メディアグランプリ

ケーキ屋はディーラー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:春日未歩子(2023年・年末集中コース)
 
 
「クリスマスケーキ、まだありますよ~」
サンタ風の赤い服を来て、若いお姉さんが、駅から降りてくる人に声をかけている。
今日は12月25日の20時。残りのケーキを売りさばきたいのが伝わってくる。
 
年末のお仕事、お疲れさまです。
 
心の中で、お姉さんに労いの言葉をかける。
私は、毎年クリスマスの時期になると、ウキウキするのではなく、そわそわしてしまう。
 
生まれた時から、ケーキ屋だった。
実家は、ペコちゃんで有名な不二家で、その当時は、地域で雄一、ケーキが買える店として繁盛した。
 
小学生の時に、他のお家には『ボーナス』というのがあって、子どもは何か買ってもらえているのを知った。
父親に、「うちには、なんでボーナスはないの?」と聞いたことがある。
「サラリーマンじゃないからね」
 
ふーん……
サラリーマンは何で儲けているのかわからなかったけど、うちはケーキが売れると儲かる、というのはわかった。
特に、クリスマスは、ケーキが一年で一番売れる時期だ。
物心ついた時には、予約されたケーキで家の一間が天井まで埋まると、お金の山として眺めていた。
他の子たちが、サンタに何をお願いしようかな、とか、何がもらえるかな、とウキウキしているのを横目に、
「サンタって、ペコちゃんだよ」
「プレゼントは、大人が準備しているんだよ」
と、口に出して言わないまでも、まったく夢のないことを思っていた。
 
そして、高校進学を考える時、稼業としてケーキ屋を継ぐつもりで、都立の家政科に入学した。
だって、ケーキ屋は、儲かるから。
 
ところが、家政科に入ってみて、趣味でお菓子づくりをするのと、商売をするのでは、わけが違う、というのに気が付いた。
お金にする、というのは、とても大変なことだ。
父親は、365日、朝10時から夜10時まで働いていた。
バイトの人に任せている時間はあるけど、毎日お店にいる。
果たして、私は、飽きずにできるだろうか?
 
いや、無理だ。
休みは、欲しい。
毎日、同じことをする、というのも、性に合っていない。
 
なぜ父は、続けることができたのだろうか?
不二家を始めた経緯は、父から聞いていた。
サラリーマンになってはみたものの、
1年目ですでに飽きて、仕事中に寝てしまうようになったらしい。
見かねた祖父が、不二家をやることを勧め、駅前の場所を借り、チェーン店を任せた。
それから、毎日、お店を開け続け、飽きていない。楽しそうでもある。
 
私にとって、飽きずに続けられるものは、何だろう?
高校2年でケーキ屋を諦めてから、社会科準備室に入り浸っていた。
そこには、司馬遼太郎が大好きな歴史の先生と、かつて社会運動をやっていた公民の先生がいて、先生自身の人生も含め、奇人変人の生きざまの話が聞けて面白かった。
こんな楽しそうなら、高校の社会の先生になる、というのもアリかも、と思いだした。
 
そして、公民の先生の机の中にパンフレットがあった、かなり尖った社会活動をしている大学に入学。
その後、大学2年からバイトで始めた、メンタルクリニックで、いろんな人の話を聞くのが面白すぎて、高校の先生にはならず、精神科の仕事に就くことにした。
 
周りの人には、「大変そうな仕事だね」とか、「よく話を聞き続けられるね」と言われる。
気が付けば30年以上、この仕事をしているが、未だかつて、大変だと思ったことがない。
その人がここまで生きてきた中で、どんなサバイバル能力を発揮してきたのかを知り、さらにストーリーを探っていくと、その人を突き動かすエネルギーの源泉が見つかる。
その源泉を見つけた時に、新しい生き方が始まることを、患者さんやクライアントと一緒に喜びあえる。
私にとって話を聞くことは、勇者と旅をして、人生を乗り越えるための道具を見つけながら、宝物を探しに行くような感覚なのだ。
 
そこで、父がケーキ屋を365日続けられた理由を考えてみる。
父は、お店を抜け出して将棋を指しに行くくらい、将棋好きで、4段の腕前だった。
その後、将棋に飽き足らず、株を買いだし、あーでもない、こーでもない、とデータ分析に勤しんでした。
 
と、いつものお店の風景を思い出す。
ケーキを作っている姿よりも、夕方になるとFAXの前に座り、ケーキの注文票を眺めている父の姿が浮かんだ。
頭に赤鉛筆を刺して、カレンダーや在庫を見ながら、数字を書き込んでいる。
まるで、競馬とかをやっているようなギャンブルおじさんの様相。
発注が済んだ後の父親は、満足げな表情だ。
 
ケーキは、それぞれの中身によって、賞味期限が違う。
冷凍ならそれなりにもつし、生クリーム系はすぐに売らなければならない。
自分のところで作るものは、お客さんの入り具合で調整できるが、
工場からの注文する量を間違えると、大変なことになる。
「ペコちゃんのほっぺ」という、新商品が出たときには、賞味期限が仕入れ日の一日なので、残った大量のほっぺが、自宅の冷蔵庫に入れ込まれ、朝ごはんになったことも。
私にとっては、ケーキ屋トラウマである。
 
イベントや、誕生日の多い日、天候にも左右される、この流動性のある発注作業というのが、実は、将棋や株のデータ分析と同じだったのでは……
 
そうだ、父は、ケーキ屋ではなく、ディーラーだったのだ。
父が、好きなことを仕事にしていたのだ、とわかって、ほっとした。
365日休まなかったのは、家族のため、とかでなはく、好きだったからだ。
結局、自分もサラリーマンを辞めて自営業になり、365日、仕事のことを考えている。
好きなことを仕事にできれば、湧き上がるエネルギーの源泉があるから、やり続けられる。
人は、人生の半分以上の時間、仕事をする。
その時間が楽しい、というのは、幸せなことだ。
亡くなった父親のケーキ屋人生も、幸せだったに違いない。
 
 
 
 
***
 
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2024-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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