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それが似合う私に


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記事:水戸 綾香(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「宝石は女の歴史よ」※1
 
これは林真理子さんが書いた小説『最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室』の中で、中島ハルコが言った台詞だ。
 
私はこのハルコの台詞をふと思い出し、うっかり買ってしまったのだった。
0.03ctのダイヤモンドと0.4ctの水晶が付いた指輪を。
 
もうちょっとだけ詳しく話すと、それは1mmほどのダイヤモンドが、無色透明な水晶の中に金色の針のようなルチル(鉱物)を内包したルチルクォーツという小さな石の周りをぐるっと囲った1点ものの指輪だった。
 
サイズ調整代を含めて、総額11万円。
 
私が1カ月間で使うお金よりも多く、さらに言えば今まで生きてきた24年間の中で一番高い買い物だった。それをよく考えもせずに、ほとんど衝動的に買ってしまったのだ。
 
確かにとても美しくて、素敵なデザインではある。
けれど、どこぞのブランド品でもなく、鑑定書もついていない。
 
それを売る人たちは、「間違いなく本物ですよ」というけれど、素人の私にはそれが本当に本物なのか、その値段が本当に適切なのか、全く分からない。
 
でも私はその小さくとも他にはない存在感を見せる美しい石に魅了され、
気づいた時には注文書にサインを書き終えていた。
 
「本当にあれでよかったんだろうか。もっとよく見て回ったら、さらに気に入るものに出会えたのではないか」と、私は帰りの電車で延々と考え続けた。
 
それもそのはず。11万円もする指輪を出会ったその日のうちに買ってしまうなんて、普段の私では考えられないほどあまりに思い切った行動だった。
 
「僕はね、それすごく良いと思うよ。とても君に似合っている」
 
「価値が上がることはあっても、下がることはまずないから安心して」
 
「それに長く使うことを考えたら、若いうちに買ったほうが絶対に得だよ」
 
と、確かに店の人たちは言葉が上手かった。これを読んでいる人には、巧みな言葉に乗せられてしまった哀れな人間に見えているかもしれないし、私も自分のことをそう思う節も少しある。
 
でも私はそんなふうにカモられるような、ちょろい女じゃない。
 
だって普段の私といえば、見方を変えれば、「どケチ」と罵られても良いくらい、お金に細かく、こだわる人間だ。電卓片手に買い物をし、レジでの表示金額が少しでも異なればその場で確認をし、納得できない場合には購入は絶対にしない。
 
だから騙されたとかそういうのではなく、間違いなく自分の意思で決めたことだ。衝動的ではあったけれど、私はあの指輪を欲しいと思い、絶対に逃したくないと思って買ったのだ。
 
でもなぜあれほどまでに惹かれたのか、私には自分のことが分からなかった。だって今まで本当に必要なものか、お得なものしか買ったことがない。
 
だから気になって、ルチルクォーツにという石について調べてみた。
どうもルチルクォーツは、古くから「成功をもたらす石」と呼ばれているらしい。
 
するとなんとなく、あの指輪に惹かれた自分のことが分かってきた。 本当にそんな力があるのかはわからないが、私はそんな迷信じみたことにもすがりたい気持ちだったのかもしれない。というのも私は今、人生の岐路に立たされているからだ。
 
こんなことを言うのは情けない限りだが、私は仕事で何の成果も出せていない。頑張っていないわけではない。と私は思っているが、現実では何も生み出せず、他の社員が必死で稼いだ売り上げを恵んでもらっているに過ぎない状況だ。恥ずかしくて、情けない。
そしてそんな状況がもう半年以上続いている。正直、もうあとがない。
 
私は今の仕事で成功したい。この仕事をこれからも続けていきたい。あなたに頼んでよかったと言われるような仕事をする人になりたい。有名になんてならなくて良いから、必要とされる人になりたい。それかせめて、いない方がマシと思われない人になりたい。
 
「それなら高価な石を買うのではなく、ためになる参考書でも、講座にでもお金を払って、技術を身につけなさい」と思う人がいるかもしれない。そしてそれはとても正しい考えだと思う。
  
でも私は今、自信がない。どう頑張れば良いのか、自分のやっていることが本当に正しいことなのか分からなくなってきている。そして、足を止めて、もうここで諦めた方が良いんじゃないかとも思い始めている。
  
でも諦めたくないから。自分が今歩んでいる道が成功につながっているんだと、この道を進んでいけば、憧れたものにたどり着けると信じていたいから、今にも折れそうな心をつなぎとめるために私はあの宝石に頼りたかったのかもしれない。
 
 私はルチルクォーツが持つ「成功」という言葉が似合う人間に私はなりたい。
  
「宝石は女の歴史よ」という台詞の後、ハルコはこう続ける。
「ひとつひとつに思い出が詰まっているものなのよ」
 
私は将来、この指輪を身につけるとき、あの時は本当にしんどかったけど、この指輪と一緒に頑張ったんだよねと笑えるようになりたい。
 
成功までの思い出を指輪に詰め込めるように、
私はこれからの人生をひたすらに生きていきたい。
 
 
 
 
※1 林真理子. 最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室. 東京, 文藝春秋, 2017, 159p.
***
 
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2024-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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