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化学の先生が教えてくれたのは、連想ゲームだった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:和智弘子(ライティング・ゼミ)

 

 

「それではこの化学式についてですが、はい、いま目が合いました、ヤマモトさん、お答えください」

 

化学の授業は、いつも頭が混乱する。

高校で学ぶ化学の内容は、中学の時に学んでいた内容とは比べ物にならないくらい、とても難しくなり、初めて聞く化学の公式には、クラス全員が頭を抱えていた。

 

 

もっとも、頭を抱える理由は、授業の内容ばかりではなく化学を担当している先生にもあった。

 

 

N先生は、50代半ばでひょろりとした体つき。頭髪はすこし、寂しくなっていた。化学の先生らしく、白衣を着て、いつもフラリフラリと歩いていた。

 

わたしたちの通っていた高校は進学校、というよりは高校生活は思い切り楽しもう! というスタンスの人が多く、目指せ! 東大! というような雰囲気はまったく感じられなかった。

それなのにN先生は、

「そんなことでは、君たち、東京大学へは入れませんよ」と、問題を解けずにいる生徒に指導するのが口癖だった。

 

完全なる文系のわたしは、指された時にいつも答えることができず、「先生、わたしは東京大学なんて狙ってませんから!」と、負け惜しみの言葉で対応していた。

 

 

それでもわたしは、難解なN先生の授業が好きだった。

なぜなら、化学の授業なのに、連想ゲームのように、話がそれていくことが多く、その内容がわたしの心をつかんでいたのだ。

 

「はい、みなさん。5月になりました。5月と言えば新緑。ですが、新緑は何色ですか? はい、マツナガさん、お答えください」

 

えっ? 新緑でしょ? 緑じゃん。

 

「みどり……です」

 

「緑に見えますか? いいですか? 新緑は『赤』これは常識です。もえるような新緑という表現を聞いたことはないですか? 芽が出たばかりの葉にはクロロフィルが少ないから赤い、とも考えられていますし、まだはっきりとは解明されていない部分もあります。話は長くなりますから詳しくは生物の先生にご質問してみてください。また、『もえる』という言葉もふたつありますね。もえさかる炎の『燃える』と、草かんむりに、明るいと書く『萌える』どちらの表現も正しいと言えます。国語の表現だと『萌える』をよく使いますね。物事をひとつの側面から見ているようでは、東京大学には入れませんよ、マツナガさん。さて、脱線しました。化学にもどりましょう」

 

早口でまくしたてるN先生の授業は、いつも唖然としているうちに終わってしまい、「今日は、いったい何の授業だったのかな?」と、ポカンとすることも多かった。

 

 

N先生の授業が楽しいという生徒と、大っ嫌いという生徒に分かれたが、わたしは「N先生が知らないような知識を披露して、一度でいいからギャフンといわせてやりたい」という、小さな野望のもと、化学の授業に臨むようになった。

 

N先生は化学担当でありながら、「源氏物語」が大好きだった。当時、わたしのクラスで「あさきゆめみし」という、源氏物語をマンガ化した本が流行っていた。古典の授業で「源氏物語」が出てくるけど、ストーリーさえ分かってしまえば、古文が読めなくても何となく分かるんじゃないか、という理由から、みんなで順番に回し読みしていた。

 

授業中にマンガを読んでいた生徒をN先生は目ざとく見つけ、いまはマンガを読む時間ではありません、と注意したのちに、

「しかし、このマンガは実に良いマンガです。わたくしもこのマンガは持っております。古文が嫌いと言って、遠ざけるのではなく、別のアプローチで攻めるというのはとても良い学び方です。もっとも、このマンガを読んで『源氏物語』そのものに興味を持つことがあれば、それはすばらしい」

と、マンガ自体をほめていた。

 

苦手なものに、真っ正面から向かうのではなく、別のアプローチを見つけて、探求してみる、というN先生の発言は化学が苦手なわたしの心に大きく響いた。

 

 

化学の授業は相変わらず、難解なものだったけれど、いろいろな側面から物事をみる、という考え方を意識するようになったわたしは、少しずつ化学の授業そのものが楽しくなってきた。

 

自分の力では解決できない問題をN先生に質問しにいったとき、「マツナガさん。ここで悩んでいては、東京大学にはいれませんよ」と言われ、むっとした。

 

「じゃあ、東京大学に入るにはどんな勉強方法が必要なんですか? いろいろなアプローチが必要って、前に授業で言ってましたけど」

 

すると先生は、それは簡単です、と前置きして、こう続けた。

「いいですか? 物事はすべてつながっています。いつもわたしが授業で脱線しているように見えるかも知れませんが、ひとつの物事にはそれに関連する様々な現象があります。それらを関連づけて、学ぶ事が大事なんですよ」

 

「先生、言ってることが難しくて、全然分かりません……」

「例えば、虹は七色に見えますね。なぜ七色に見えるのか。それは簡単にいえば大気中に存在する水蒸気を基にした光の屈折や反射が原因です。

これは、化学的にも考えられますし、物理学的にも考えられます。また、虹の七色に使われる漢字をすべて書けますか? この側面は国語の問題ですね。

こういった形で、ひとつの物事を多方面から観察し、探究心をもつことで、知識の幅は広がっていきます。つまり、東京大学へ入りやすくなる、というわけです。まあ東京大学、というのはただ分かりやすい目印なだけで、可能性が広がるというわけですけれども。分かりましたか?」

 

「……なんとなく、わかりました。先生がいつもやってる連想ゲームみたいに学ぶことで、様々な分野を知ることができる、っていうことですか……?」

 

「その通りです! それが分かれば、あとは実践あるのみ! さあ、頑張りましょう!」

そういって、先生は笑っていた。

 

 

N先生秘伝の勉強方法を教えてもらったにも関わらず、わたしは東京大学を目指すこともなく、のほほんと過ごしている。

けれど、この「連想ゲーム思考法」は、こうして文章を書く時に非常に役に立っている。連想ゲームの中から見つけ出した素材を、丁寧に磨き上げて行こうと思う。

 

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2016-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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