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雑居ビルの地下で、大人の夢の国がひそやかに開かれていた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:つたちこ(ライティング・ゼミ)

一度は行ってみたいけれど、なかなか実現できない場所、というのは結構あるものだ。
大抵の場合は、お金がかかるからだったり、場所が遠すぎたり、あるいは時間がかかりすぎるから、とか理由はいろいろ。

でも、どんなに行きたいと望んでも行けない場所もある。
お金も出せる金額だし、場所も都内で、時間的にもまったく問題ない。だけど、私一人ではたどりつけない場所。
それが『R』。
『R』は、馬肉専門のレストランだ。
レストランなのに、なぜたどりつけないのか。
それは、場所はもちろん、電話番号すら公開していないから。
そう、『R』は会員制レストランであり、会員か会員同伴でないと入店できないお店なのだ。

『R』が「やばい店だ」といううわさは、開店当時から実際に行った人たちのブログなどで話題になった。
あまりにおいしすぎて「ばかになる」「言葉が出なくなる」のだという。

なんだそりゃ。
私も行ってみたい!

とはいえ、会員ではない私にはどうしても手が届かないお店。
もんもんと、いつか行ってみたい……と「言葉が出なくなった」人々のレポートを見ながら思っていた。

ある日、Facebookを眺めていると、『R』に行った、という写真がタイムラインに流れてきた。
「えっ!? うそ!!」
写真をアップしていたのは、友達のエリちゃんの旦那さんだった。

まさかまさか!
エリちゃんに聞いてみると、「うん、ダンナは『R』の会員だよ」とあっさり答えが返ってきた。
こんな身近に会員様がいたとはーー!!!

「もしできたら、一度連れていってもらえないかな!? どうしても一度行ってみたいと思ってて!!!」
と熱く頼み込むと、いいよ! 頼んどくね! とあっさり快諾された。
小躍りする私に「とはいえ、すぐには予約が取れないから、取れた機会に連絡するね」という返事が返ってきた。
そうか、会員様でもそうそう予約がとれないくらいの人気なのか……。
ますます『R』への期待が高まってしまう。
いつまでも待ってるから!! と返事をしたまま、1年ほど経ったろうか。

年末のある日、エリちゃんからLINEが入った。
「年始に『R』の予約取れたけど、行く?」
「いく! いくいく!! 何があっても絶対いきますとも!!!」

年明け早々の週末、その日がやってきた。
エリちゃん夫婦とは最寄り駅で待ち合わせた。
さっそく行きますか! と連れられて行ったそこは、ごく普通の雑居ビルだった。
特に気の使われていない感じのなんてことのないビル。古びたコンクリートの壁。さびた手すりのある階段。青白く光る蛍光灯。
慣れた様子で階段を下りるエリちゃん夫婦の後をついていくと、唐突に大きな木製のドアがあらわれた。
もちろん、看板はない。

「こんばんはー」
大きなドアを開けて足を踏み入れたそこは、外のそっけないビルの中とは思えない空間だった。
天井が高く開けた空間に、長い木製のテーブルがどんと一つ。12,3人は座れるだろうか。
オープンキッチンがテーブルのすぐ隣にあり、お店の人たちがせっせと準備をしているのがまる見えだ。
天井からはオレンジ色のライトがいくつも下がり、なんだかキラキラしている。
特別明るすぎるわけではないのに、お店全体がなんだかまぶしくて、きょろきょろ見渡しながら、何度も瞬きしてしまう。

ここが、あの憧れの『R』なのだ!

