メディアグランプリ

手を動かさずに、お昼ご飯を作った話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:関谷陽子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
2020年4月、新型コロナウイルスの影響で、日本に最初の緊急事態宣言が出された。いろんな立場の人で、色々な大変さがあったと思うが、その中に「毎日3回、食事を作る」ことに頭を抱えた主婦が多くいた。特に家族が多いと、さらに子どもがいると、その大変さは増す。
仲の良いママ友たちとのグループラインでも、当時は「毎日の食事の支度が大変」という話題で持ちきりだった。
 
我が家は夫と息子2人の4人家族。しかし、私にとっては特に大きな変化はなかった。料理が好きだから、ではない。料理は好きだが、あくまでもそれは自分が作りたいものを、作りたい時に作るのが好きなだけで、やはり家族のことを考えて、毎日の仕事のように料理をするのはめんどくさい。嫌になることも多い。
それではなぜ、この時に大きな苦痛を感じなかったのかというと、慣れていたからだ。
 
 
我が家の息子たちは、当時2人とも不登校をしていた。だからすでに、毎日3回食事の支度をすることが、私にとって日常になっていた。
 
 
あれから月日が流れ、新型コロナウイルスも5類に移行し、マスクをつけていない人も増えた。だが、我が家は相変わらず、緊急事態宣言下の生活と、あまり変わらない。
むしろ、コロナ後も夫が在宅勤務になった分、コロナ前よりも家庭の人口密度は増えた。
長男は大学に籍を置くようになったが、高校と同じように通信制を選んだので、基本的に家にいる。次男は中学3年生。不登校8年目のベテランになった。
 
不登校8年目ともなると、その間にいろんな試行錯誤を試してきた。途中で、朝食と昼食は自分たちで準備をしてもらうようにしたため、私の負担はぐんと減った。はずだった。ところがこの数ヶ月くらい、息子たちは自分で食事を準備することがめんどくさくなってきたようで、私に甘えるようになった。
気持ちはわかる。私だって、作ってくれる人がいたなら、作って欲しい。
めんどくさいが、仕方がない。ただ、作って欲しい時は、できれば私が自分の食事を準備するタイミングで言って欲しいのだ。
 
正に今日も、私が昼食で自分のためにラーメンを作り、食べ終わった直後だった。それまで何も言わずにアニメを見て笑っていた長男が、「僕もラーメン食べたいな。作って」と言ってきた。
 
だから、なぜ、私が準備をしている時に言わないのか……。二度手間ではないか。
 
さすがに面倒だったので、断った。断ったが、どうしても作って欲しいと食い下がってくる。うーん、どうやら諦めそうにない。でも、めんどくさい。どうしようかな……。
 
その時ふと、「この子、作ってあげるような雰囲気を出して、口頭で少しずつ指示を出したら、それに気付かず自分で作るんじゃないだろうか」という思いつきが頭をよぎった。発達障害のある長男は、かなり素直で純粋なところがある。もしかしたら、いけるかもしれない。
 
元来いたずら好きの私は、にやけてしまいそうになる顔を引き締めながら、「分かった、いいよ」と返事をした。「やったー!! ありがとう!!」という長男に、「じゃあまず、せめてお鍋にお水を汲んでくれるかな。450ミリリットルね」と伝えてみた。案の定、「ありがたいなあ〜」と言いながら、ウキウキと計量カップで水を測り、鍋に注いだ。
「じゃあね、その次は、火にかけて」「はーい」「沸騰したら、教えてね」「はーい」
なんということだろう。想像していたものの、怖いくらいに思った通りに動いてくれる。しかも機嫌良く。しかも、なぜか私に感謝をしながら。
そうだ、長男は「ありがとう」を伝えるのが本当に上手だ。ゴミを出してくれる時も、ゴミを渡しただけで、「ありがとう」と言ってくれる。いい子に育ってくれたなあ。
 
そんな風に思っていると、どうやらお湯が沸騰したらしい。「沸騰したよ〜」と言いながら、ダイニングに座っている私と交代しようと思ったのだろう、近づいてくる長男に対して、「じゃあね、そこにある麺を、お鍋に入れて」と伝えたら、「あれ……? なんかさ、これさ。え? どういうこと?」と。どうやらここで気がついたらしい。
 
お互いに顔を見合わせて、爆笑した。長男自身、言われた通りに動いていたことが面白かったようだ。そして、「お母さんねえ、遠隔操作できる能力があるんだわ。知らんかった?」と言うと、「まじかーーー!!」と笑いながら、自分で麺を茹で始めた。「茹で終わったら、どんぶりに入れて、スープを溶かすんやで」と言うと、「さすがにそこは分かるよ」と言いながら、どんぶりにハムと海苔を乗せて、運んできた。
 
 
 
今まで何度もやりとりをしてきた、ご飯作って、いやよ自分で作れば、のやりとりだが、まだまだ工夫の余地があったようだ。次回、同じようなやりとりをしたら、長男はどんな風に反応するかな。次男は同じ手では難しそうだから、次男とのやりとりはどんな風にするのがいいか、また考えてみよう。世間では、今日がゴールデンウィークの最終日だけれど、明日からも、基本的に我が家はしばらく、お家生活だろうから。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2024-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事