。
時計の針が進むにつれ、焦りで頭がしびれ始めた。
こんなところでモタモタしている場合じゃない。線の1本や2本、妥協したっていいじゃないか。はやく三角形と円柱を描くんだ。
スッ……。
ああ、ちがう。
どうしてもガマンならずに、線を消す。消しゴムをかけすぎた部分は、もはや白くならず、濃淡のあるグレーにしかならない。本来はツルツルした画用紙なのに、消しゴムのかけ過ぎで表面が削られ、ザラザラとした質感になっていた。
もう一度。
スッ。
ゴシゴシ。
ビリッ。
3時間にわたって繰り返された単調な反復の末に、ついに画用紙に穴が空いた。5本用意していた鉛筆の芯も全部つぶれていた。
隣の人は積み木の背後の陰影や台座に映り込むブロックの影まで完璧に描写しているというのに、私の画用紙はほぼ真っ白だった。
「そこまで、鉛筆を置いて」
先生の合図に血の気が引いた。わざわざ他のコースの講義におじゃまして、3時間かけて描いたのは、たった3本の線だけ。私はいったい何しに来たんだろう。
先生は車座になった私たちのイーグルを1つずつ見て回った。生徒たちも周囲をキョロキョロ見回していた。
やめて。誰も私の絵を見ないで。
さっきまでは時間を止めたいと思っていたのに、今は一刻も早く終鈴の鐘が鳴ることを祈っていた。早く、この絵とも呼べないものをカルトンバッグにしまって帰りたい。
先生が、私の背後に立ち止まった。その気配に体がこわばる。
お願い、早く次に行って!
「う~ん」
先生はそうつぶやくと、なんと。
私の画用紙を手にとり、みんなに見えるように頭の上に掲げたのだった。
ああ、やめてやめて。こんな公開処刑、耐えられない。
分不相応にデッサンの授業なんか受けてごめんなさい。
もう帰るから許して。
ふと、高校時代に放送部の顧問から「あなたは別の世界でがんばってね」と言われたことを思い出した。自分を恥じて逃げるように退部した、あの絶望的な気持ちが蘇ってきた。
「みんな、これ見て」
先生の声が頭上から降ってきた。
ギロチンが落とされる寸前の死刑囚の気分だった。

「これ、ね。すごいでしょう。ゴッホみたい。大家の卵の絵だよ」

その瞬間、私の頭の中はハテナでいっぱいになった。
あれ、わたし、褒められてる?
線3本しか描いてないのに?
その瞬間、明らかにみんなの見る目が変わった。最初は「何コレ?」と鼻で笑っていた生徒が尊敬のまなざしでこっちを見ていた。
ゴッホみたい。
大家の卵の絵だよ。
頭の中で先生の声がリフレインする。
戸惑いと、恥ずかしさと、誇らしさが混じった不思議な気持ちに体の芯が熱くなった。

講義が終わった後、夕焼けに染まった美術室で、先生の恰幅のいい後ろ姿に声をかけた。
「なんであんなことを言ったんですか?」
先生は横顔におだやかな笑みをたたえて言った。
「ぼくがそう感じたから。それだけだよ」
具体的な理由はなかった。でも、先生がそう感じてくれたというだけで十分だった。
私はそれから2年間、デッサンの講義に足を運んだ。周りから絵が下手だと言われても平気だった。
「あのとき、先生が信じてくれた」
それが揺るぎない自信となり、絵を描く原動力になった。最終的に、美術系の本科生たちを押しのけて、学年で2位の成績をおさめた。でも、あのときの先生の言葉がなければ、私は「才能がない」と思って、受講を辞めていただろう。

思うに、才能とは分厚い殻に覆われた卵のようなものかもしれない。才能が内側から出ようともがいているときに、メンターが外側から殻を破る手助けする。それが適切なタイミングで行われると、才能は孵化するのかもしれない。私の場合、「放送」というジャンルの卵は死に、「美術」という分野の卵は小さなヒナを孵らせた。

きっと、人はたくさんの才能の卵を持って生まれてくる。
でも、成長する過程でその卵を腐らせたり、自ら握りつぶしてしまったりする人は多いのではないだろうか?
だから、あなたがもし親なら、子どもの卵をつぶさないように大切に扱ってほしい。嘘でも根拠がなくてもいいから、「才能があるね」って言ってほしい。そうしたら子どもは小さな卵をあたためながら成長するだろうから。

「――ちゃん、お皿を一生懸命まっすぐにしていたんですよ。平らにするためにすごく時間をかけていたんです」
いつのまにか、幼稚園の担任が私の隣に来ていた。そう言われて見ると、粘土の皿は驚くほどきれいな形をしていた。同級生のペースを気にせず、皿を平らにすることに情熱を注いでいたのか。周囲に気を取られて、彼女の作品をよく見ていなかったことを反省した。私は娘の顔をのぞきこみ、今度は心から賞賛の言葉を送った。

「すごいね! あなたにはとびっきりの才能があるみたい」

その瞬間、娘の帽子についた、ヒヨコのアップリケがウィンクした気がした。

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2016-12-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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