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子供の頃の私を癒してくれた、旅中の怪我の話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:淋代朋美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
やばい。
と思った瞬間、目の前の世界が真横になっていた。
次の瞬間、右肘と、左足の甲に強烈な痛みが走った。
 
夫と3歳の娘、家族3人で沖縄に旅行中だった。レストランでの夜食には三線ライブもあり、気分は上々で帰路についたところ、転倒した。振り返ると、目に入らなかったことが不思議なくらい、しっかりとした側溝があり、そこに落ちたのだ。
 
やばい、やばい……。
なんとなく、体感で、捻挫だろうと思った。
夜の間中アイシングして、なんとか明日には痛みが引かないかと願っていた。早く寝た方が回復が早いだろうとは思ったが、足の痛みもあり、なかなか寝付けなかった。
 
旅の工程は、あと2日間。明後日は東京に帰る日だが、明日は終日フリー。曇天予報で、プールって陽気でもないかなぁなんて話していたところだ。
万が一、足の痛みが引かなかったら、夫と娘2人で1日過ごしてもらうことになる。いや、無理だ。数時間2人で過ごしてもらったことはあるけれど、1日は、まだない。娘のトイレのサポートは? 昼食はどうする? そもそも1日何して過ごすの? どう考えても、詰んでいる。
無理なら、3人で、部屋でのんびり過ごすしかない。
せっかくの旅行なのに、私の不注意のせいで、貴重な1日を棒に振らせてしまうのも申し訳ない気持ちでいっぱいで、悶々とした。
さらに眠れなくなった。
 
そんな中、ふと、こんなことを思い出した。
前にも足の甲を捻挫したことあったなぁ、と。
それは30年以上前のこと。
小学生だった私は、なぜか突如できるようになったハンドスプリング(バク転の逆で、前に向かって回転する技。前転とびとも言われるらしい)の練習に夢中になっていたら、着地に失敗して、足の甲を捻挫してしまった。
痛みはそこまででもなかったので、その後、水泳教室にも行くという荒技をやってのけたら、すっかり腫れてし、全治2週間ほどかかってしまった。
 
だが、しかし。
この2週間が、私にとってはパラダイス! だった。
足に包帯を巻いて、片足引きずりながら歩くと、クラス中のみんなが集まってきて「どうしたの?」「大丈夫?」と心配の嵐である。教室移動があれば、「手伝うよ」と声をかけてくれたり、登校下校にも必ずお付きの人(失礼!)が現れ、ヒーローにでもなったかのような気分だった。
 
そう、私は、とことん、「心配される」が大好きな小学生だった。
何なら、学校の保健室も大好きだった。「頭が痛いです」と言おうものなら、授業中でも特別扱いしてもらえて、検温して平熱であっても、念の為保健室のベッドで寝かせてもらえる。何度も行ったものだから、いまだに、保健室のベッドの枕カバーがドラえもんの絵柄だったことをしっかりと記憶しているくらいだ。
さらに、「帰宅させる」と判断してもらった際には、母が必ず迎えに来てくれた。パートがある日でも、母が体調悪い時でも、必ず来てくれた。そして、家に帰ると布団を敷いて寝かせてくれたりお粥を作ってくれたりと、優しくしてくれた。私には、姉が一人、妹が一人いたが、その時だけは、私ひとりだけが特別な存在になれた気がしていた。
 
そうだ、私は、こうやって、心配されることで誰かの愛情を確認するような子供だったんだ。逆に言えば、心配されないと愛されていることを実感できなかったのだろう。
自分が「特別」な存在だと思えるのが、唯一、心配されている時、だったのだ。
 
大人になって一度だけ母に聞いたことがある。
「何度も保健室から呼び出しがあって、大変だったでしょ?」
 
母のこたえは、
「え? そうだったっけ?」
まさかの、覚えていない、という事態!
 
自分も親になったからわかる。
親なんて、きっと、そんなものだろう。
心配かけられたことや、手間かけさせられたことなんて、なんてことない。
ただ目の前の子供に一生懸命なんだ。大変だったことなんて、記憶に残らないくらいに。
どんな時だって、兄弟姉妹が何人いたって、子供はひとりひとりが特別な存在なんだ。
 
あの時の私に、教えてあげたい。
わざわざ心配されるようなことしなくたって、あなたはちゃんと愛されているよ、大丈夫だよ、と。
 
そして、今、思う。
私は、いつの間にか、夫と娘にとって自分が「特別」な存在であると、自覚していたんだなぁと。私がいないと、1日が回らないと思っているんだもの。
夜中にそんな自分に気づいて、クスッと笑ってしまった。
怪我や病気で心配されるより、一緒に楽しい時間を過ごせる方がよっぽど「特別」なことだ。
30年以上も時が経てば、人間大きく変わるものだなぁ。
私も、夫と娘の2人のタッグをもう少し信頼して、過保護を手放そう。
そんなことを思っていた。
 
夜中の3時頃まで時計を見たのは覚えているが、気づいたら6時になっていた。
あれから少し眠れたみたいだ。
 
足はというと、まだ痛い。
そこまで腫れてはいないが、青くなっていて、少し動かすだけで激痛が走る。歩けない。
 
朝一番で、近隣の整形外科に足を運んだ。
東京に戻ってからの通院で良いと言ったのだが、心配性の夫が「それなら、飛行機変更して、今日東京に戻る」というので、仕方なく。
捻挫、全治1週間といったところだろうと予想した。
 
結果は、骨折。
全治4週間。
 
は?
 
やばいどころじゃないじゃない!
 
 
 
 
***
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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