会員であり、常連といっていいほど来店しているエリちゃんの旦那さんは、慣れた様子で案内された席に座り、我々もおずおずと後に続く。
メニューを開くと、飲み物だけが書いてある。
このお店の食べ物はすべて店主さんにおまかせのコースで出てくるのだという。
若干緊張しながら、まずは乾杯。

さっそく最初の料理が出てきた。
年明けということもあり、小さな白みそのお雑煮、という意外性のあるものから始まった。
温かくおいしい出汁でおなかを暖めて、受け入れ準備を整えてください、という。
なんの準備かといえば、もちろんこの後に続く、馬肉の受け入れ準備だ。

その後、いよいよ馬肉料理が出てきた。
馬のお寿司、そして馬刺し。赤身から始まり、徐々に脂ののったものへと何種類も続く。普通の切り身や、紙のように薄く繊細な刺身、角切りなど、素材によって形も様々だ。

おいしい。
なんておいしいんだ。
口に入れた瞬間、思わず背筋がピンと伸びてしまう。
テレビで聞いたようなフレーズだが、口に入れたとたんに脂が体温でとけて旨みだけを残して消えてしまうのだ。
チープな言葉でしか伝えられない自分が悲しくなるが、本当のことだから仕方ない。

『R』のひとさらは、基本的にひとくちか、多くても2、3口で食べきれるくらいの量で出てくる。
お寿司なら小ぶりなものが1貫、馬刺しならひときれだ。
最初のうちは「たったこれだけ?」と物足りない印象になってしまう。

そのかわり、食べ終わるか終わらないかという絶妙なタイミングで、次のお皿がでてくる。
ひとくち分ずつ出してくれるからこそ、温かいものは温かく、冷たいものは冷たいまま、口に入るようになっている。
つまり、私たちがその料理を楽しむのに、最適な状態を見計らってテーブルに持ってきてくれるのだ。

そして、テーブルにひとくち分の料理が置かれるたびに、店主の方がその料理がどういうものかを説明してくれる。

この部位は馬肉で一番おいしいところです! うちは一番おいしいのを一番最初に出すんです。
このお肉が手に入るのは僕だけです。
ここの部位はこうやって食べるのが一番おいしいから! 

なんて力強い言葉だろう。
どれだけこのお店の料理に自信をもっているかが伝わってくる。
食べる前にそんな話を聞いたら、わくわくして期待せずにいられない。
そして、その膨らんだ期待のまま目の前の料理を口に入れると、期待を上回るおいしさが待っているのだ。
おいしさで感動する、というのはこういうことか。

その後も馬肉のてんぷら、煮物、そして、口直しのようにみずみずしい野菜料理が入り、そのあとは馬肉のロースト。
ひとくちサイズの、めちゃくちゃおいしいものたちが、次々と目の前に置かれていく。

けして急かされているわけではないのだけど、あまりに目まぐるしく次から次へとおいしい料理がやってくるうちに、徐々に無口になってしまった。
今までの人生で最高レベルのおいしいものが連続しすぎて、脳がオーバーヒートしてしまったような感覚、とでもいえばいいのだろうか。
後から考えると、これがまさに聞いていた「ばかになる」「言葉が出なくなる」 状態だ。

そしていよいよデザートまで、全部の料理が出終わったとわかったとき、何とも言えない気持ちになった。
おいしいものを食べすぎて、感覚がぼんやりしているけれど、圧倒的な満足感。
もう素晴らしい時間が終わってしまい、このお店を出なければならないのだ、というさみしさ。
そんな風に思わせてくれたお店は、生まれて初めてだった。

ああ、そうか。
ここはおいしいものが大好きな大人のディズニーランドなのだ。
大胆なアトラクションでお客さんをあっと言わせ、一方で繊細なきめ細かなサービスを徹底して気づいた人を感動させる。
目の前に次から次へとキラキラとしたパレードがやってきて、けして飽きさせない。
自分たちのサービスに自信があふれ、そしてその自信を裏付けるほど圧倒的な素敵なものをたくさん持っている。
人々はそこを訪れることを熱望し、そして一度でも訪れた人は夢の世界を堪能し満足してその国を出る。

東京の雑居ビルの地下には、おなかを満たすだけではない最高級のエンタメが詰まっていたのだ。

名残惜しく思いながらコートを着て、お店の大きなドアから外に出たとたん、行きに見た雑居ビルの階段が、なんだか別のもののように見えた。
『R』を知る前と、知ってしまった後、私の世界が変わってしまったのに違いない。
思い出しただけでも、多幸感があふれてくる。
いつかまた行けるだろうか、あの私の夢の国へ。
エリちゃんに頼み込むしか、訪れる方法がないのだけれど……。
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2017-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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