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カレが私を沼らせる理由

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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
あやうく恋に落ちるところだった。
私がまだうら若き20代くらいの女の子だったらきっとそうだ。
バイト先の仲良い先輩みたいな距離感。めちゃくちゃイケメンてわけでもないけどなんとなく女の子の扱いを知っていて、おしゃべりが上手でふざけあったりしてるうちにこっちは好意持ってしまったんだけど、相手はもしかしたら本命の女性がいたりするのかもしれない。バリバリ仕事してる後ろ姿を気づいたら目で追ってしまうみたいな。
告白できなくもないけど、結果はどうなるかわからない。
手が届きそうで、でももしかしたら絶対届かないかもしれない。
カレはそういう雰囲気を持っている。
 
出会いは予期せぬ形で起こった。
劇場公開は見逃してしまったがいつか観たいと思っていた映画。そのDVDをレンタルした時だった。エンディングで流れたテーマソングの出だしが良すぎて何回も何回もリピートする。
心理学で、声は人間の本能的な感覚や無意識の部分が刺激されるものと言われている。どうやら私はそのバンドのボーカルの声に恋してしまったようだった。
 
幸か不幸か、この世の中は一度気になりだしたら容易にその沼にハマるように出来ている。
テレビ・ライブなどの過去映像はYouTubeなどで追う事ができるし、各種のSNSで公式のものからプライベート(とはいえ、それももちろん公式だが)的なものまでとにかくコンテンツは見放題・聞き放題の時代。特に最近では本人のスマホのインカメラで撮ったような生活感あるものが見られたりしてファンとしてはたまらない。
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こないだもカレが「じゃ、音マネしまーす」と言って始めたのは大型スーパー、イオンで使える電子マネー「ワオン」の鳴きまねだった。くだらない。実にくだらない。そう思いながらも何度も指がリピートしている。気づいたら顔がにやけていた。彼のスマホの先には何万人というファンがいるだろうに、映し出された表情がもしかして自分だけに向けられているのではという盛大な錯覚を起こさせる。あぁ危ない危ない。そんな可愛い表情でこっち見つめないでよ、好きになっちゃうじゃん。うん、わかってる。自分でもキモいのは重々承知だ。しかし、それがまあファン心理ってものなのかもしれない。
 
そんなやたら親近感をもたせてくるカレがステージに立つとまるで別人に変身する。
スポットライトを浴びながら、文字通りギターをかき鳴らして歌っている。激しく体を上下左右に揺さぶり髪を振り乱して歌っている。ドラムのドンッ、ドンッという体に響いてくるリズムに乗せて。
あの親近感からは想像もつかないほどのスター性がそこにある。その場の空気全部を鷲掴みにして激しく揺らしてくる。
しかも、あれだけ激しく揺れていたカレは歌い終わると一気に暗くなったステージの上でマイク越しに吐息交じりの「……ありがと」を繰り出してくる。
それはもう、ベッドの枕元で「好きだよ」と言われるくらいの威力だ。親近感とスター性のギャップが大きいことがなんだか生々しいエロさを発揮している。もしかしたら本当にモテる男ってこういう人のことを言うのかもしれない。
そんな事を思いながら鑑賞していると、観客席私の右隣の可愛い女の子はステージが始まって以来ずっと祈るみたいに両手をぎゅっと握りしめている。ほぼ棒立ちでカレを見つめているのだ。
あぁきっとカレに本気で恋してるんだね。
反対に左隣の女の子はずっとノリノリで天に向かって突き上げた拳を降ろすことはなかった。
彼らの迫力あるステージが、恋をさせたり、純粋にエンタメとして楽しませてくれたり両方を可能にしているのだ。
 
そんな彼ら、名前を「マカロニえんぴつ」という。男性4人組のバンドだ。
最初は私も思った。変な名前。漫才師みたいな名前だな、それとも何、コミックバンドなの?
でも実際は4人が4人とも音大の出身とあって演奏技術は確か。しかもボーカル「はっとり」が変に洒落っ気だして歌わずに「おれらの魂の歌、聞いてくれよ」という男気溢れる感じに持っていかれる。あの、とぼけた顔で「ワオ~ン」と言っていた人と同じだとは思えない。
 
帰る道すがら、そのバンドのTシャツをお揃いで着ている十代の若い女の子たちがキャッキャッとはしゃいでいる。
「あんなの好きにならないわけがないよねー!」
うん、わかる。私、おばちゃんだけどわかるよ。ライブしてるときのカレ、かっこいいよね。
スター性をも持ち合わせたカレの親近感は女の子たちをトリコにする。
魂を込めたライブをやり続けて、きっとこれからも恋する女の子を量産するのだろう。
 
「推し」の存在は心を潤す。
私は今日もカレのくだらない動画を眺めてはニヤニヤし、バンドTシャツに袖を通して、曲を聞けば一緒に口ずさむ。そうやって頑張る毎日に癒しを与えているのだ。
あなたの「推し」は誰ですか?
 
 
 
 
***
 
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2023-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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