夢の国でカレーライスをびしょびしょにする失敗談から、自分の考え方の枠組みを壊す!
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記事:馬場さゆり(ライティング・ゼミ2月コース)
私は夢の国が大好きで何度も訪れている。これは、夢の国での失敗談を友人のKさんに伝えた時の話である。
Kさんは私より少し年上の女性である。すごく慎重派で、石橋を叩いて渡らないタイプ。
反対に私は、石橋を叩かないで走って渡る、無謀なタイプである。
私はKさんに夢の国での体験を話し始めた。
以前、友人と2人で夢の国に行った時、カレーライスの専門のレストランでランチをすることになった。注文までに30分ほど並んで。先に友人がカレーライスのトレイを受け取り、次に私が受け取った。でも席がいっぱいで、キョロキョロして。
友人が「左側の方に席があるよ」って言うから、右側を見ていた私が、左側に向きを変えた。その時、トレイの上のジュースが倒れて、カレーライスに飛び散ってびしょびしょになった。もちろん、床もびしょびしょで。
周りの人達の、あ~あ、気の毒にどうするんだろう? という哀れみ視線。そして、友人からの、何やってんの! と冷たい視線。私は、情けなくて泣きたい気分で立ち尽くした。
するとすぐに、スタッフ3人が駆け寄ってきた。1人はレジ係のスタッフで、紙ナプキンを持って、「お怪我はありませんか? お召し物は大丈夫ですか?」と優しく聞いてくれた。それと同時に料理を提供するカウンターから2人がきて、1人は床掃除をはじめ、もう1名は私のカレーライスのトレイを持って去って行った。その後、掃除担当の方が颯爽と現れ、「すみません」という私に笑顔で「大丈夫ですよ」と言い、テキパキと掃除を完了させてくれた。
床掃除が終わると同時に、新しいカレーライスのセットをスタッフが持ってきてくれた。「お気をつけて」と笑顔で渡された。すごい失敗をして恥ずかしくて情けない思いをしたのに、まるで何事もなかったかのように、その日一日を楽しく過ごすことができた。
私はKさんに語り終えた後、いつも通りの反応が返ってくると思っていた。今まで私が話した人の大半は、「すごいね」「私も行きたい」であった。
しかしKさんの反応は違った。私の話を聞いた後、少し考え込んで黙り込んだ。
そして、ゆっくりと話し出した。
「私はその話を聞いて、恐ろしいと思ったわ」
えっ!! 恐ろしい? どこが? 私の頭の中は疑問符だらけとなった。
夢の国でカレーライスをダメにして、スタッフに助けてもらった話だけど?
「スタッフの人は、きっとあなたのような場面に何十回も遭遇していると思う。それで完璧に対処したんだよ。それだけ高いレベルの教育がされているってことが、ものすごいことで恐ろしいなって思ったの」
確かにあの場面で、スタッフの動きには、迷いや戸惑いは全くなかった。すでに待機していたかと思うほど早かった。高いレベルの教育というのは間違いない。
「それとあなたはカレーライスをダメにして、サービスをした夢の国が損をしたって思っているでしょう? それは違う。夢の国は全く損していない」
どうして? 新しいカレーライスを用意してくれたのに。損をしていないって、どういうこと?
「あなたはこの話を何回した? あなたはSNSをしていないけれど、もししていたら全世界に、この話が拡散するんだよ。夢の国が頼んだわけでもないのに、勝手に宣伝をしているってことだよ。この場面を見ていた周囲の人も、話を拡散しているかもしれない。そう思うと、すごい戦略だよ。夢の国は商売上手だね。本当の商売上手は、両方が損をしない。片方だけが得をするのは、商売としてまだまだだね」
なるほど!! 確かに!! 私は帰って来てから、今までに何回この話をしただろう?
そして、「私も行きたい」って、何回言われただろう?
頼まれてもいないに、勝手に夢の国の宣伝をしていたなんて。
なんだか少し恥ずかしい気がした。
Kさんは、恥ずかしがっている私を見て言った。
「その場で体験をしたら、感動するのは当たり前だよ。私は、第三者として客観的に話を聞いたから、感じ方が違ったんだと思う。だから、恥ずかしくないよ」
Kさんは慰めてくれたけれど、私は、なんだか自分の考え方が単純で小さく思えた。
1つの出来事には、それに至るまでの経過と、これからがある。私は、その場で見えたことばかりに気を取られて、それ以上のことが考えられていなかった。
自分の未熟さを思い知らされた。まさに自分の考え方の枠組みを壊した瞬間だった。
人と話をして相手の意見を聞くことは、自分の考え方の枠組みを壊して、新たな枠組みを手に入れることかもしれない。
私もKさんみたいな考え方ができる人になってみたい。
いや、待って、もし、この世の中がKさんみたいに考える人ばかりになったら、夢の国はガラガラになるかもしれない。
それは困る!!
やっぱり、私は素晴らしい体験を素直に感動して伝えたい。ただ、これからは自主的な夢の国の宣伝活動は控えたいと思っている。それは新たな考えの枠組みのおかげに違いない。
***
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