いつも新人、ずっと新人
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:平沼仁実(ライティング・ゼミ4月コース)
「できない! わかんない!」
通信教育の勉強をしている娘が、泣き叫んでいる。
なだめ励ましても、爆発した感情は止められない。
親が教えることが前提で作られているのか、その教材にはあまり説明が書かれていない。
しかし私が教えようとすると、聞く耳をもたないばかりか、娘の感情はますますヒートアップする。
だんだんこちらもイライラしてくる。
「もう、やんなくていい!」
最終的に私の感情も爆発する。
できそうもないことは、最初から「わかんない!」と言ってやろうとしない。
途中で少しでも分からないところがあると、思考停止して手が付けられないほど発狂する。
そして親子ともに感情が爆発して、家庭内が荒れまくっている。
できないことでも、挑戦してほしい。
途中でつまずいても、すぐに諦めずに考える力をつけてほしくて始めた通信教育。
けれどこんな不穏な毎日では、誰の得にもならない。
どんな小さなことでもいい。
専門的な立場から的確なアドバイスがほしくて、育児相談ができる公的なサービスを探した。
メッセージを送ると、すぐに返信があった。
詳細について次々と質問され、答えていく。
やりとりを繰り返していくうち、徐々に期待感が増していく。
こんなに詳しく聞かれているのだ。
きっと我が家に合った具体的なアドバイスをしてくれるに違いない。
実際いくつかの提案をしてくれた。
けれどどれもすでに取り入れ、うまくいっていないことばかりだった。
小一時間のやりとりをした後、最後に言われた言葉は……。
「よく頑張っておられますね。お気持ちお察しします」
違う、そうじゃない。
私が欲しいのは、共感や激励じゃない。
助言がほしいのだ。具体的な。
もはや天を仰ぐしかなかった。
もうこれは、自分でどうにかしろということか。
そういえば、娘が習っているピアノでも同じようなことがあった。
教室で習っていないところまで家で「先取り」して弾こうとして、分からなくて発狂する。
良かれと思って私が教えようとすると、ますます事態が悪化する。
困った末に先生に相談して、毎回先生が「教室で習ったところと、次回までに練習してくるところ」をメモ帳に明記してくれるようになった。
「それ以上は練習してこなくていい」と先生から言ってもらうようにした。
家で練習していて分からないところがあっても、親は教えないことにした。
すると発狂することなく、ピアノの練習ができるようになった。
そのことを思い出した私は、今の娘にとって通信教育のレベルが高すぎる「先取り」になっているのではないか、勉強も親が教えない方が良いのではないか、という仮説に辿り着いた。
仮説をもとに夫に相談をした。
「タブレット学習にしてみたら?」
調べてみるとタブレット学習には、子どもがひとりで楽しく学習できるように、様々な工夫がされているようだ。
実際に利用している知人にも聞いてみたが、特に問題なく何年も継続できているという。
しかし紙に繰り返し書くことで学習してきた昭和の人間としては、根拠のない抵抗感が拭えない。
タブレット学習、大丈夫なの? 遊んでいるだけみたいにならない? 本当に学習が身に付くの? 思考力が身に付かなくなるのではないか?
抵抗感を感じながらも、今の「発狂して勉強どころじゃない」「家庭内が不穏になりすぎてこのままでは娘の精神的な成長にまで悪影響を及ぼしそう」な状況を変えるには、他の選択肢はなかった。
半信半疑ながらもタブレット学習にかえてみると、娘は発狂することなく学習に取り組めるようになった。
親が教えなくても、毎日ひとりで学習できるようになった。
私もイライラすることはなくなった。
あの修羅場のような日々は何だったのか。
こんなことなら、もっと早く切り替えておけばよかった。
決して紙教材よりタブレット学習が良いなどと言うつもりはない。
どちらが合うかは人それぞれだし、正直、昭和な私はタブレット学習についていまだに100%信じ切れていない部分もある。
娘が発狂するのは、娘自身の問題だと思っていた。
理想と現実との折り合いが付けられないことが問題だと。
だから娘自身が成長し、乗り越えるしかないと思っていた。
けれども一連の流れを経て思うのは、親である私のこだわり、固定観念、理想の高さが、問題の一因だったのかもしれないということだ。
育児で壁にぶつかって初めて、親としての自分自身の未熟さを突き付けられる。
子どもが乳児だった頃、周りからはよく「今が一番大変な時期ね」と言われた。
しかし乳児期を過ぎても、育児の大変さは全然ピークアウトしない。
子どもの成長に伴って大変さの種類が変わっていくだけで、現在進行形でずっと大変なままだ。
けれど考えてみたら、子どもの年齢と同じ年数しか、親としてのキャリアはない。
育児で生じる問題は、子どもにとっても親にとっても、いつも新出なのだ。
いつも新人、ずっと新人として、その都度子どもと一緒に悩みながら、ひとつひとつ乗り越えていこう。
子どもが一人前になるまでの間に、私も親として一人前になっていけるように。
***
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