「38歳の時に開店」+「54年ここに立っている」=「失礼ですがおいくつですか?」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:アズマヤミワ (ライティング・ゼミ4月コース)
「失礼ですがおいくつですか?」
私の目の前にいるマスターの推定年齢と喫茶店の開店年数がどうも合わないため
私は質問した。
私は45分前、金沢の街で朝食難民になった。
歩けど歩けど喫茶店やカフェに辿り着けないAM7:30
せっかくだから早起きして美味しいもの食べよう! と
チェックアウトを済ませ街に飛び出してこのあり様だ。
次の予定地に駒を進める戦略に変更。
こんな時、21世紀でよかった!
スマホのある時代はなんと有難いのか!
と心底感謝する瞬間である。
20年前はガイド本や雑誌の特集から前もって情報収集を行いスクラップ帳を作り
持参し旅したものだ。今では掌に収まるスマートフォンでなんでも調べれてしまう。
しかし、その為に下調べ時に味わう旅のワクワク感は知らないうちに半減してしまっているのかもしれない。
そんなことを考えながらもGoogleマップで検索
「小松市 駅近く 喫茶店 カフェ」
21世紀、本当に便利な時代だ。
すぐにGoogleマップは朝食難民の私に愛の手を差し出してくれた。
そして提示された情報の中からみつけた喫茶店に恋をした。
Googleマップは本当に便利だ。
地図機能はもちろんのこと道案内までしてくれる。
そしてお店の概要情報、メニュー、クチコミ、写真を瞬時に提示してくれる。
そして『保存』という機能がとても素晴らしい。
『保存』というボタンをクリックすると気になる場所を『リストに保存』でき、
そのリストも分類できるという便利な機能があるのだ。
スマホ上にオリジナルの『スクラップ帳』が出来てしまうのだ。
雑誌やSNSで気になる場所やお店は、Googleマップの『保存』機能に保存し、
オリジナルのスクラップ帳を未来の自分のために作ることができるのだ。
Google先生と呼ぶにふさわしい機能の一つだ。
Google先生のお導きにより出会うことのできた喫茶店。
そのお店は駅から5分ほど歩いた場所にあった。
商店街もレトロな佇まいでタイムスリップしたような錯覚に陥った。
そして、片思いの相手は扉を開いて待っていてくれた。
「いらっしゃいませ~」
商店街もレトロだったがそのお店の店内も『昭和感』満載だった。
Google先生はタイムマシーンだったのか⁉
私は『昭和臭』がプンプンする店内に吸い込まれるように入り
カウンターのセンター席に座っていた。
「メニューはこちら。今日は日曜日なのでゆで卵はサービスで~す」
とても明るい紳士なマスターが手書きのメニューを差し出してくれた。
A4サイズの厚紙のてっぺんに追加された厚紙に
「50年の魔力。一度食べたら又一度 イタリアン スパゲティ」
と激押ししてくるパワフルなメニューが書かれていた。
スパゲティを受け入れれる胃の状態ではまだなかったためモーニングを頂く。
オーディオやジャズを推しているが店内に流れているのは明らかにラジオ。
常連さんらしき方が1名いるからかな⁉
と少し残念な気持ちになりながら店内を見渡す。
店内のインテリアをくまなく堪能し、トイレへ。
「はばかり」
アーチ形のトイレのドアプレートにそう書かれていた。
キュン♡
高齢者相手の仕事をしているから「はばかり」という言葉を知っていたが
若者達にはお初な言葉だろうなとにんまり。
「はばかり」から戻ると店内にはジャズが流れていた。
マスターの魂がこもっているいい音だ。
「すごくいい音ですね」
「えっ⁉」
どうやら耳が遠いようだ。
「すごくいい音ですね!」
「そうでしょう~。 ここは昭和のお宝喫茶店ですから。 いい音でジャズが聞けますよ」
とお手製のポスターを指さして教えてくれた。
同時に、ハムとチーズ、そしてどっさりと乾燥パセリがのったトーストが出てきた。
いつもの好奇心がムクムクと湧き出てきてしまい質問した。
「ジャズが好きで喫茶店を始められたんですか?」
「ジャズが好きなんではなくオーデオが好きなんです」
発音は明らかに「オーディオ」ではなく「オーデオ」だった。
「38歳の時になんか商売しないといけないと思って。何でもよかったんですけどね」
「そうこう言いながら54年、 ここに立たせてもろてます!」
「オーデオが好きでいい音で聞いてもらいと思ってね。 ジャズを聴きながらコーヒーを飲んでるあなたの姿はオシャレなんですよ」
と言ってお手製のポスターをまた指さした。
オシャレかぁ~
と思ったのも束の間。アレ⁉ アレアレ⁉
「38歳の時に開店」 + 「54年ここに立っている」
「失礼ですがおいくつですか?」
= 「92歳です!」
私の目の前に立つ
私にパセリいっぱいのせたハムチーズトーストを作ってくれたマスターは
92歳のスーパー高齢者だった!
「えー!!!」
居合わせた他の若い男性も声を上げていた。
「もう間もなく閉店ですよ」
「そうなんですか⁉ もう辞めちゃうんですか⁉」
「いやいやもう寿命がね。 もうそろそろなんですよ! ワハハ」
92歳の渾身のギャグだったようだ。
92歳にモーニングを作ってもらい
サービスのゆで卵を頂く日が来るなんて!
もう私の興味度数のメーターは振り切れ、更にマスターに大きな声で
質問を続けた。大きな声で話すのがこんなに役に立つ日が来るなんて。
「お店は忙しいですか?」
「なんや知らんけど、最近、土日祝日にお客さん多いんですわ」
「私はGoogleマップで調べて素敵なお店だと一目ぼれしてきました」
「僕もです!」
と居合わせた男性も即答していた。
「なんですのん? よーわからんですわ。 私、載せてませんのに。不思議やわ」
21世紀の文明の利器により
知らないうちに魅了されたお客によって宣伝され、
お客さんが増えている92歳のマスターのいるお店。
宣伝したくなる魅力が全身から溢れ出ていることは言うまでもない。
「じゃんじゃん宣伝してくださいね!」
と私と居合わせた男性に今から二人でババ抜きができそうな量の絵柄の異なる
ショップカードを渡してくれた。
色々な種類のショップカードもお客さんがデザインして下さっているそうだ。
「今度来るときはジャズのレコードお持ちくださいね。そしたらオーデオ好き同志ということでお客さんではなくなるから珈琲ご馳走しますよ」
54年もの時をかけ
92歳のマスターが自ら知らないうちに広告塔になり来るお客を魅了し
虜にまでしてしまい人気店になっているようだ。
旅先で困ったときにGoogle先生に聞くもよし、
「保存」機能をコツコツためて、
過去の自分が作った『スマホ版スクラップ帳』を開いてみるのもいいかもしれない。
もしかしたらあなたの人生に最高年齢のマスターにゆで卵をサービスしてもらえるというサプライズが起こるかもしれない。
***
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