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父の最後の贈り物


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記事:石川未来(ライティング・ゼミ)

 

15歳のとき、父が死んだ。

心筋梗塞で、急死だった。

もう6年前のことになる。

 

父は、私が中学2年生になった時くらいから、海外へ単身赴任していた。

その父が帰って来たのが、2010年4月2日の夜。

3日後の私の高校入学式に合わせて帰国してくれたのだ。けれど、私が通っていたのは中高一貫校だったため、当の私は、中学卒業にも高校入学にもあまり感慨は湧かなかった。

父の帰国についても、「ふーん、帰って来るんだ。校舎もクラスメイトも変わらないんだから、わざわざいいのに」と冷めた反応だった。

その夜、私は、卒業記念にクラス皆でカラオケをして遊んで帰って来たところで、リビングで皆で撮ったプリクラを見たり、携帯をいじったりしていた。

何ヶ月か振りに我が家のリビングに帰って来た父を、私は「おかえりなさい」「久しぶり」と迎えた。父は笑っていた。そして、母といくつか言葉を交わし、「飛行機で疲れたからもう寝ようと思う」と言った。リビングの扉を開けて廊下へ行こうとする父の背中に、私は、「あ、お父さん」と声をかけた。父が帰って来るなら頼もうと思っていたことがあった。「春休みの数学の宿題わからないから見てほしい」とか、「自転車がパンクしたからお父さんの車に乗せて直しに出そう」とかそんな些細なことだった。

「あ、やっぱいいや。おやすみなさい」

明日でいいや、と思った。お父さん疲れてるみたいだし、明日にしよう。明日でいいや。明日話そう。そう思った。

 

その明日は来なかった。

 

次の日、疲れているのだろうと起こさなかった父が、昼を過ぎても起きて来ないので、母が呼びに行った。二階の寝室から、悲鳴が聞こえた。兄が二階へ上がって行った。私も兄の後から寝室へ入ろうとしたら、兄が「未来は来るな」と叫んだ。「救急車を呼んで、救急車がわかるように外で待ってろ」と言われた。意味がわからなかった。なんだか現実感がなかった。今は春休みで、私は毎日ゆっくり起きてゆっくり過ごして、昨日は中学のクラスで遊んで、でも中高一貫だから卒業してもお別れじゃなくて、変わらないメンバーで高校生活が始まって・・・・・・何も変わらないはず。

家の外で救急車を待ちながら、私は妄想をしていた。春休みが明けて、新学期が始まって、親友に今日のことを話す妄想。「九死に一生ってやつだよ。びっくりしちゃったよ」

病院に運ばれた父が目を覚まして、私も兄も母も笑っている妄想。

この妄想は限りなく現実に近いはずだ。きっと現実になる。だって、こんなことが現実に起こるはずない。私の人生に起こるはずがない。こんないきなり、何の予兆もなく。

人気のない住宅街の通りに、一人で立っていた。一人だった。風が顔に当たって、涙が出た。麻痺してぼーっとしたような、それでいて冴えているような頭の中で、ぐるぐると色んな考えが湧いては消えた。暗い妄想はすぐ意識の奥の奥に追いやった。明るい妄想だけを膨らませた。「九死に一生ってやつだよ。びっくりしちゃった」私は笑って話す。親友も笑っている。

 

救急車が来て、人が家の中に入っていった。

私はどうしていいかわからなくて、一人でそのまま通りに立っていた。

暫くして、中から一人の人が出てきた。

「残念ですが・・・・・・」

その後その人がなんて言ったのかは、あまり覚えていない。ただ、その表情と最初のフレーズで、何を言ったのかは理解した。

 

4月5日。お葬式があった。高校の入学式の日だった。父は私の入学式を見に帰国したのに、結局私は入学式に出なかった。火葬をして、父の骨を拾った。小さい頃の私を抱き上げてきた大きな腕、大きな身体。その身体はもうどこにもなくて、残った骨は、私の両手に全て収まってしまいそうなほど小さかった。

「儚い」

そう感じた。

 

忌引きで一週間欠席することができたけど、すぐに学校に出ることにした。父は私の入学式に出るために帰国したんだから、私が高校生活のスタートダッシュを上手く切れないことは望んでいないんじゃないかと思った。

それに、私はもう知っていた。父が死んで、現実感がなくて、悲しくても、ご飯は食べれるし、笑えるし、お風呂に入れば気持ちが良い。父が死んで、私がどんなに悲しくても、空は青くて、世界中の人は会社へ行って、学校へ行く。やっぱり私は現実を生きている。

 

父の死をきっかけに、その後の私の世界は変わった。

「人が死ぬ」ということをそれまで実感したことがなかった私は、色々なことを考えた。

 

後悔をした。

単身赴任が始まって最初の年、父は「スカイプをしよう」とメールしてきた。安いカメラを買って来てパソコンに繋いで遠い国で一人暮らす父とビデオ越しの会話をした。けれど、母も兄も私もスカイプを使う習慣はついていなかったし、兄と私は部活に熱中していたから、通話をしたのは一度か二度きりだった。

今思えば、きっと父はさみしかったのだろうと思う。家族から一人離れ、使う言葉も違う外国の地で。

もっと通話すればよかった。大した手間じゃなかったのに。

私、何も返してない。

父に、悪いことしたときは叱ってもらって、わからない数学の問題は教えてもらって、週末には公園に連れて行ってもらってキャンプをして、長期休暇には必ず家族全員で旅行に出かけて、冬はスキーに行って・・・・・・たくさん愛してもらった。良い父親だった。

親孝行なんてもっと大きくなってからするものだと勝手に思っていた。

大学に合格したよって伝えたかった。成人式には、振袖姿を見て欲しかった。一緒にお酒をのみたかった。初任給で、ご飯でもご馳走したかった。結婚式では、お父さん泣いちゃったかな。子どもが生まれたら、絶対喜んだだろうな。

これからたくさん、喜ばせる機会があると思っていた。

これから、なんて思っていなければよかった。

もっと普段から、伝えればよかった。感謝していること。愛していること。

すごく後悔した。

だから、私は、以前よりずっと、家族を大切にするようになった。

母や兄に、誕生日などのイベントのときには必ず、そうでなくても、思ったときに、大切だってことや感謝の気持ちを伝えるようになった。

 

「人はいつか死ぬ」ということを実感して、自分の人生を後悔しないように生きようと思った。

死ぬときに後悔しないように、自分が生きている間に何をしたいか考えよう。やりたいことには挑戦しよう。会いたい人には会いに行こう。

そう思って、毎日を大切にするようにした高校生活は、中学生活よりも充実していた。

 

父の死は、私にとって悲しくて衝撃的な出来事だった。

けれど、その悲しい出来事は、私の人生をたしかに変えた。

周りに甘えてばかりで、その上感謝をしない傍若無人な末っ子だった私は、父が死んで、少しは強くなった。大人になった。

 

死は、その人からの最後の贈り物だ。

私は、父の死から色んなことを感じ、考え、生き方が変わった。

 

生きていく上での、どんな悲しい出来事も、苦しい出来事も、受け取り方次第なのかもしれない。

その出来事をどう受けとめて、その後どう生きていくかはその人次第だ。

だったら私は、これから起こるどんな出来事も、プラスに変えていきたい。

 

父の死は、そんな風に考える、生きていく上での覚悟をくれた。

 

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2016-12-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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