あなたは今、青春してますか?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松本萌(ライティング・ゼミ6月コース)
「松本さん、今青春してる?」
秋も深まりあと数ヶ月で大学を卒業し社会人になるというタイミングで、アルバイト先の50代の役職者の方に聞かれた質問だ。
子供の頃から引っ込み思案で話し掛けられるとすぐ親の後ろに隠れていた私。成長するにつれ引っ込み思案なところは徐々になくなっていったものの、仲がいい人以外と話すのは相変わらず苦手だった。
人と話すのが苦手なので、友人達がアルバイト先として選んでいた飲食店の接客や塾の講師は避けていた。
そんな私が選んだアルバイトは、大学の掲示板に貼られていた事務職の仕事だった。
簡単な事務作業がメインで、ときたま職員の人に頼まれてお使いで外訪したりとゆったりとした雰囲気の中、他大学のアルバイト友達とのおしゃべりも楽しく申し分のない職場だった。
アルバイトの管理は若手職員が担当していたので役職者の方々と話す機会はなく「アルバイトの名前なんて覚えていないだろう」と思っていたところ、冒頭の質問をされたのだ。
急に名指しで質問されたことにビックリ。
そして失礼ながら「青春」という言葉が似つかわしくない年代の人の口から出てきた「青春してる?」という問いにビックリ。
理解が追いつかずポカンとしたまま黙っている私に対し、その人は構わず優しい微笑みを浮かべながら語ってくれた。
「青春ってね、自分が青春してるって思うときが青春なんだよ。僕は今、青春してるんだ」
その後今自分はプライベートでどんなことに取り組んでいるのか、その楽しみを奥さまと共有して充実した時を過ごしていることを語ってくれた。
当時私がどんな反応をしたのか記憶していないが、気の利いた言葉は言えず「そうなんですね。いいですね」という当たり障りのない回答をしたのではないかと思う。
このエピソード、実はずっと覚えていたわけではない。
2年前に社内異動があり、学生のときにアルバイトをしていた職場の近くで働くことになった。
目の前に緑豊かな一角があり、春は桜、夏は緑の木々、秋は銀杏、冬は澄んだ空気の中富士山を楽しむことができる。
秋晴れの日鮮やかに色づいた銀杏の木々を見ていたら無償に散歩したくなり、週末に行ってみようと思いついた。
オフィス街のため、週末の銀杏並木エリアはとても静かだった。
銀杏の落ち葉を踏むと、カサカサという音がよく響いた。
上を見上げると澄んだ青空で、黄色の銀杏の葉がよく映えた。
足下のカサカサ鳴る音と澄んだ青空を楽しみながら歩いていたとき、ニコニコした笑顔で「松本さん、今青春してる?」と言われたことを思い出した。
「青春」ってどういう意味だろう?
10代後半の時期を指し、その年代にしかできないことを精一杯やったり、人に恋したり憧れたり、大人への成長過程の時期を指す言葉だと思っていた。
本当だろうか。
帰宅して調べてみた。
広辞苑によると「人生の、若くて元気な時代」また「古代中国の五行思想で『青』は春を表す。人生における春にたとえられ、希望にあふれる時代とされる」と書かれていた。
10代後半の人を指すというのは、私の思い込みだった。
言葉の意味を調べて腑に落ちた。
そうか、あの人は「もう自分は50代だから。この年齢だから」という諦めの気持ちは持たず、楽しく過ごしている人だったんだ。
常に自分をアップデートし、新しいことや興味あることに取り組むことで人生を謳歌していたんだ。
人生は自分で決められる。
自分で人生の舵を取り、作っていくことができる。
そこに実際の年齢は関係ないんだよということを私に伝えたかったのではないだろうか。
今「松本さん、青春してる?」と聞かれたらどう答えるか。
もちろん「青春してます!」
以前からやってみたい仕事があり上司に思いを伝えていたら、半年前から携われるようになった。
既成概念にとらわれず新しいアイディアを出さなければいけないので苦労することも多いが、何かを生み出すことへの嬉しさが勝り、会社に行くことが楽しい。
学生の頃から憧れていた日本語教師の資格を取得して、ボランティアで外国人に日本語を教えている。
日本語を教える中で、無意識に使っている日本語を見つめ直すことができて新しい発見でいっぱいだ。
学習者の国の文化や伝統を教わることもあり、世界への知識がどんどんアップグレードされている。
今回参加しているライティング・ゼミもそうだ。
社会経験を積む中で、初対面の人に「人見知りしない性格ですね」と言われるまでに成長した。
ただ自分の意見や考えを飲み込んでしまう癖は今もある。
そんな性格の人は文章で自分の思いや考えを表現するといいと知り、ライティングを学んでみたいと思いこの講座に参加することを決めた。
週に一度2000文字を書いて提出するのは大変だか、楽しくもある。
人に伝えたいと思うことがこんなにあるんだと、自分を知る機会になっている。
なぜ22歳の私に「今、青春してる?」と聞いたのか分からない。
もしかしたら私のことを気に掛けてくれていたのかもしれない。
今振り返ると、あたたかい思いのこもった言葉だったことが分かる。
気がつけば私も問いかけてくれた職員の方の年齢に近づいてきている。
「今、青春してる?」
今度だれかに聞いてみようと思う。
***
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