知覧を訪れてわかったこと。人はなぜ死にゆくことができたのか?
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記事:山下ゆき(ライティング・ゼミ)
みなさんは、知覧という場所をご存知だろうか?
南九州、鹿児島のなかでも、南の方にある「知覧茶」でも有名な場所。
そして、もう一つ忘れてはならないのが、太平洋戦争末期に特攻隊の出撃基地のひとつとなった場所であるということ。
「特攻隊」とよばれた若者たちが、人生最後の数日を過ごし、そして飛び立っていた場所、鹿児島・知覧。
先日、福岡から鹿児島を旅行したとき、はじめて知覧まで足を運んだ。
博多駅から鹿児島中央駅まで、九州新幹線で1時間半ほど。
そこから、知覧までレンタカーで1時間弱。
「人生のうちに一度は行くべき場所」という言葉がずっと記憶に残っていて、今回の旅行を計画するときに、「知覧に行ってみたい」と夫に伝えた。
ただ、そのときの私は、あまりに不勉強だった。
いや、「人生のうちに一度は行くべき場所」という言葉通り、そこに行ってみなければわからなかった、感じられなかった、という方が正確かもしれない。
目的地である「知覧特攻平和会館」周辺は、のどかな茶畑が広がっていた。
茶畑の濃い緑。
江戸時代に武家集落として設計されたという、「知覧武家屋敷」の美しい街並み。
歩道沿いには、きれいな小川(清流溝というらしい)が流れる。
お土産屋さんが並ぶ知覧町商店街を過ぎ、知覧特攻平和会館へ向かう道沿いには、多くの石灯ろうが並んでいた。
あとで調べたところ、石灯ろうは出撃された方々の慰霊のために、遺族や戦友の方などから献灯されたものだという。
町のいたる所に数多くの石灯ろうが並んでいた。
ここを切り取るだけでも、すばらしい景観なのだが、この町が伝えていることはそれだけではない。
私たちは、知覧特攻平和会館に到着した。
車を降りて、すぐに目に入るのは1機の戦闘機。
よく考えると、映画やドラマ以外で、実物を見るのは初めてだ。
大人ひとりが乗れる程度の小さな操縦室。思ったよりも小さい。
簡素な作りの機体は、これで長距離を飛ぶことはできるのだろうか? 途中で故障しないだろうか? と不安になる作りだった(実際、飛行途中に故障してしまうこともあったという)。
そこから石灯ろうを抜けて、特攻平和観音堂で手を合わせた。
観音様の中には、特攻隊員として戦死した兵士の名前が書かれた巻物が入っているという。
次は、三角兵舎へ。
文字通り、三角の小屋。
敵に気づかれないよう、杉林のなかに隠れるように建てられた小さな小屋だ。
隊員たちが出撃するまでの間、過ごしていた場所。
酒を酌み交わしながら隊歌をうたい、故郷へ送る遺書や手紙を書き、最後の時を過ごしていた。
二度と会えない大切な人を思い、布団にもぐり、涙した若者もいたという。
ここで、私はこの知覧を訪れる覚悟が足りなかった、と思った。
それくらい重く、苦しい現実を突きつけられた。
すでに胸が張り裂けそうだった。
ふたり分のチケット代1000円を払い、知覧特攻平和会館の中に入る。
場内に入ってすぐ目にしたのは、カメラに向かいにっこり笑う若い兵士たちの白黒写真だった。
明るく晴れやかな表情で、微笑んでいる。
死ぬことを覚悟した表情には見えない。
悲しみや恐れもあっただろう。
それでも、彼らの表情は、みな誇り高き顔に見えた。
平和会館の中には、1,036名の隊員の遺影や、家族・知人に残した遺書や手紙が並んでいる。
特攻隊員は17歳から32歳、平均年齢21.6歳。
今の高校生、大学生と同じ世代。
全員が私より若い年齢だ。
そんな若者たちが、ここから飛び立って行った……。
現実を突きつけられるのに、長い時間は必要なかった。
残された遺書や写真の前で、涙を流す人。
言葉を失って、立ち尽くす人。
「胸が締め付けられる」という言葉は、ほんとうに胸が締め付けられるのだと知った。
息ができなくなるほど、胸が苦しくなった。
視聴覚室で30分の上映があったので、最前列の真ん中に座って視聴した。
ここで何が起きたのか。
「特攻隊」とよばれた若者たちが、家族に残した手紙。
人生最後の数日を、どのように過ごしたか。
目にしたものは、ドラマではない。
「真実」なのだ。
涙が止まらなかった。
隣で夫も、涙を拭っていた。
周囲から、鼻をすする音がした。
私は最初「なぜ、死ぬと分かっていて特攻できたのだろうか?」ということが、不思議でならなかった。自分だったら、そんなことができるだろうか。
知覧を訪れて分かったことがある。
「自分が死んでも、残された人たちがきっと新しい日本を作ってくれる。」
自分の命と引き替えに託した、未来への思い。
彼らは、愛する人を、愛する日本を守るために死んでいったのだ。
彼らが死ぬことを覚悟した表情ではなく、明るく晴れやかな表情で、微笑んでいる理由がわかった気がした。
誰かが守ってくれた歴史のなかで、今の自分が生かされている。
そんなことを知覧は教えてくれている気がした。
帰ってから2つの映画を見た。
もう一度、自分なりに日本の歴史を受け止めたいと思ったからだ。
『永遠の0』
『俺は、君のためにこそ死ににいく』
どちらも、知覧を舞台にした映画だ。
そこには特攻隊とよばれた彼らの物語、彼らを愛した人たちの物語があった。
一人一人顔が違うように、一人一人の物語がある。
そして未来があった。叶えたい夢があった。家族や愛する人たちがいた。
私が生きる今日は、誰かが生きたかった未来。そんな言葉を思い出した。
たくさんの物語の上に生かされていることを胸に刻んで、今を生き抜くことが、私たちにできることではないかと思う。
「いい時代になったね」そう思ってもらえるように、今の私に何ができるだろう。
そして、私は次の時代に何を残せるだろう。
そんなことを思いながら。
***
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