本屋は「リトマス紙」
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記事:及川彩子(ライティング・ゼミ10月コース)
本をどこで買いますか?
私はオンラインで購入することが多い。SNSで目にした気になる本のタイトルを検索して、レビューを読んで購入。翌日に自宅に届く場合もあり、とても便利だ。
さらには、リコメンド機能があるオンラインショップがほとんどで、これもまた便利。検索した本と同じテーマの本、同じ著者の本、シリーズの別のテーマの本など、本屋でお目当ての本の両隣を吟味するのと同じような感覚で本を選ぶことができる。在庫がない場合には、複数のオンラインショップで検索すれば、たいていは見つけて購入することができ、欲しい本をほぼ確実に買うことができる。
楽しみにしていた本の発売日に「売り切れていて買えなかった」とか、「取り扱いがなくて買えなかった」ということは最近はほとんどない。なぜなら欲しい本を本屋に買いに行くことが減ったからだ。
コロナ禍、外へ出かけて店舗に足を運ぶことが減り、オンラインショッピングの利用が増えたことで、街の本屋さんは軒並み姿を消してしまった。
私の住む町でも、小さな商店街にあった、小さな個人商店の本屋さんが数年前に閉店した。つい最近も、隣町の駅に入っていたチェーンの本屋さんが閉店していたことを知り、残念な気持ちになったところだ。それなりの規模の商業施設など、人が確実に集まる場所でしか、本屋は生き残れない時代になった。
それでは一体、どんな時に本屋に行くのか。
私が一番ワクワクする本屋に行く場面は、「何かいい本ないかな」と出合いを求めて出向く時。
回数として多いのは、出先で時間を潰したい時。
頻度としては少ないが、本屋のありがたみが大きいのは、買い物に子どもを付き合わせた際の「ご褒美」として、「買い物終わったら好きな1冊を買おう(だから買い物は大人しく付きあって)」と駆け引きに使う時。
これらとは別で、もう一つ、本屋に行く目的がある。
自分のメンタルの健康度を確かめるために行くのだ。健康度を測る「リトマス紙」として本屋を使う。
「リトマス紙」である理由を述べていきたい。
私は小学生と保育園児の子育て中で、「自分ひとりで行動できる時間」を確保することがなかなか難しい。でも、3か月に1度の美容院デーは、散髪にかかる時間にプラスして、「おひとりさま時間」のボーナスタイムをもらい、髪を切った後にひとりで本屋へ立ち寄ることを、ここ数年は自分の決まり事にしている。
具体的な探し物をするのではなく、普段興味がある分野に限定せずに本屋の中をぐるーっと歩いてみる。平積みされて見える表紙、色使い、書体、イラストや写真、背表紙が並んだ中のタイトル、売れ筋ランキング、書店員オススメのPOP、期間限定コーナーなどをフラットな気持ちで見て回る。
そうすると、「リトマス紙」が反応して自分の状態が見えてくるのだ。
いろいろと気になる本が見つかるときは、好奇心が働いていて健全な状態。
「自分は今、こんなことが気になるのか」と気づくこともあるし、それが今まで認識したことがない初めての観点だった場合には、「なんで気になったんだろう?」と自己分析するのも楽しい。間取りの本、世界の美しい景色、昔話の本当の意味、推し活に特化した語学方法、子育て、終活、介護、イラストの描き方、書くこと、聞くこと、植物を枯らさずに育てる方法などなど。
本屋を存分に楽しんで、自分の興味の扉をどんどん開いていく。やってみたいこと、興味が湧くことが見つかるということは、心が動いている証拠だ。
一方で、本屋の中をどれだけ見て回っても、何も引っかかってこないときがある。目に入ってくる情報に興味が湧かない。視線が止まるところがあっても、立ち止まって本を手にするところまで体が動かず、「まあいいや」とやりすごしてしまう。心が動いていない状態だ。
この状態で本屋を歩き続けても、いいことは何もない。「何も興味が湧かない自分はどうしようもないな」「面白いことがなにもなくて悲しい」と、気持ちがどんどん沈んでしまう。そうなる前に本屋を後にして、カフェに入って温かい飲み物を飲み、一息つくのがいい。
疲れの原因は、なんだろう? 仕事、育児、家事、人付き合い……。その時によって違うだろうが、きっとすぐに思い当たるものが出てくるはずだ。「ああ、自分は今、〇〇が理由で疲れていて、健全ではない」と自覚をすることが大切だ。自分で自分の状態を認識できれば、あとは回復するために行動をおこすのみ。早く寝る、おいしいものを食べる、音楽を聴く、泣ける映画を見て浄化する、子どもを抱きしめる、猫を吸う、何もしない。自分がリラックスできるように自分で自分の機嫌をとるネタを片っ端から試して回復に努める。
本屋は本を買うためだけの場所じゃない。私にとっては「リトマス紙」の役割ももっているのだ。
身体のどこかに不調がある場合は気づきやすいが、メンタルの不調は自分では気づきにくい。「まだ大丈夫」「そこまでじゃない」と下す自己判断はたいてい間違えていて、心の不調を重ねていってしまうのだ。
だんだん寒くなってきて、年末が近づいてきたことを実感する。
忙しさも焦りも増すこの時期。心の不調を見逃さないように、また本屋に行こうと思う。
***
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