結婚十年目のビッグバンがもたらした夫婦の奇跡
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記事：パナ子（ライティング実践教室）
この2年、夫婦関係が死んでいた。
色々あり修復不可能かと思われた。
常に二人はファイティングポーズを取りつつ、リング上で距離を取る。相手を思いやる気持ちは彼方に消え去り、相手がどう出てくるか、そんな事ばかり考えて時は過ぎた。どこからどうみても楽しくないピリピリとした日常がそこにはあった。
「おめーなんかと、やってられっか！」
「上等じゃねぇか！ それはこっちのセリフだ！」
こんな張り詰めた空気感で会話をしたこともあった。
そんな中、年に一度の記念ランチの日を迎えた。
夫が夫婦水入らずの時を、と毎年私の誕生日近くに高級ランチを予約してくれるのだ。
さあ、果たして、私は高級ランチを楽しめたのか。
それはもう、心の底から湧き上がる嬉しさと純粋な楽しさで胸がいっぱいの時間になった。
なぜそんな夢のような時間が過ごせたのか。
実は2週間ほど前に二人の間にはビッグバンが起きていた。
子供に対しかなり厳しい態度で接した夫に納得のいかなかった私は「てめぇ、それはやり過ぎだろ！！」と殴り掛かった。
あわや乱闘寸前までいく派手な言い合いをしたのだが、その直後、夫が1人、風呂に入っている間になんだかどんどん冷静になっていく自分がいた。
台所に立ち夕飯の準備で、野菜を刻んだりしているうちに、ふと思考の変化が訪れたのだ。
夫も子供の将来を考えてのことだしな。
私だけが絶対に正解ということもない。
夫は夫なりに一生懸命家族に向き合っているんだ。
冷静になると、感謝の念すら覚えた。
それは、もうこれ以上膨らまないという限界まで膨らました風船が「パァァァンッッ」いうと巨大な破裂音と共に割れたのに、似ていた。
もしこれが、中途半端にしか膨らませ切れず徐々にしぼむのを待っていたら、気持ちはくすぶったままで、ここまでの変化は無かったかもしれない。
それくらい、夫に対して、気持ちを全て吐き出してしまったようだった。
もうここまできたら、失うものはないという変な強さも手伝ってのことだった。
さっき自分の気持ちばかりを優先して、頭ごなしに夫を否定してしまったことを謝りたい。
夫が風呂から出たのを見計らうと、脱衣所の扉をバンッと開ける。
そこには着替えを済ませたばかりの夫が立っていた。
「あのさっ！」
第一声でそう発すると、夫は一瞬ビクッと驚いた表情を見せた。
私はヤンキーみたいに勢いよく続けた。
「さっきのことだけどぉ！ なんか！ ちょっと！ 悪かったなって思って！」
可愛く謝るのが死ぬほど恥ずかしいので、照れ隠しに、なんならちょっとキレ気味に謝った。
「はぁぁぁ、びっくりした。そういうこと……」
またしても妻が殴り込みに来たと思った夫は、一瞬怯んだ表情を見せたが、妻が謝罪を口にしているとわかるやいなや、そこに座り込む勢いで一気に脱力した。
これまで父として正しい道を子供に教えてくれようとしたこと、何かあった時は真剣に向き合い対応してくれたことなどに言及し、私は感謝の念を述べた。
「『お父さん』の役割してくれて、ありがとね！」
そんな彼が口にしたのは、これまた感謝だった。
「あぁそんな風に言ってくれてありがとう。俺もちょっとやり過ぎたかなと思って少し反省してたところだった」
氷河期でカチンコチンに凝り固まっていた夫婦の溝が一気に融解した瞬間だった。
令和の柔和の誕生だった。
そんなビッグバンを経て日常生活は少しずつ彩を取り戻しつつあった。お互い口にする事が少なくなっていた「ありがとう」や「ごめんね」が関係の良かった二人の時のように復活してきていた。
ランチの前夜、夫がにこにこしながら私に言った。
「明日はとても楽しみだね」
その屈託のない笑顔にもう陰りはなかった。
水入らずのランチの最中、終始にこやかに時が過ぎるなか、夫は私のことをまじまじと見つめながら言った。
「なんだか最近パナ子ちゃんはグレードアップしたっていうか……まあ、なんというか、その、ありがとう……」
キザに愛を語れない不器用な男の最大限のラブコールと受け取り、私は礼を言った。
「あのビッグバンが起きてからだと思ってる」と関係が変化したきっかけについての思いを伝えると夫は、名探偵コナンが謎を解いた時のようにハッとした表情で言った。
「そうだ、あれだ！」
この会話で、二人の関係性が復活したきっかけを、はっきりと共有できた事はとてもよかった。目に見えるような転換点だった。
よそ様には見せられない激しいぶつかり合いをした後、すぐに仲直りができたあの時、ほっとしたとかそんな生ぬるい感情ではなく、お互いの壁を一気に取っ払って急激に心がギュっと交わり合ったことは、私に快感さえ覚えさせた。
こんなやり方は誰にもおすすめできない。
でも我々はまたひとつ心を寄せるやり方を覚えたことは確かだった。
結婚して十年たった今、再び、新しい朝日が昇り始めた。
きっと私の性格は相変わらずだし、ぶつかる時も大いにあると思うけれど、それでも私たちなりのオリジナルな理想の夫婦像を目指してやっていきたいと思う。どんな熟年夫婦になっていくのか可能性は無限大。私は新たな楽しみを見いだした。
＊＊＊
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