メディアグランプリ

貧乳というコンプレックスが、大切な人に出会わせてくれた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中園(ライティング・ゼミ)

私のコンプレックスは多々あるが、その中で最強なものといえば貧乳である。貧乳勝負したら負けない自信がある。それは、私にとってずっと悲しい、ものすごく大きいコンプレックスだ。さらに言うと、私は女性としてかわいいジャンルには入らないし、痩せてもいない。どっちかというと胸以外が太めである。どーしようもないくらい、女性の武器がない。
グラビアで、女性がビキニで胸の谷間を見せたり、両手で胸を隠し後ろ姿で振り向いて、ふっくらした胸のふくらみが見えている写真をみるとうらやましくてしょうがない。世の多くの男性がこういう人が好きだから私は恋愛対象外なんだと思っていた。

ブラジャーのサイズはAから始まるサイズ展開であるが、最近はAサイズがほとんどない。しかも、そのAサイズは豊胸パットがたっぷり入っているため、最早下着というより、変身ブラである。けれどそういうブラですら私には胸の谷間はできないし、寄せる肉はたっぷりあっても肝心の胸にはついてくれない。

ブラジャーを選ぶのは嫌な買い物だ。胸が欲しい。これなら大丈夫そうだと選んで試着し、「いかがですか、サイズみましょうか」って声をかけられても見てもらうこともできない恥ずかしい貧乳。
Aサイズにはたっぷり豊胸パットが入っているのが気に入らず、私は豊胸パットのないブラをつけている。だから上からみるとちょっぴり見える乳首。谷間ではなくすき間できるブラ。サイズの合わないブラをつけると、ブラが浮いてぱかぱかする。下着というより、胸カバー。

太ったり痩せたりは運動と食事でなんとかできても、場合によっては靴のサイズだって変えることができる。胸だけはどうにもすることもできない。筋肉はついても、乳を大きくするとはできない。

補正下着をつけたこともあった。ボディースーツのような下着をつけることによって、背中や脇の肉をもちあげ正しい位置に持っていき、肉に「ここがあなたの位置よ」と形状記憶させ、胸が豊胸され、ウエストのくびれもできるという代物だ。試着した自分の胸のサイズをみたときに、ブラのサイズがCになり、ウエストが4㎝細くなった姿に高額のローンを組んでしまった。しかし、ボディースーツを夏の暑い時期に着られるはずがないし、プロの手によって、よせてよせて作った胸を、素人ができるわけもなくローンと下着と貧乳までもが残ったままである。

セミオーダーの下着を試したこともあった。ミリ単位でサイズを測り、いくつかの細かいパターンの中で自分サイズのブラをオーダーできるものである。ここでもセミオーダーサイズ外の貧乳で、もっと心地よい仕上がりにしたい場合は、フルオーダーが必要と言われた。規格外の貧乳にさらに落ち込んだ。

そのくせ豊胸パットでごまかすことができないちっぽけなプライドを持っている。
下着で嘘をついて胸を盛っても、好きな人とエッチするときに貧乳がばれる。いざというときに胸を隠して事をすることもできない。
男性は洋服の上からだって、胸に視線を落とす。巨乳、美乳はポイントがあがるだろう。顔がいまいちだって、巨乳が恋愛有利に進む。ブラで豊胸してポイントをあげても、エッチの時にがっかりさせ、振られると思うと恋愛にも臆病になる。

恋愛下手は見かけ以上に貧乳だからと思っている。男性は巨乳であれば多少の顔も我慢ができるほど、オッパイ星人という話も聞くし。

貧乳がお好みの男性がいるということを知ったのは、下ネタの話をしているときだった。
社会人になってからは、貧乳をどうにかしようということは諦め、自虐的に「私よりぺちゃぱいの人は今まで会ったことがない」と自分の貧乳を言えるようになった。話の流れで貧乳キャバクラのような店もあるし、それはそれで需要があることを知った。キャバクラ勤めはする気はないが、貧乳だけである一定の殿方の射程に入るということは、ちょっぴり気持ちが楽になった。それでも、マニアック好きのために私の貧乳を披露するわけでもないし、貧乳コンプレックスは私を卑屈にしていく。

恋愛関係が進むと必ず「私貧乳だから、つまらない身体だし」と前振りをしている。大抵の場合「胸なんて関係ないよ」という。「胸のサイズで好きになったわけじゃないし」と。
臆病な恋愛は、貧乳で慎重になっている。振られると貧乳のせいにする。貧乳は自分の言い訳にもってこいだった。

気づいたときに自分のそばにいた人は、まったく体系を気にしない人だった。私が貧乳にコンプレックスを持っているとわかると、大げさにほめた。「可愛い」「ありすぎる胸が気持ち悪いよ。むしろこの小ささ心地よいよ。気にするなんておかしいよ」「自信もって」
彼の言葉に貧乳はコンプレックスではなく、私のシンボルに変わっていった。パカパカするブラジャーから見える乳首をみて喜んでいる変な人だ。本気で貧乳を褒めてくれるありがたい人が、偶然私のそばにいる。

いつの間にか、私は貧乳がコンプレックスではなくなった。グラドルの胸は今もうらやましいし、くれるというなら胸にだけ肉をつけて「胸が重くて肩こりが辛い」とぼやいてみたい憧れは十分にある。胸の谷間も欲しい。けれど、それが誰もが喜ぶ一般的な胸とは限らない。むしろこの貧乳があったから、私自身を見てくれる人に出会えたのだから。

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2017-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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